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妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』 : 「化け猫」

もし…
そこな御新造ごしんぞうどの…
こんな夜中に
一人でどこへ行かれる…?

このあたりは夜分にあやかしが出没すると
危ないゆえ
拙者がご自宅まで送って進ぜよう

この辺りは特にさびしいのう
妖が人を襲うのに最適な場所じゃ…

ここはその昔…
今では没落ぼつらくせし大名の住まいのあと
残っておるのは荒れ屋敷のみじゃ

御新造どの…

そろそろ正体を現してはいかがか…?
拙者は驚いて逃げも隠れも致さぬゆえ

ここまで其方そなたと同道致せしは
夜な夜な人を襲いし妖を退治するためじゃ

拙者か…?
ただの妖狩りの侍じゃ…
だが…拙者の腰に帯びし愛刀が
泣いてふるえておるのでな…
貴様の血を吸いたい
早く吸わせてくれい…とな

そういう訳じゃ…
たとえ拙者の目はあざむけても
我が腰の魔剣『斬妖丸ざんようまる』は
貴様の正体…

とっくに見抜いておるわ!
正体を現わせ、妖怪変化め!


********


おっほほほほほ…

バレてたのかい…?
それじゃあ仕方ないねえ…
妖狩りの侍とやら
お察しの通りさ
あたしゃ、三百年生きた猫が妖となりし
化け猫さね

あたしが夜中にこの辺りをうろつくと
馬鹿な人間の男どもが
あたしの美しさにかれて
勝手について来やがるのさ
その美しいあたしに
喰われるとも知らないでねえ…

あたしはね
人間の男を喰う前に
そいつとたっぷり遊んでやるのさ
ネズミをなぶるようにねえ…
それで遊びにきたら喰っちまう

ところでさあ…
こんな人気ひとけの無い荒れ屋敷じゃあ
助けを呼んでも役人どころか
誰も来やしないよ…

黙ってあたしに喰われてりゃいいものを…
痛い目が見たいってんなら仕方ない
この化け猫のあたしを
退治出来るもんならやって見な!

あんたもたっぷりと遊んでから
美味おいしく頂いてやるとしようかねえ…


********


もう終わりか…?
ようしゃべる化け猫よのう

貴様のそっ首ねて
今まで貴様に喰われし男どもの怨念おんねん
この荒れ屋敷から開放してやろう
無念でいまだに成仏出来ぬと見えて
あちこちにただよっておるでな…

ほお…
流石さすがに化け猫よ
広い荒れ屋敷を縦横無尽じゅうおうむじんに駆け回りおる
屋根の上に登れば拙者に追えぬとでも…?

甘いわ!

疾風はやての舞い!

ふふふ…
拙者は風のように舞えるのでな
貴様がどこへ逃げようと
追って行くぞ

風は疲れを知らぬゆえ
拙者から逃げおおせる事、かなわずと知れ!
この屋根の上では
これ以上に上へは行けぬなあ…
下だとて、もうがしはせぬがな…

化け猫よ…
貴様、先ほど哀れな犠牲者をもてあそ
なぶり楽しんでから喰らうと申したな
貴様も同じ目にわせてくれよう…

拙者の構えた剣のさきを見るがよい
この切っ先のへらへらとした動き
貴様は見つめずにはおれまいて…

なぜならば…
所詮しょせん貴様は猫の妖ゆえ
猫じゃらしの様に動く
我が魔剣『斬妖丸』の動きから
目を離す事が出来まいて

あわれよのう…
年をて妖となりても
所詮は畜生ちくしょうゆえ
本能には逆らえまい

このまま『斬妖丸』の動きに
目を奪われながら死ぬるがよい

その血にまみれた罪深き首を
貴様の胴体から切り離してくれようぞ
覚悟するが良い…

いざっ、参る!

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