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第6回 これさえあれば、AIに勝てる!~AIと人の学びの違い

「学びにおいては、人は、絶対AIに勝てない」と断言しながらも、妙木先生は、人がAIに勝つ数少ない方法を提案してくれます。それは、何と「失敗すること」・・・・!?

 まず、前回のおさらいから。「AIの心」は悩まない、つまり「目標に向かって・迷わず・進む」という特徴があるのに対して「人の心」は「目標に向かって・迷いながら・進んでいく」、そして、ここには多くの無駄が生まれてきます。AIの心と人の心は、構造面では意外なぐらい似通っているのに、こんな風に真逆なものを示すようになるのは、どうしてなのでしょうか。私は、心の発達、つまり学びの仕方が極めて違うからではないかと思っています。ですので、今日は、AIと人、それぞれの「学び」について考えていきたいと思います。

 まず、最初に、こう言い切ってしまいましょう。「学びにおいては、人は、絶対AIに勝てない」

 あらら・・・とがっかりせずに、ちゃんとお話ししていきますから。学びのプロセスには、事実知、いろいろなことを知っている-「knowing what」と、プロセス知(方法知)、いろいろなやり方を知っている-「knowing how」、という2つの種類の知があります。よく、あの人は頭がいいという言い方をしますが、この2つのバランスが取れていないと、本当の頭の良さは生まれてきません。いろいろなことを知ってはいるが、それを生かすノウハウが乏しい、また逆に、いろいろなアイデアはあるのだが、それを実行するための知識が不足している、このバランスが難しいわけですね。そして、この2つの知の習得は、実はAIの得意分野なのです。その知識の量、そして実行していく方法の多様性やスピードにおいて、どんな天才的な人間もかないません。

 しかし、AIにも苦手としている知があるのです。それは、関係知-「knowing where, when」-いろいろな関係性を知るというものです。目的とそれらが実行される場(どこで)や時(いつ)との関係は、必ずしも短期的に正解が導き出せるものではなく、時には、即断しない、長く付き合うという条件を持ちつつ、最適な解が導き出されていくのです。つまり、関係知は、AIの得意な、効率や効用というものとは、あまりかみ合わせは良くないのです。ここでの関係というのは、何も人と人の関係だけにとどまりません。人と環境、人と社会、大きく言えば、「自分」と「自分以外の存在」との関係性です。何か問題に直面したら、正解ではないかもしれないけれど、その状況に合わせて、適当にものを見て行動をしていく。ここでは何より「暗黙知」というものが重要になってきますが、これはAIからすれば悪い意味でのバイアスなのです。AIの得意な「明示的知識」は、主体個々の状況によって変化しない普遍的な情報のことを言います。AIが扱えるのは、この「明示的知識」だけで、「暗黙知」は扱うことができないのです。理由は、明確なデータや理由なしには、正しい解を導けないから。暗黙知は、あくまで、バイアス、誤差の中から生まれる知です。実は、この暗黙知こそAIとの競争において、人間が、唯一、勝てる分野なのかもしれないと私は思っています。この「暗黙知」を習得するために一番大切なものは何だと思いますか? 意外に思うかもしれませんが「失敗」なのです。つまり、人は失敗することでしかAIに勝つことはできない。う~んとうなっている、あなた、ぜひとも『AIが私たちに嘘をつく日』を読んでくださいね。本日はここまで。

妙木浩之(みょうき・ひろゆき)
1960年東京生まれ。上智大学文学部大学院満期退学。佐賀医科大学助教授、久留米大学教授を経て、現在、東京国際大学人間社会学部教授。南青山心理相談室、精神分析家。日本精神分析協会会員(準会員)。著書『寄る辺なき自我の時代』(現代書館)、『父親崩壊』(新書館)、『フロイト入門』(ちくま新書)、『初回面接入門』(岩崎学術出版)など多数。

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