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ジェンカレ聴講生が代表櫻井彩乃にインタビュー

高校2年生の時に「女は黙ってろ」と同級生に言われたことがきっかけで、ジェンダー平等の実現を目指し活動を始め、2022年にジェンダー課題を包括的に学ぶサードプレイス「ジェンカレ」を立ち上げたGENCOURAGE代表の櫻井彩乃。
櫻井はどのようにジェンダー課題と向き合ってきたのか、どのような思いと考えでジェンカレを運営しているのか。彼女にエンパワーメントされたひとりであるジェンカレ2期聴講生・藍谷凪がインタビューをした。


いまの活動の原点は?

藍谷:あらためて、ジェンカレを始めた理由を教えてください。

櫻井:高校2年生からいままで(現在29歳)、たくさんの時間とお金をつかって、いろいろな人に会って、いろいろな経験をさせてもらいました。振り返ると、良い大人との出会いや良い機会をたくさんいただいていたんですよね。私が経験したことだけが全てではないけれど、それらをもっと多くの方にシェアできたらみんなにチャンスが生まれるし、関わる人が増えるのではないかと思い、始めました。

2016年と2018年に参加した国連女性の地位委員会(CSW)にて

藍谷:ジェンカレでは、複数の大学に通わないと受けられないような講義、多数の書籍を読まないと知れないような知識を提供されていますよね。とても勉強になりました。

櫻井:「あったらいいな」を叶えられるようなカリキュラムを組みたいと考えています。全ての講義を受講してもらうと、自分の思考がクリアになっていく、繋がっていく感覚があると思うので、受講する皆さんにはそこも楽しんでほしいです。

藍谷:私は12回の講義を通して、自分の問題と社会の問題との間に境界線を引くことができるようになって、もやもやがクリアになった感覚があります。

櫻井:よかった!

藍谷:これまでの出会いや経験の中で、いまの櫻井さんに大きく影響していることはありますか?

櫻井:大学生のときに、日本の女性の権利獲得のために戦ってきた方たちと出会ったことがとても大きいです。デモをするだけでなく、表からは見えないところでロビイングなどをする彼女たちの動きを見て、コツコツと積み重ねてきたからこそ、いまこうやって女性たちが発言できるのだと知りました。私たちが求めているのは言ってすぐに変わるようなことではなく本質的なことだから長期的な戦いになる、というマインドをジェンダーの活動を始める段階で持てたことが私の強みになっていると思います。あとは、課題解決の過程を楽しめる性格だから、この活動を続けられるのかもしれないです。行き詰まったときに壁を壊すことができるのか、もしくは他の道があるのか、それを探していく作業が好きです。

ジェンダー課題の解決に2015年12月クオーター制を推進する会
『政治分野における男女共同参画推進法(仮称)』等の制定を要請する決起集会にて

藍谷:さまざまなジェンダーの活動をされている方がいらっしゃいますが、櫻井さんはジェンカレ運営の他に、国の委員を務められていますよね。何かきっかけはありましたか?

櫻井:大学生の頃、地元の男女共同参画計画を策定する委員を2年間務めたことがきっかけです。その経験を通して、政策に当事者の声を反映させることの重要性を実感しました。それまで私は居住地域の政策にほとんど関心がなく、自分の声が届くとは思っていませんでした。でも、男女平等推進委員として会議に参加していく中で、私でも政策に関わることができるのだと気づき、「若者の声をもっと反映させなければならないのでは?」と考えるようになりました。

藍谷:その会議には櫻井さんのほかにも大学生や若者は参加していましたか?

櫻井:私のほかにはいませんでした。当時の私は19歳で、次に若い人は30代でした。でも、特に当時の担当課の課長や座長をされていた戒能民江先生が積極的に若者の意見を聞いてくださったことで、政策をつくる人たちは若い人やこれまであまり意見を聞かれてこなかった人の声を聞きたい、政策に反映したいと思っていることを知りました。一方で、このような政策決定のプロセスを知らない人は多く、誰かが決めたものを受け入れることが当たり前になってしまっているのではないかとも考えるようになりました。突発的に決まることもありますが、政策決定前のプロセスの中で声を上げれば、何かを変えられる可能性があります。情報は開示されているので、調べれば現状を知ることができるのです。

藍谷:私は櫻井さんやジェンカレゼミ生の活動をきっかけに、住んでいる地域の委員会を傍聴したり、議会の記録を見たりするようになりました。ニュースやSNSでは流れてこない情報を知ることができて、地方自治が前よりも身近に感じられるようになったと思います。

櫻井:いいですね。情報にアクセスする方法はいろいろありますよね。デモなども重要ですが、私にはまず学んで知識を蓄え、政策決定の場に当事者の声を届け、反映していくことが適していると感じています。残念ながらジェンダー平等の実現はすぐに達成することではないので、一時の打ち上げ花火で終わらせないために、細く長く楽しみながら取り組むことが重要だと思っています。そのような戦い方を活かせる場として、委員としての活動、ユースを育成し5年後10年後の社会に貢献するためのジェンカレがあると考えています。

ジェンダーの視点はどうして必要?

