お盆に僕の部屋で起きた怪奇 : 前編「僕の部屋に現れた『そいつ』…」
今日も暑いな…
そう言えば
今日はお盆の中日だっけ…
父さん母さんは
お墓参りに行くって出かけた
僕は留守番なんだ…
僕はクーラーの付いて無い
六畳の自分の部屋で畳に寝転がり…
扇風機を強にして半裸の身体に当て
団扇でも自分を扇いでいた
日に焼けた畳…
所々すり切れている
団扇で扇ぎながら
僕が何となく畳の目を数えていると
畳と畳の合わせ目から
黒い色をした何かが湧き出て来た
「何だこれ…?」
それは黒い霧状をした
ペラペラの薄い影絵の様なモノ…
得体の知れないそいつは…
じわじわと畳の上に広がって来た
「うわあっ!」
僕は叫びながら跳ね起きた
何だこれは…?
僕は目を凝らしてジッと見つめた
それはペラペラで細長く…
先端が五つに分かれていた
そう…
太さと言い
五つに分かれた先端が
指のような事と言い
ちょうど大人の腕の様に見える…
そいつは
五本の指状になった先端を
やはり手の動きの様に
握ったり開いたりしている…
「そんなバカな…」
僕はつぶやきながらも
目を離す事が出来ずにいた
本当は一刻も早く
自分の部屋から逃げ出したいのに
それが出来ないんだ…
まるで…
僕の身体は金縛りにあったかの様だった
こんなの生まれて初めてだ…
僕は吸い寄せられるように
そいつに見入った自分の両目を
閉じる事すら出来ずにいた
もちろん、悲鳴も出せない…
そいつは伸び出て来た全長の
肘と手首に当たる部分を
器用に曲げ伸ばしを繰り返し
そして五本の指を
まるで蜘蛛の脚の様に動かしながら
畳の上を這い回わり出した
こいつ、何かを探しているのか…?
やがて…
そいつの伸ばした指先が
僕の右足の趾先に触れた
そいつはビクッとした
探してた物を
見つけたって言うのか…?
それが、僕の足…?
すぐにでも逃げたかったが
相変わらず身体は動かない…
そいつはペラペラで厚みの無い
黒い影の様な指先で
目当ての物を見つけて
その感触を楽しむかの様に
ツツーっと僕の足を撫でた
僕は逃げる事も出来ず
声も出せないもどかしさに
泣き出したかった
すると両目から涙が溢れ出て来た
でも、熱い涙は出ても
まばたきは相変わらず出来ずにいた
そいつは
僕の足を撫で回すのに飽きたのか
一度大きく五本の指先を広げたかと思うと
僕の右足首をグッと掴んだ…
ペラペラの影みたいなくせに
そいつの握力は物凄かった
僕の足首がそいつにポキンと
へし折られるかと思った…
握られた足首のあまりの痛さに
叫び声を上げたいのに声が出せない
僕にはただ…
涙を流す事しか出来なかった
僕は足首を強い力で握られたまま
そいつの根元のある方へ
ずるずると引きずられた
凄まじい力で逃げられない…
い、痛い…
こ…こいつ…
僕をどうする気なんだ…?
やめろ… 引っ張るな…
畳の隙間から伸びている
そいつの黒くて長い腕は
上腕から肘…
そして肘から先へと
見る見るうちに
畳の隙間へと姿を消していく…
僕の右足首を握ったままで…
このままだと…
僕はこいつもろとも
畳に引きずり込まれてしまう…
僕は自分の怖ろしい想像に
全身に鳥肌が立った…
【後編に続く…】