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水面に映る父の顔…

夏休み…
家族4人でキャンプに出掛けた

川辺にテントを張り
子供達と川遊び
食事だと呼ぶ妻の声に
私は手を洗おうと
川の水面みなもに目をやり
そこにうつった自分の顔を見て
目がくぎ付けになった

水面から私を見つめ返していたのは
早くにった父の顔だった

私が子供の頃…
やはり夏休みに
この川へ父母と兄とで
キャンプへ来た
その頃の父の顔が
水面から私を見返していた

いや…
よく見るとそれは
父の面影おもかげを持つ私自身の顔だった
私は自分の顔が
父に似て来た事を知り
思わず目頭めがしらが熱くなる

元来がんらい私は
母親似だったのだ
まわりの誰からもそう言われ
私自身もそう思って来た
だが、自分が父になり
仕事と子育てに忙しい日々
いつの間にか
私の顔も父に似て来たのだろう

水面から私を見返す父の顔が
優しい目で笑っている

「お前も親父になったんだな…」

父の目がそう言っている気がした
気が付くと
私は涙を流していた

父には反発ばかりで
思春期以降…
仲良くした記憶があまり無い

母が先に
父が死ぬ少し前…
一度だけ私のおごりで
父と二人だけで居酒屋で飲んだ
その時の父は本当にうれししそうだった
店主に私の自慢をする父
美味うまそうに酒を飲み
はしを進める父
私が父と二人きりで
外で酒を飲んだのは
その時一度切りだった…

それから間もなく父は死んだ
結局…
私の二人の子供を見る事無く

思えば…
もっと父と飲みたかった
孫の顔を見せてやりたかった

「親父、ごめんな…」

今、水面に映る父の顔に
私は泣きながらあやまった
そして…
自分を立派りっぱな大人に育ててくれた
父に感謝の気持ちをつぶやく

「ありがとう、おとうさん…」

父の顔が映る川の水を両手ですくい
私はジャブジャブと
涙でれた顔を洗う

「お父さん! ごはん!」

息子の呼ぶ声がする
私は水面に映る自分の顔を
もう一度見つめ
ニヤリと笑った

「今行くよ!」

お父さんは
仕事でも家でも忙しいんだ
大変なんだぞ
感謝しろよ
お前達も大人になれば
きっと分かるさ
川の水面を見た時
そこに映った私の顔を見ればな

「さあ、メシだメシ!」

私は川べりを走った
自分の家族の待つ場所へ…

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幻田恋人
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