【小説】 僕と悪魔と彼女… : 第5話「悪魔の契約完了… 『魔弾の射手』誕生す!」
「おい、マンティ… これじゃあ我が主への生贄として供えられないよなあ…」
ガイラの声だろうか…?
声が聞こえているって事は…僕はまだ生きてるのか…?
「当り前だろ、ガイラ。あんた、やり過ぎなんだよ…
どうするんだよ? この処女はアタシが見つけて来たんだよ。また美しくて汚れを知らない乙女を見つけなきゃいけないじゃないか… そう簡単じゃないんだよ!」
これはカマキリ女のマンティか…? ザミエルを真っ二つにしやがったヤツ…
ザミエルは死んだんだろうな…
ザミエル… 変なヤツだったな… でも嫌いじゃなかった… いつもエラそうだったけど、チョコ好きで可愛い所もあったんだ…
僕が4月4日にアイツを捕まえさえしなければ、こんな事には…
ごめんな、ザミエル… 本当にごめん…
「言いたい事はそれだけか?」
「はっ… この声は? ザミエルか? お、お前…生きてたのか?」
「お前なあ、俺を誰だと思ってるんだ? 俺がこれくらいで死ぬわけないだろ…
お前らみたいな弱っちい人間じゃ無いんだぜ。まあ、手痛くやられちまったのは確かだがな。」
ザミエルらしいエラそうな科白だった。僕は少し安心した。
「良かった… お前だけでも助かったんなら… 僕と…大場さんは、もう…ダメだから…
ああ、大場さん… ごめんよ… 僕が護るどころか、僕を護るために君が死んじゃった…
な、何でこんな事に…」
「大河… 悔しいか? お前、その娘が好きだったのか?
確かに、その娘は人間のメスにしちゃあ見事な最後だったな。死なすのは惜しいな…」
ザミエルにしては珍しく、人間の大場さんを褒めてやがる。
「ああ… 大場さんは僕がずっと憧れてた女子なんだ…
こんな形じゃ無く、もっと別な知り合い方をしたかった… 僕の彼女になって欲しかったんだ…
くそお… あの化け物どもめ! 大場さんを返せ! 生き返らせろよ!
僕は死んでもいい… 彼女だけは…助けて… 神様…」
でも、僕の下に倒れている大場エリカの身体は徐々に体温を失い、冷たくなっていく…
彼女の命が血と一緒に流れ出してるんだ…
「その娘を助けたいか、大河…?」
ザミエルの問いかけが絶望の最中にある僕に聞こえてきた…
「なに…? 何だって?
ザミエル、お前…そんな事が出来るのか?」
「俺は悪魔だぜ… しかも、とびっきり上級のな。出来無い事じゃない…」
「な、なら… お願いだよ! 大場さんを助けて…ザミエル…」
僕は必死の願いを込めてザミエルに訴えた…
「だが、まずはお前の身体だ… それにしても、ひどい事になってんな…
右目に加えて、両腕を肩からごっそりと持ってかれちまってる… 人間のくせにそんな身体になってもまだ生きてるお前の方が、俺よりもよっぽど悪魔のようだぜ。
ふん、これならいけるかもしれんな…」
ザミエルがそう言った時だった…
「ん…? おい、ガイラ。この上級悪魔殿とオスの人間がまだ生きてやがる。なんかゴニョゴニョと話してやがるぜ。」
これは魔物のマンティの声だ。しまった、気付かれた…
「何…? ホントか? ザミエルは悪魔だからまだしも、小僧の方は人間のくせに信じられん生命力だな…
だが、放って置いても間もなく失血で死ぬだろうぜ。
それでだ、マンティ… さっきも言ったように小僧も間もなく死ぬだろうし、娘はもう死んでる事だ。
どうだ、我が主には別の童貞と処女を捜す事にして…俺とお前でこいつらを喰っちまおうぜ。主には死人は捧げられんしな…」
ガイラがマンティに対して恐ろしい事を言い出した。
その提案に対してマンティがすぐに返事をした。
「確かに… それが良さそうだな。アタシはまた見目麗しい処女を捜すし、アンタは童貞を調達するって事にして、腹も減ってるからこいつらを喰っちまうってアンタの提案にアタシも乗ったよ。
じゃあ、アタシはこの童貞君をもらうよ、いいだろ?」
「ああ、いいぜ。俺はまだ冷え切ってないこの処女の死体を死姦してから食う事にする。へへへ、じゃあ…冷めちまう前に食っちまおうぜ。」
ガイラとマンティは合意したらしく、こっちへ向かって来る。
だめだ、このままじゃ…僕も大場さんの遺体も食われてしまう…
「ザミエル、何とかしてくれ…」
僕はさっきザミエルの言った事に最後の望みをかけるしかなかった。
必死な気持ちでザミエルに訴えた。
「大河… お前とその娘を助けるためにはな。
お前が俺と『悪魔の契約』を結ぶことが必要だが… それでいいのか?
