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【母の愛】

子供達がまだ小学校の頃の話である。

同じ小学校に通っていたある男の子が、母親の目の前でトラックに轢かれるという、凄惨極まる事故があった。男の子は即死した。

交差点の横断歩道を渡ろうとしていた時の事故だったらしいが、轢かれた我が子を母親は直ぐさま抱き上げて狂ったように我が子の名前を叫び続けたという。

家内からこの話を聞いた時、事故の悲惨さと同時に、母の愛情の凄じさを強く感じたのである。

目の前でトラックに轢かれて即死した我が子を直ぐに抱き上げるなんて、男の僕には到底出来ないことだと思うのだ。怖じ気づいてしまって、恐らく近づくことも出来なかったに違いない。

ところが、母の愛は強くて深いのだ。

・・・・・・・

過日、霊感がある家内の女友達が言ったそうだ。

「あの横断歩道にはねぇ、今でも真っ赤な血が流れた跡が見えるのよ」

・・・・・・・

月日が流れ・・やがて人々から事故の記憶も薄れていった・・・

そして、事故の噂話が持ち上がることも途絶えがちになり、残されたお母さんの話をする者も徐々にいなくなっていった。


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