幽閉returns ⑰人は俺を『風俗探偵』と呼ぶ…
俺の仕事は私立探偵だ
日本一の歓楽街カブキ町で探偵事務所を開業している
これでも一応は事務所の所長だ
もっとも、所員は俺と秘書の二人だけだが…
人は俺をカブキ町の『風俗探偵』なんて呼ぶが
気に入った仕事なら何だって引き受けるぜ
浮気や素行調査に行方不明の人捜しはもちろん
人だけじゃなく、頼まれりゃ家出ネコだって探す
風俗嬢に暴力を振るったりカブキ町を荒す奴らは
丁重に叩きのめして俺の街からお引き取り願う
探偵というより萬請負の便利屋だな
ところで、俺はかなりのコーヒー通なんだ
自分で淹れるのも好きなんだが
美味いコーヒーを飲ませる店があると聞くと
遠くにだって愛車で出かける
今日も俺の愛車『ロシナンテ』で
わざわざコーヒーを飲むためだけに
朝早くから郊外までやって来た
今日来たのは俺が昔
依頼を受けた事件で知り合った捜査一課の鬼刑事が
退職して開いたっていうカフェだ
元鬼刑事の店長が淹れるブレンドコーヒーが
格別に美味くて評判だと聞いて
わざわざ足を延ばして来たんだ
やっと店に到着したんだが…
何だ…? 駐車場が鎖で閉じられてる…
何てこった、定休日か…?
仕事が一段落したから来たんだが…
しょうがない、いつになるか分からんが
またの機会に来るとするか…
こう見えても俺も暇じゃないからな
むっ…?
車の窓を開けたら凄く血の匂いがする…
これは、間違いなく人間の血だ…
この店の駐車場からだな…
それと、何だ… この生臭い匂いは…?
魚…? いや、この匂いは甲殻類か?
血痕は念入りに洗浄された様だ
見た目には痕跡が分からない
だが俺は誇張じゃ無く、犬並みに鼻が利くんだ
この血の匂いの原因となった人物…
これだけの血を身体から流したのなら
恐らく死んでいるだろうが
遺体は、もうこの付近には無さそうだ…
すでに運び去られた様だな
駐車場外の道路上に匂いの痕跡がほとんど無いから
どうやら車で運ばれたんだろうな…
ん…?
店の入り口から可愛い顔をした若い娘が出て来た
年齢は22~25歳といったところか…
何だか慌ててる様だが
血痕の件や店の事情を聞いてみるか
お嬢さん…
今日はこの店は休みなのかな?
そうか、元々の定休日か…
こいつはドジったな
もっと、ちゃんと調べとくんだった
あんたがこの店のお嬢さんなら
俺はあんたの親父さんが刑事時代に
仕事を通じて知り合った昔馴染みでね
久しぶりに顔を見たかったんだが
そうか、親父さんは留守なのか…
楽しみにして来たんだが、店が休みなら仕方が無い
また、いつか改めて出直して来るとしよう
ところで…
変な事を聞くが、この店の駐車場から
大量に流れた人の血の匂いがするんだ
あんたには匂いなんて分からんだろうがね
しかも、この血の匂いは古いもんじゃない…
せいぜい昨夜くらいってところか
これは、ただ事じゃあないぜ
何かの事件が起こってる様だな
あんたの親父さんがらみか
捜査一課の刑事を辞めて
堅気のカフェを始めても
人の死が絡む厄介事の方が
親父さんを放しちゃくれないようだな…
あんたの親父さんも因果な身の上だな
あんたが急いでるのもそのせいなんだな
その顔つきを見りゃ分かるさ
伊達に探偵なんてやっちゃいないぜ
乗りな、あんたの足よりは速いから…
道々、事情を聞かせてくれ
何か力になれるかもしれん
俺はお節介な『風俗探偵』でね…
俺の愛車『ロシナンテ』を大船だと思って乗りなよ
心配しなさんな、悪いようにはしない
あんたの親父さんには借りがあるんだ
どうやら、それを返す時が来たようだな…