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中国古典から、「余白(Slack)を創る」

中国古典から、「自分を知る、自分を動かす、人を動かす」を学ぶシリーズ第4弾。今回は論語から、有名な故事成句「過ぎたるは及ばざるがごとし」です。そして、少し飛ぶかもしれませんが、「余白」の大切さを語りたいと思います。まずは、元となった漢字書き下し文から。

子貢(しこう)問う、師と商とは孰(いず)れか賢(まさ)れる、と。 子曰わく、師や過ぎたり。商や及ばず、と。 曰わく、然らば則ち師は愈(まさ)れるか、と。 子曰わく、過ぎたるは猶及ばざるがごとし、と。

論語先進第十一

(孔子のお弟子さんの)子貢が孔子先生に質問しました。「(これまたお弟子の)子張と子夏とではどちらが優れていますか?」と。
先生がおっしゃるには、「子張は行き過ぎているし、子夏は足りてない」と。
「では、子張の方が優れているんですね」と子貢が聞くと、
「“やりすぎ” というのは “足りない” と同じだ」と。

いつも「時間のない」あなたへ

ここで言っていることは、「何ごとも行き過ぎ・やり過ぎはダメ」ということです。善いことだってやり過ぎたらダメ。人に親切にすることは善いことだけれど、行き過ぎたら甘やかすことになるかもしれない。運動をするのは健康に善いことだけれど、無理をしすぎたら健康を害することもある。仕事も一生懸命やることはいいことだけれど、無理しすぎたら身体を壊すこともある。

少し話が飛ぶかもしれませんが、私はこの章句を「余裕・余白が大切だ」と理解しています。以前『いつも「時間のない」あなたに』という本をAmazonでポチっとしました。レコメンド機能で表示され、その書名につられついつい購入してしまいました。それがとても面白い本でした。この本は米国の経済学者と心理学者が書いた本です。その中にとても考えさせられるエピソードがあります。

米国ミズーリ州の地域医療センターの話です。ここで、皆さんにも考えていただきたいと思います。皆さんがこの病院に雇われたコンサルタントだとしたら、どんな提案をしますか?

この病院は地域の中核病院です。32の手術室があり、年間3万件の手術を行っています。手術室は常にフル回転で、急患は仕事量の20%を占めています。32ある手術室は常にパンパンの状態。そこに急患が運び込まれると、予定した手術を変更せざるをえません。
その結果、
 ・午前2時に手術が行われることもある
 ・医師は2時間の手術のために、数時間待つこともある
 ・スタッフは予定外の残業をせざるをえない
 ・効率が悪くなり、病院の収益が悪化する
 ・それだけではなく、医療ミスが増えている
こんな状態に陥っています。

あなたがコンサルなら、どんな解決策を提案しますか?

Slack(余白)が生産性と創造性を生む

答えは、32ある手術室のうち1つの手術室は、予定を入れず空けておく。

その結果はすぐに出ます。受け入れ手術件数は5.1%増え、午後3時以降の手術件数は45%減ったそうです。そして、2年間で手術件数は7~11%増加しました。この箇所を読んだ時、目からウロコでした。まさに逆転の発想です! Slack(余白)が生産性と創造性を生むのです。この教訓は、我々ビジネスパーソンの時間の使い方にも当てはまります。

労働時間が減って、増えている時間

2010年代後半以降「働き方改革」と称して、ビジネスパーソンの労働時間は着実に減少しています。しかし、減った時間でビジネスパーソンは何をしているのでしょうか? 何に時間を費やしているのでしょうか? 増えているのは“消極的”余暇時間です。例えば、スマホや TV などを見ている時間が増えているのです。一方、“積極的”余暇時間とは、旅行に行ったり、本を読んだり、ジムに行ったりする時間を指します。何らかの行動を伴う余暇時間を指します。

今起きていることは、労働時間を減らして、ぼうっとしている時間を増やしているのです。もちろん個人個人を見れば自己研鑽に充てられている方も多いでしょうが、全体として見れば、労働時間を減らして、スマホなどを見て、ぼおっと過ごしている時間が増えているのです。

「余白」が生産性・創造性を生む

今、企業やビジネスパーソンがしなければいけないのは、労働時間を減らすことではなく、「余白」を増やすことです。私は仕事柄大企業のミドルマネジメントの方々と接する機会が多いです。皆さんムチャクチャお忙しいです。ある会社では、課長さんの就業時間の6~7割が会議・打ち合わせで埋まっていると言います。3M の15%ルールやグーグルの20%ルールのような制度を導入しろとは言いませんが、勤務時間の一定割合を通常業務とは異なる業務に充てることは合理的なのです。働く個人や組織全体の生産性や創造性を生んでいるのは、「余白」なのです。我々が取り組むべきは、労働時間の削減ではなく、「余白」の創出です。

参考資料:
吉田賢抗『論語』明治書院, 1976
ムッライナタン&シャフィール『いつも「時間のない」あなたに』早川書房,2017


中国古典から、「自分を知る、自分を動かす、人を動かす」を学ぶシリーズ第3弾は、こちらから  ☟☟☟