藍谷:ジェンダーの視点とは「性差別、性別による固定的役割分担、偏見等が社会的に作られたものであることを意識していこうとする視点」と内閣府男女共同参画局では定義されています。初心に立ち返るような質問ですが、ジェンダーの視点はどうして必要だと思われますか?

櫻井:多様な背景や経験を持つ人々の立場やニーズを理解し、包括的かつ公正な社会を築くために大事な視点です。ジェンダーの視点があると、自分の考えや企業・行政でやっていることが、いかに特定の人のためだけのものかがわかると思います。すべての人のためにやっているようで、マジョリティ、いまの社会で言うと特権性のある人のためになっていて、マイノリティの視点が抜け落ちてしまっている。ジェンダーの視点があるからといって全てをカバーできるわけではないけれど、不公平さに気づくため、性別によって選択肢や可能性が奪われているかもしれないと気がつくために重要な視点です。

藍谷:私は、ジェンカレで講師をされていた大崎麻子さんの著書『女の子の幸福論』を読むまでは、ジェンダーの視点は男性女性、多様な性のための話だと思っていたんです。でも書籍に、ジェンダー平等とは「男性でも女性でも、一人ひとりが持って生まれた可能性を伸ばし、充実した人生を送るための環境」と、人間ひとりひとりの話だと書かれていて衝撃を受けました。

櫻井:そうなんです。性別や境遇が理由で、10あるはずの選択肢が5になってしまうのはおかしいですよね。最近話題になっている男女間賃金格差を例にすると、同じ仕事をして男性は1000円もらえるのに女性は600円しかもらえないということが起きています。

藍谷:ステレオタイプに基づいた制度は、賃金格差を生むだけでなく、働く人の選択肢を奪ってしまいますよね。女性が職場復帰しづらいとか、男性が育休を取りづらいとか。

櫻井:もちろん、みんなが等しく希望した機会や権利を得られることはとても難しいし、できないこともある。けれどジェンダーの視点を得ることで、男性と女性でスタートラインが全然違うことにハッとすると思います。まだまだ文理選択や職業選択にもステレオタイプが根付いていますし、男性の保育士は増えてきているけれど、なぜか男性のほうが賃金が高くて上の立場になる、のような男女の構造的な問題も残っていますね。

藍谷:改革の先でも、新たな問題が見つかってしまう…。

櫻井:でも、ジェンダーの視点があれば気がつくことができるし、別の方向に進んでいくこともできます。

変わることが不安な人へ、伝えられる私たちになろう

藍谷:ジェンカレの参加方法は「聴講生」と「ゼミ生」の2種類がありますよね。私は聴講生として講義のみ参加しましたが、ゼミ生の皆さんの主体的な活動を拝見して刺激を受けました。

櫻井:特にゼミ生には、ジェンダーの知識を「知っている」から、ジェンダーの視点で相手に「話せる」、ジェンダー平等の実現に向けて知識を「使える」レベルになってほしいと思っています。

藍谷:具体的に「話せる・使える」を教えていただきたいです。

櫻井:例えば、会社の上司に対して、全部こうしてください、これが正義なんです、と押し付けるように言っても、いや知らないよと返されてしまう。でも、いまこういう状況があるじゃないですか、だからこういうふうにすれば売り上げも上がるし、お客さんがこう思うし…みたいに、相手の立場に立ってで話せば伝わるかもしれない。わかってもらえないからといって、上司が差別的だと決めつけるのではなく、ジェンダーの視点を知る機会がないのは研修に偏りがあるからなのか、単純に時間がないからなのか、同質性が高い組織だからなのか…と分析していけば、原因や解決策を見つけられるはずです。このように課題を深掘りする作業はひとりで向き合うと難しいですが、ジェンカレでは私やメンターがそのサポートをしています。自分の考えを強化するあまりその考えに捉われてしまうのではなく、主張を大事にしながらも柔軟性を持って、伝わる「良い表現」をできるようになってほしいです。

藍谷:私は講義を通して、表現の仕方が少しずつわかり始めて、ジェンダーの視点で発信をできるようになりました。まだまだ十分ではないですが問題の見え方も変わりました。

櫻井:何かを変えようとするときは反対されることのほうが多いんです。変わることが不安な人も、変わることで自分のポジションが失われるから変わってほしくない人もいる。ジェンダーの視点を取り入れて変わった企業や国にはちゃんと効果が出ていて、メリットがあるとわかってはいるけれど、それでもやはり変えようとするこちら側の伝えるための努力も必要です。

藍谷:そのために、まず知ること、そして話せるように使えるようになる必要があるんですね。

櫻井:ジェンカレは講師や代表の私が国の政策に関わっているので、政策領域にゼミ生を増やすこともテーマにしています。私が大学生の頃に男女共同参画の委員をやっていたように、ゼミ生から国の委員に1名、東京都2名、神奈川県1名、埼玉県1名、静岡県1名が地方公共団体各種審議会の委員として就任しました。ジェンダー主流化を進めていくことが社会を変えるためには大切です。