強制は出来ん、お前が心から俺との契約を望まん限りはな…」
「悪魔の契約…? それって… 僕はもう、人間に戻れなくなるのか…?」
僕は恐る恐るザミエルに尋ねた。
「ああ、そうだ。お前は普通の人間では無くなり、魔界に関わる者として生きる事になる。今後は人間としての普通の生活は望むべくもない。
その覚悟の上で、お前が心の底から俺との契約を望んだ時にだけ『悪魔の契約』は結ばれる。
言葉だけでは駄目だ…」
僕はザミエルの無慈悲ともいえる声で語る話を聞き、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「それじゃあ… 僕は人間として生きる事も、安らかな人間としての死を迎える事も出来無くなるのか…?」
「ああ、その通りだ… 人間としての生活も死も無いと思え。」
「究極の選択かよ… そんなの選べないよ… 父さんや母さんに何て言えばいいんだ… いっそ僕がこのまま死ねば、そんな苦しみは…」
腕があれば頭を抱えているところだったが…笑える事に、僕には両腕ともすでに無かった。
その時、僕の身体が宙に浮いた。持ち上げられたのだ…
「まだなんか喋ってやがったぜ、この童貞君と上級悪魔野郎が。」
僕の身体を、ピンク色をしたカマキリの鎌で軽々と持ち上げながらマンティが言った。
「美味しそうな童貞君… 童貞を奪って死ぬほどの快楽を与えてから、アンタを食ってあげたかったけど…
もうアタシ、腹が減って我慢出来ないのよ… ごめんね…」
「俺はこっちの処女のお嬢ちゃんの死体に、俺のぶっといモノをぶち込んでさんざん犯してから食っちまおう… それじゃあ、始めるか。」
ガイラの方を見た僕の残った左目に映ったのは… 可哀そうな大場エリカの遺体に覆いかぶさったガイラの、股間にそそり立つ巨大な男性器だった。
それは…1mはあろうかという巨大さに加えて、形状と言えば吐き気がするほどのおぞましいモノだった。表面を覆うギザギザの突起がイソギンチャクの様に蠢き、色もテレビで見た事があるイカが体表面の色を様々に変化させるのに似て、見ている間にもいやらしい変色を繰り返している。
そのおぞましいモノで… 遺体とはいえ、憧れの大場エリカさんの身体を汚そうとしているガイラの姿を見た僕は、自分が今まさにマンティに食べられようとする事よりも怒りで頭の中が真っ白になり左目に映る光景が、眼球を失った右の眼窩から流れ伝う血で真っ赤に染まった…
「ザミエル… 聞こえるか…? 契約する…
僕は…お前と悪魔の契約を結ぶ…
お願いだ、ザミエルっ! 僕と契約を結んでくれえっ!」
その時だ…
窓の外に広がる真っ暗な夜空に、眩しいほどの光が迸った。
血まみれの部屋の中が青白い光で照らされた。凄まじい稲妻が窓の外を走ったのだ。
「バリバリバリーッ、ドッカーンッ!」
光ったすぐ後に鳴り響く雷の大音響が、部屋中を地震の様に揺るがした。
「我が名はザミエル… 魔界の射手…
我… 汝、井畑大河の心よりの我との契約を望む声を聞き届けた…
ここに、我と汝との契約を結ばん…
我、魔界の射手ザミエルと、汝…人間 井畑大河の契約は完了した…
我が両腕と右目を汝に与えん…」
今まさに、カマキリの頭部の巨大な顎を開いて僕を食べようとしていたマンティの動きが、凄まじく鳴り響く雷の大音響に怯んで止まっていた。
そして、ヤツが僕を食べる行為を再開しようとしたその時だった。
僕の右目が再び見えるようになった…
そして、ガイラに奪われた両腕が一瞬で再生していた…
色白の僕の肌とは異なり、肩の付け根まで真っ黒な色をしたしなやかだが強靭な筋肉を持つ両腕が…
それはまるで、ザミエルの身体の色の様に真っ黒な腕だった…
僕はマンティが僕を持ち上げていたピンク色の鎌の左肘に当たる部分に、再生した黒い悪魔の右手を手刀にして叩きつけた。
「グシュッ!」
嫌な音と感触と共に、マンティの左肘は僕の手刀の一撃で切断された。
「グギャアアッ! アタシの腕があっ!」
反対側の右の鎌で、僕に切断された左肘を押さえたマンティが後ずさっていく。
マンティの絶叫に今まさに大場エリカの遺体を犯そうとしていたガイラが、何事かと腰を浮かせて僕達の方を見ている。
良かった… まだ、彼女の美しい遺体は汚されていない…
その時、ザミエルの叫び声が部屋中に響き渡った。
「大河っ! お前の利き腕を敵に向かって構えろ!
