妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』 : 「由井正雪と魔槍『妖滅丸』」(⑫拾弐)" 柳生家伝家の宝刀『大天狗正家』 "
俺に向かって無数の何かが高速で飛来して来る
俺は自分の太刀をすでに抜き放っていた
「一か所に留まっていてはズタズタに切り刻まれる
あの親父殿の供の者達の如く…」
俺は左右に前後に素早く走り跳びながら
飛来する空気のゆがみの様なモノを
次々と躱し斬り捨てていった
しかし、数が多い…
左手に持った太刀で飛来するモノを斬り捨てながら
俺は懐に隠し持った裏柳生の手裏剣を掴み
右手で数本投げ放った
投げた手裏剣は一本も狙いを外す事なく
モノを撃ち落としていった
「この柳生十兵衛三厳を甘く見るなっ!」
しかし、やがて手裏剣が尽き
モノを受け止め斬り捨てていた太刀にも異変が…
「ピシッ! パキンッ!」
「ぬうっ! しまった、拙者の太刀がっ!」
すぐさま折れた太刀を捨て、脇差を抜き放ち構える
柳生新陰流の小太刀の技を見せてくれるわ!
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拙者と柳生但馬守は水竜の胴体の隙間から
十兵衛の闘いを見ておったが
十兵衛の太刀が折れるや否や
但馬守が拙者に向かって叫んだ
「青方どの! 水竜を解いてくれい!
脇差のままでは十兵衛がやられる! 儂の太刀を倅に!」
拙者も十兵衛の危機を黙って観ていられなかった
二人を取り囲んでいた水竜の壁を解き放つ
水の壁が解除された途端
但馬守が立ち上がり十兵衛に向かって叫んだ
「十兵衛! わしの刀を使え!
『大天狗正家』じゃ!」
但馬守が鞘に収めし自分の太刀を十兵衛に抛った
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脇差を投げ、飛来しモノの一つを撃ち落としつつ
親父殿が叫びながら俺に抛って寄こした太刀を
俺は鞘ごと左手で受け取った
掴みし太刀を右手でスラリと抜き放つ
「おおっ…
これぞ柳生家に伝わりし宝刀『大天狗正家』…
この伝家の業物さえあれば!」
俺は『大天狗正家』を両手で構えるや否や
飛来せしモノを全て斬って捨てた
そして由井 正雪に向かい正眼に構えながら言い放つ
「この柳生十兵衛三厳…
神に逢うては神を斬り、仏に逢うては仏を斬る…
たとえ相手が悪鬼羅刹の化身なりとも
逢うてはこれを斬って捨てる…
貴様の様な妖の技を使い人の世を乱せし者は…
この俺が捨ててはおかぬ!
この柳生家宝刀『大天狗正家』を構えし俺は
今までの柳生十兵衛とは一味も二味も違うと思え…
由井 正雪よ、覚悟致せ!」
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むうっ…
太刀を折り、十兵衛もここまでよと思いしが
但馬守めが余計な真似を…
しかし、柳生家の宝刀だと…
そんなもの、人間にはいざ知らず
妖に通じるものか…
「『妖滅丸』よ、『大入道』を出すぞ!
出でよ、『大入道』!
生意気な柳生十兵衛めを踏み潰せ!」
某が空中に『妖滅丸』の穂先で円を描くと
「ズシーンッ!」
目の前の大地を揺るがし地響きを立て
身の丈三丈(約9m)に及ぶ『大入道』が現れた
右手には長さがやはり三丈ほどの長さを持つ
巨大な八角棒を握りしめている
「ぐおおお~っ!」
その口より発する雄叫びは
まるで大筒の発射音の様に辺り一面に轟き渡った
「よし、やれいっ!
『大入道』よ、あの十兵衛めをお前の力で叩き潰せ!」
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「ばっ、化け物… 何という大きさよ…
おのれ…正雪め!」
俺は目の前に現れしあまりにも巨大な大入道を見上げた
入道の姿をした寺の本堂ほどもある妖…
だが、恐るるものか…
今、我が手に『大天狗正家』あり
「鬼に逢うては鬼を斬り…
大入道に逢うては、これを斬って見せん!
いざっ、参るぞ!」
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「むっ!
何じゃ、あれは…
十兵衛が大入道と対峙しておる…
あれが由井 正雪の使う妖か…
十兵衛… 無茶をするでない!」
儂が徒歩でそこまで来たとき
但馬守どのと青方龍士郎どのが
バラバラになりし駕籠と人の残骸の傍に立っておる
少し離れた林への入り口近くに十兵衛
そしてその前に立って居るのは…
身の丈三丈はあろうかという大入道じゃ…
いかに十兵衛が人並外れた腕を持つ剣豪と言えど
あれはいかん…
相手は山の様な化け物じゃ…
儂の法力にて…
ん…?
おお… 十兵衛の持ちたるは正しく
柳生家伝家の宝刀『大天狗正家』よ…
あの剣ならば…
よし…!
江戸の町とそこに住みし庶民を守るため…
それに、柳生親子をこの場で死なせてはならぬ…
禁呪を用いる!
儂は両手を使い孔雀明王の印を結び
孔雀明王呪を唱えた
「オン・マユラ・キランデイ・ソワカ
オン・マユラ・キランデイ・ソワカ…
古の大行者『役小角』よ…
貴方様のお力…
『石鎚山法起坊』としての大天狗のお力を
あの柳生十兵衛三厳の持つ太刀
『大天狗正家』に宿らせ
人に害せし妖を退治させたまえ!」
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おおお…!
な、何だ?
俺はこの大入道をぶった斬ってやろうとしておったのに
この、両手に握りし『大天狗正家』が震えておる…
それに… 何と、刀身が…光を発し出した!
うわあっ! それだけじゃねえ!
俺の身体が浮かび始めた…
空中を飛んでる…
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おおお…
あれは…
倅の十兵衛が宙に浮かぶ…
青方どの…
十兵衛が… 十兵衛が…
あの大入道といい…
いったいどうなっておるのじゃ…?
儂にはさっぱり…
青方どの!
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「但馬守様…
拙者にも、訳が分かり申さぬ…」
だが、『斬妖丸』の反応からして
大入道は間違いなく由井 正雪の操る妖だが
十兵衛どのの飛空は妖とは別の何か…
むっ?
十兵衛殿の身体を刀身から出た光が包み始めた…
光りが形を成していく…
あ、あの背中に翼を広げし形は…?
あれは正しく大天狗の姿…