自分のためだけじゃない。誰かのために何ができるか

藍谷:ジェンダーの視点を持つことで、文句を言うだけ我慢するだけの段階から抜け出せたと思っています。今回のインタビューでもたくさんの気づきがありました。

櫻井:ジェンダーの視点を知っている人が、自分の状況を変えることはもちろん、誰かのためになにができるのかを考えてほしいです。それは、ひいては自分に返ってくるので。そして、思ったり願ったりするだけでなく、少しでもできることを探してほしいです。みんながみんなデモや署名をしたり、団体を立ち上げたり、議員にならなくていい。良い有権者になればいいんです。行動の選択肢はたくさんあるはず。いまの自分の生活や立場に合わせて行動を起こしていきましょう。プレイヤーが増えることで社会が動いていきます。

藍谷:私も行動していきます!

櫻井:私にもまだまだできていないことがあるので、皆さんと一緒に前に進んでいきたいです。現在、今期のジェンカレ参加者を募集しています。ゼミ生エントリーは8月18日までで、9月から講義が開始します。昨年からさらに講義が増えたり、ゼミ生を対象にファシリテーション力をつけられるようなワークショップを開いたりなど、より充実したカリキュラムで皆さんのご参加をお待ちしています。
そして、今年4月にGENCOURAGEは法人化をしました!一般社団法人としてジェンカレを運営していきます。よりユースのエンパワーメントに力を入れるため、全国各地に卒業生が増え、垣根を越えて社会問題に取り組んでいくための新しい一歩です。

ジェンカレ運営団体・一般社団法人GENCOURAGE

代表理事:櫻井 彩乃
プロフィール:1995 年生まれ。高校2年生の時に「女は黙ってろ」と同級生に言われたことがきっかけで、ジェンダー平等実現を目指し活動を始める。大学在学中、東京都葛飾区男女平等推進審議会委員、葛飾区女性のための防災対策等検討委員会委員を務める。2020年9月、「#男女共同参画ってなんですか」代表として、第5次男女共同参画基本計画策定に向けたパブリックコメント手続きにおいて、30歳未満から寄せられた声1,000件以上を提出し、併せてユースからの提言書をまとめ担当大臣に手交した。また、同年11月Change.orgで実施した選択的夫婦別姓の導入を求めたオンライン署名キャンペーン「#いつになったら選べますか」では5日間で3万筆超を集めた。内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員、政府税制調査会特別委員、こども未来戦略会議有識者構成員、こども家庭庁こども家庭審議会委員、こども・若者参画及び意見反映専門委員会委員等を務める。
2023年 Forbes JAPAN誌「世界を変える30歳未満30人」受賞。

理事:引本 彩華
プロフィール:2018年津田塾大学学芸学部国際関係学科を卒業。自動車メーカー企業にて営業、エシカルジュエリー会社にて事業立ち上げ・EC事業運営・商品企画等を経て、2020年に株式会社クレアンに参画。現在大手企業のサステナビリティレポート・統合報告書制作や主に人権課題に係るコンサルティング等に従事。ジェンカレには1期生として参加し、2023年から事務局として企画運営に携わる。

理事:新井 セラ
プロフィール:株式会社ワーク・ライフバランスコンサルタント。多様な人が自分らしく主体的に生きられる社会の実現を目指し、働き方改革のコンサルタントとして企業・自治体・中央省庁等様々な組織で労働時間を削減して業績を上げる変革を支援。個人的には「女性が自分の食い扶持を稼ぎ続けるのは自由でい続けるための手段のひとつ」という母からの教えを大切にしつつ1歳と5歳の育児中。

(写真左から)引本 彩華、櫻井 彩乃、新井 セラ

3期目ゼミ生・聴講生募集中

現在ジェンカレでは、「ゼミ生(申込締切:2024年8月18日23時59分まで)」「聴講生」を募集しており、講義の詳細、及び募集要項は下記リンクよりご覧いただけます。
https://gencollege.org/
特に30歳未満の方には、ゼミ生向けのカリキュラムが非常に充実しておりますので、ゼミ生をお勧めいたします!
ジェンダー平等の実現に向けて、共に学び、一歩踏み出しましょう!

寄付のお願い

ジェンカレは全国でジェンダー平等の実現するための次世代リーダーを育成しており、各フィールドで活動を続けています。特に地域での取り組みとしては、受講生のうち5名が地方公共団体各種審議会委員に就任しています。
今後も全国でジェンダー平等の実現を目指す若者を育成するためにご支援いただけますと幸いです。

①寄付サイトより寄付:https://syncable.biz/associate/gencourage
②銀行振り込み:
銀行:かながわ信用金庫
支店:浦賀支店
口座番号:1267153
口座名義:一般社団法人GENCOURAGE

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