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御社の「業務プロセス改善」はなぜ頓挫したのか?~第4回 納得できる業務プロセス改善の進め方③~成功事例に学ぶ~

これまでの連載では、失敗事例に触れることが多くありましたが、今回は、業務プロセス改善の成功事例を1つ紹介します。そして、成功に繋がったポイントや苦労したポイントを明確にして、参考にしていただければありがたいです。

得意先に技術情報を開示する

これは、従業員10名の、プレス機などを囲う防音設備を製作するメーカーA社の事例です。

A社の主な得意先は、防音設備の受注と設計を行う企業X社であり、X社はエンドユーザーである大手製造業が新しい設備を導入する際に、防音設備の発注を受け、その製作をA社に委託しています。

X社はエンドユーザーに対して見積もりを行う必要がありますが、実際の製作過程における材料費や加工費を見積もることはできないため、A社に図面を送っては加工するための技術的情報とおおよその見積もり金額をヒヤリングし、見積書を作成していました。

X社が設計する防音設備はオーダーメイドではあるものの、実績を重ねており、過去に類似した設備を製作した記録を元に見積もりをすることもできたため、X社からは「〇〇年の図面番号XX-XXXXの加工した際の資料をください」とA社社長に電話連絡し、A社社長はその資料を探し、メールでPDFを送る作業が必要でした。

問い合わせの流れ
問い合わせへの回答

この電話連絡の対応がA社社長の仕事効率を阻害していたため、社内に対応出来る人材を配置することを課題としていました。

ところが、別の担当者は社長同様に常にPCの前に座っているわけではないため、どうしても携帯電話に電話がかかってくることが多くありました。

そこで、A社が持つ加工技術情報をX社に開示することにしたのです。

業務プロセス改善後のイメージ図

(X社)問い合わせ→(A社)データ検索→(A社)データ送付→(X社)設計

(X社)データ検索→(X社)設計

と業務プロセスを変更した、得意先を巻き込んだ業務プロセスの改善です。

業務プロセス改善の2つのハードル

プロセスを書き出せばシンプルで誰にでも思い付きそうですが、この業務プロセスを実現するためには2つのハードルがありました。

 1つ目のハードルは、A社先代社長が見積もり作業を属人化し、技術資料を残していなかったことです。

社長が交代し、現社長は記録を残すようにしていたため、5年が経過してようやく参考にできる技術情報が蓄積してきていたのです。前回の記事の中でも「見える化」が大切と書きましたが、自分じゃなくてもできる仕事にするために行ってきた地道な作業なのです。

先代社長は、見積もりを頭の中で行い、それを自分しかできない作業と位置付けていました。そしてそれが会社の中で最も価値がある作業であるとして、誰にも渡さない姿勢で事業を行っていました。

それに対して、現社長は仕事を自分で抱えることなく誰にでもできるようにし、得意先にも開示する姿勢でした。これが成功に至った大きなポイントの1つです。

2つ目のハードルは技術情報を共有するシステムの開発費用です。

A社の大切な技術情報をなんでもかんでも持っていかれては、競合に仕事が流れてしまう恐れがありました。そのため、X社においては一定の制限の下でダウンロードできるシステムの構築が必要で、その開発費用は約100万円でした。A社にとっては直接的な効果が不透明な投資にしては負担が大きいため、X社に協力を得ることにしました。

具体的には、その後に製作する案件に対して、「加工技術標準化料」として通常の製作費用に1%上乗せすることを提案したのです。

ここには、X社にとっての大きなメリットがありました。

X社からすると、A社に問い合わせして回答を待っている間、設計を進めることができず、設計作業が遅れてしまいます。結果としてエンドユーザーへの提案、延いては製作開始が遅れ、顧客満足度の低下に繋がっていました。

この課題を解決できるのであれば、顧客満足度向上とともに機会損失を防ぐことができるなどのメリットがあったのです。

そのため、自社が持たない加工技術を標準化して蓄積してくれるA社の価値は、X社にとってみれば非常に大きな価値なのです。

同時に、A社のシステムを活用しなければ設計が進められないため、A社はX社との関係性が強化され、他社への移動障壁にもなるのです。 

ハードルを超えたポイント

さて、ここで改めてハードルを超えたポイントを振り返ってみましょう。

まず1つ目の属人化の排除ですが、これができた理由は社長自らが誰にでもできる作業にするべく技術の記録を残す作業を行ったことです。

前社長から教えてもらったことを元にして、自社の加工技術の見える化を自らが行ってきていました。

もし別の担当者に丸投げしていたら、得意先との大切な接点である作業に対して、以前は社長が対応してくれていて、次はただの担当者かと得意先の信用を失ってしまう恐れがありましたし、記録を残すことに賛同していなかった前社長から教えてもらう際には記録など残せるはずもありませんでした。

社長の権限で技術資料を作ったからこそ進められたのです。

これを一般的な事例に置き換えて考えてみます。

「業務を抱えるな!」「標準化しろ!」というだけで業務の属人化がなくなるのであれば苦労しません。実際、ある程度の権限がある人が担当者にそんなことを言ったところで、業務の属人化は解消されないでしょう。大企業であれば、配置転換などで無理やり業務を引きはがすが、中小企業の場合は、配置転換したところで業務がその人について回ってしまい、別の部署に行っても同じ仕事としている、なんて事例が山ほどあるのが実態です。

そこで、ある程度の権限を持った人が、自らその業務を理解し、きっちりとヒヤリングをしていくことで頭の中で行われていた作業を見える化し、属人化を解消できる可能性が出てきます。

そう、やはり、権限を持つトップ層が自ら動かなくてはダメなのです。 

もう一つのシステム開発費用に対するX社への提案ですが、これができた理由は、企業を超えた業務プロセスと、その業務プロセスの関係者をしっかり理解していたことにあります。

業務プロセスは企業を隔てたところでも繋がっています。変更する業務プロセスの関係者にとって、どんなメリットがあるのかをしっかり考えたからこそ、提案を受け入れてもらえたのです。

自社のプロセスだけに囚われていた場合、電話を受ける→データを探す→データを送る、という作業の改善にはなりますが、この場合は、別の担当者が行う、くらいの発想が関の山でしょう。得意先も含めた業務プロセスを理解することで、ECRSのEとなるA社の業務プロセスを排除するという発想が生まれました。そして、それによってX社の作業スピードが上がるメリットが見出せ、費用還元する提案が生まれたのです。

一般的な事例においては、自分、自部署、自社の業務プロセスだけを見ていてはダメで、繋がっている業務プロセスを理解することが大切であることと、その業務プロセスを変える権限を持っている人物が主体的に行う必要があることが分かっていただけると思います。 

いかがでしょうか。権限を持つトップ層が主体的に取り組むこと、繋がっている業務プロセスの理解、最も効果が大きいECRSのE、ご理解いただけましたでしょうか。

次回は、業務プロセス改善を行う上で重要になる組織文化について触れていきます!

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