そして、お前の頭に武器を思い描くんだ! 何でもいい!
ただし、飛び道具だぞっ! 急げっ!」
僕はザミエルに言われるままに、右手をガイラに向かって差し出した。
そして、頭に僕が大好きなアニメの登場人物の愛銃である「357マグナム」を思い描いた。
次の瞬間、それは僕の黒い右腕の掌中にあった…
ズッシリとした重さの、真っ黒だが鈍い輝きを放つ「357マグナム」だった…
「狙えっ、大河! その銃でっ!」
ザミエルが吠えた。
「で、でも… ダメだよ、ザミエル…
僕は銃なんて撃ったこと無いんだ…
こんなすごい銃が、当たる筈が無いよ…」
僕は自分でも情けないが、この期に及んで尻ごみをした。
「バカ野郎っ! お前の両腕を何だと思ってる⁉
俺の腕なんだぞ、そいつは!
お前はもう、ただの人間じゃ無い! お前は『魔弾の射手』になったんだっ!
俺の右目で狙いを定めて、その銃を撃てっ!」
僕は叫んでいるザミエルの方を見た。
そこには下半身を断ち切られた上に両腕を肩から失ったザミエルが、弱々しくコウモリの羽根で羽ばたいて空中にフラフラと危なっかしく浮かんでいた。
その右目も空っぽだった…
「ザミエル… お前… 自分の両腕と右目を、この僕にくれたのか…?」
僕の左目から涙がとめどなく溢れ出して流れ落ちた… でも、再生した右目からは一滴も涙は出て来なかった…
「泣いてる暇があったら、狙って撃てえっ!」
ザミエルの叫び声が僕に決心させた。
「我が名は、大河…
魔界随一の射手ザミエルの右目と両腕を受け継ぎし者…『魔弾の射手』なり…
喰らえ、我が渾身の魔弾をっ!」
僕の口が勝手にしゃべっていた…
まるで自分の声じゃない様だった。
ザミエルに教えられた訳でも無く、勝手に口から言葉がついて出た…
そして… 僕は左目を瞑り、大場エリカを犯そうとするガイラの性器を右目で狙い定めた…
僕は右手で握りしめた黒い357マグナムの引き金を引いた…
「ドッゴーンッ!」
まるで大砲を撃ったかの様な物凄い反動だった…
右腕が射撃の反動で跳ね上がり、火を吹いた黒い357マグナムは天井を向いた…
「やっぱり…僕にはダメだっ!」
「どこ狙ってやがる、小僧! ビックリさせやがって!
お前の見てる目の前でこの処女の死体を犯してやるぜ! おろっ?」
ガイラが大場エリカの遺体を凌辱しようとしていたおぞましくも巨大な性器は、一瞬で塵と化した。
「ぐっぎゃああああっ!」
そこには、自分の股間を押さえて床を転げ回るガイラの姿があった。
「当たったのか…? 天井に向けて撃った僕の魔弾が…?」
僕は信じられないものを見る様に、自分の右手で握りしめた真っ黒な357マグナムを見つめた。
「へへへ、だから言ったろ… 大河。
お前は俺との契約完了で『魔弾の射手』になったんだってな。
お前がその右目で一度狙い定めた標的は、お前がどこに銃を向けて撃ったって、どんなに敵が離れてたって…必ず当たるんだ。
絶対に外す事は無い… グハッ…」
ザミエルがしゃべりながら、最後に大量に血を吐き出すのを僕は見た…
この記事が参加している募集
もしよろしければ、サポートをよろしくお願いいたします。 あなたのサポートをいただければ、私は経済的及び意欲的にもご期待に応えるべく、たくさんの面白い記事を書くことが可能となります。