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風俗探偵 千寿 理(せんじゅ おさむ):第19話「127匹対2人! そして…宿命のヤツらとの再会」

 颯爽さっそうと両手に二丁の自動拳銃ベレッタM92を構えて現れた鳳 成治おおとり せいじに、数匹のオニどもが飛びかかった。

「バンッ! バンッ! バンッ!」

 あっという間に、さっきの2匹を合わせて5匹のオニをほおむってしまった。一発も外しちゃいない…
「ヒューッ!」
俺は口笛を吹いた… なんちゅう腕前なんだ、コイツは…
 オニどもも飛びかかるのを少し躊躇ちゅうちょするようになった。

おおとり、何でここへ来たんだ。この件は俺に任せたんじゃなかったのか? 特務零課とくむぜろかの課長のお前自らが、こんなヤバい所に単独で来たのか?」

 俺も黙っておおとりの活躍を見ているだけじゃない。しゃべりながらも素手でやはり10匹ほうむった。しかも、目は再び閉じたままでだ。
 おおとりが現れた時だけは驚いて目を見開いたが、頭の中で口うるさいりん 大人の指導のおかげで、視覚だけに頼らずにました聴覚と臭覚に加え、空気の流れを肌の表面の触覚で読み取って、敵の動きだけで無く置いてある物の配置なども全身の感覚で判別出来る様になっていた。
 俺はすでに、視覚が無くても十分以上に戦える事を証明していた

「ああ、俺だってそのつもりだったさ。
 だが黙って傍観ぼうかんしている訳には行かなくなったんだ。川田 明日香あすか誘拐ゆうかいされた…」
おおとりは、オニどもから目を離さずに俺にしゃべった。

「何いっ?」
 俺はまたしても目を開いて、旧友の鳳 成治おおとり せいじの顔を見た。
あれほど、コイツに頼んでおいたのに…

「で… お前がここにいるって事は、明日香はここに連れ込まれたんだな?」

「その通りだ。彼女の服に付けておいたGPS発信器で、ここが判明した。
 お前が今夜ここへ乗り込む事は予定通りだったから、この周辺一帯は俺の特務零課とくむぜろかだけではなく内調(内閣情報調査室)の他課の特殊捜査官連中も動員して封鎖し、一般人の立ち入り禁止区域にしてある。
 そうとは知らない『地獄會議ディーユー ホエィーイー』の誘拐担当の連中が、堂々と川田 明日香を乗せた車を事務所の地下駐車場に乗り入れやがった。
 うちの内調の監視下で図々ずうずうしくもな。
それで、報告を受けた俺が自ら乗り込んで来たんだ。
 お前とは昔からのくされ縁だし、相手が魔界の者となれば陰陽師おんみょうじでもある俺しか役目はつとまらんからな!」

 そうしゃべりながらも、おおとりは二丁拳銃をねらいをはずす事無く撃ちまくってやがる…
まったく、なんて物騒ぶっそうで危ない公務員野郎だ。
 俺も苦笑しながら、この恐ろしい幼馴染おさななじみに負けじと素手でオニどもを片付けていく。
もう二人で、総勢127匹のオニの半数以上は片付けたぜ。

その時だ…

「ブッモオオーッ!」

 このフロアを文字通りるがす程の大音響の雄叫おたけびが響き渡った。
 俺にはすで馴染なじみの雄叫びだったが、驚いたおおとりの拳銃を撃つ手が止まった。
 それだけでは無く、俺とおおとりむらがり寄せるオニどもの攻撃までもが止まった…

「あんた達! ザコはどいてなっ!
そいつらは、お前達にかなう相手じゃないよっ!
今からミノタウロスのバリー様が通るんだ!
邪魔だから道を開けなっ!
 白虎びゃっこおーっ! 今度こそ私達二人がお前を仕留める!」

 今度は、まるで美しい歌声の様な女の声がフロア中に響き渡った。
この声も俺には忘れる事の出来ないものだった。

「ライラにバリー… 性懲しょうこりも無く、また俺の前に現れやがって」
 そう言いながらも俺のほほには怒りや恐怖では無く、笑いが浮かんでいた。実際に俺は二人の声を聞いて嬉しくて仕方がなかったのだ。
 俺にとって、命がけで戦った宿敵ともいえる二人の怪物バリーと美しい相棒のライラ…
バリーは俺をあと一歩で殺しかけた強敵…
 そして、ライラの妖艶ようえんな美しさとなまめかしい声は、俺のオスとしての本能をくすぐる…俺は実際にライラの魅惑的な声に反応して勃起ぼっきしていた。

「何だ…? あの空気を震わす猛獣の様な雄叫びと、この男心を狂わす様な響きの女の声は…?
ライラとバリーだと? お前、何言ってるんだ…
 ライラっていう女は榊原さかきばら家の庭からまんまと逃亡したが、あのミノタウロスはお前に倒されて死んだはずだぞ…
 ヤツの切断された首以外の胴体は、俺の特務零課とくむぜろかで回収して現在調査中だ…
これは… いったい、どうなってるんだ?」

 おおとりは両手の拳銃を撃つのはやめたが、いつでも撃てるように構えたままで誰にともなくつぶやいた。

「ふっ、あれはライラとバリーに間違いない。白虎びゃっこの俺には、このフロアに入った時から匂いで分かっていた。
 お前の言う様に、バリーは確かに榊原さかきばら家の庭で俺がとどめを刺した。どういう理由でかは俺にもさっぱり分からんが、バリーは生き返ったようだな。
へへへ、面白いじゃないか… 
 これで分かったのは、バリーの野郎は正真正銘しょうしんしょうめいの不死身ってこったな。首一つからでも再生しやがるってか…
まさしくバケモンだな。
だがこれで… 俺はもう一度、ヤツと差しの勝負が出来るぜ。」

俺の顔には嬉しそうな表情が浮かんでいたのだろう。
おおとりはうんざりした顔で俺を見て言った。

「またお前の悪い癖だな…
ピンチになるとニヤニヤしやがる。
 お前は楽しいか知らんが、このオニどもの態度を見てみろよ。
 こいつらライラの叫び声を聞いた途端とたん、彼女の命令通りに攻撃を止めちまったぜ…」

「はん… いよいよ真打しんうちの登場ってわけさ。
 ライラにバリー、前と違ってさらにパワーアップした満月真っ最中の俺を見て驚くなよ。
おおとり、お前は下がってろ!」
 俺と後ろに下がった鳳 成治おおとり せいじは、まだ60匹は居る攻撃を止めた目の前のオニどもが申し合わせた様にサッと左右に分かれ、道を開けるのを見た。

そして…
 そのオニ達の作り出した花道はなみちの真ん中には、ぴっちりと身体にフィットした黒革のライダースーツに身を包み長い黒髪をアップにいあげた美しいライラと、宿敵しゅくてきバリーの半獣半人の姿があった。

白虎びゃっこーっ! 覚悟しな!
生まれ変わったバリーが、今からお前の息の根を止めてくれる!」

「ブゥモオオーッ!」

 ライラの声に続いて、またもや空気を震わせるほどの雄叫びを上げたバリーが俺の方へ向かって一直線に突進して来た。

「来いっ! バリー!
不死身同士の戦闘再開のゴングだ!」

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