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AI と翻訳 ~ポストエディットの役割~

こんにちは。GCRMパートナーズの杉山です。
GCRMパートナーズは、人材育成の会社というイメージがあるかと思いますが、実は翻訳サービスも提供しています。13年前に創業した頃は、むしろ翻訳が主たる生業だったくらいです。

AI に危機感を感じるか?

そんな GCRMパートナーズですが、
昨今、巷で言われているように「AI が出てきたことで、翻訳サービスがなくなるのではないか?」という危機感を感じるかと言えば、私たちは、それはあまり感じません。
 
なぜなら、元々翻訳サービスは、下訳+レビューの作業で構成されており、GCRMパートナーズが果たす役目は、これまでも、どちらかといえば「レビュー」側だったからです。
機械翻訳や AI 翻訳が出てきても、「レビュー」の仕事は今後も、しばらくはなくならないと考えています。いくら機械が翻訳しても、まだまだその完成度には課題があり、むしろ昨今では、機械翻訳の文章をレビュー・修正する『ポストエディット』と呼ばれる新しい仕事が生まれたとも聞いています。
 
もともと携わっていた翻訳レビューの仕事は、この『ポストエディット』の仕事に限りなく近い作業内容です。

翻訳をレビューするとは

機械翻訳や AI 翻訳の出現後は、例えば社内使用の資料であれば、わざわざ翻訳会社に翻訳を依頼せず、社内で機械翻訳を活用し、簡単に翻訳してしまおうという動きがあるかもしれません。
今回の記事では、そんな時に役立つであろう、翻訳レビューの勘所について書いていきます。
 
翻訳のレビューには、いくつかのレベルがあります。
1. 文書の内容の概要を知るだけでよい/自分が使うだけ
この場合は、基本的にレビューは不要です。単語が間違っていようが、統一されていなかろうが、意味が取れればそれでよいというのが目的だからです。

2. 翻訳した文書を、そのローカル言語での資料として社内外で使用する場合
たとえば、米国本社から送られてきた資料を、社内外に使う日本語の資料に翻訳するようなケースです。この場合は、日本でのビジネスで問題なく使用できる言語レベルになるまでのレビューが必要になります。

3. 翻訳した文書を、有償のサービスとして提供する場合
これは、海外の書物などを翻訳し、自国のローカル言語の書籍として販売するようなケースです。この場合は、プロの翻訳者、校正者によるレビューが行われます。
  
今回の記事では、上記「2」のケースで行うレビューの勘所についてお話しします。
以前、「10分以内で書く、ビジネスでも通用する英文メール (1)」の記事でもお伝えしたように、機械翻訳や AI 翻訳は、無償のサービスでも使いようによっては非常に有用で、自分でゼロから翻訳する手間を考えれば、かなり効果的なツールです。
ただし、機械翻訳や AI 翻訳は完ぺきではないという前提で、文章は、最終的には必ず自分で確認することが必至です。


私たちは、下訳があがってきたら、または、機械翻訳や AI 翻訳のアウトプットに対して、以下のようなレビューを実施します。
 
✅ 訳漏れの確認
最初に行うのが、この作業です。原文と翻訳文をつきあわせて、訳漏れになっている文がないか、または、余計な文章が追加されていないか(同じ原文が、2回翻訳されているようなこともあります)を確認します。もし漏れがあれば、追加で翻訳を行います。
 
✅ 用語の統一
特にマニュアルなどを翻訳する場合は、用語の統一が必須です。もし人間が翻訳する場合、または、翻訳用のソフトウェアを使用して翻訳を行う場合は、翻訳を行う前に、その文書用の「翻訳辞書」を作成し、同じ単語には同じ訳を使用するように設定します。
しかし、機械翻訳や AI 翻訳では、そこまでの指定ができないので、原文に同じ単語が使われていても、翻訳文には異なる単語が使用されていることもあります。
都度、別の単語を使ってよい文書の場合は、このレビューは不要ですが、そうでない場合はレビューの時点で用語を統一します。
 
✅ モードの統一
文章にはモードがあります。たとえば最もわかりやすいのが、「です・ます」調の丁寧な文体にするのか、または、「XXだ」と言い切る形の文体がよいのか。
カジュアルな感じの文章がよいのか、または、ビジネス向けの固い文章がよいのか、等。
1つの文書の中では、この「モード」は統一する必要があります。モードが混在すると、読者にちぐはぐで雑な印象を与えるからです。それも、レビューの大事な確認内容の1つです。
(意図的に、丁寧な文体の中に、「XXXだ。」と言い切り型の表現を混在させることもありますが、それは統一する必要はありません。)
 
✅ 日本語のレベル(自然なレベルか?)
これは、英語の文章を日本語に翻訳する場合の例ですが、たとえば、
Please click this button to open a new screen.
という原文があった場合、
「新しい画面を開くために、このボタンをクリックしてください。」
という訳も、決して間違いではありません。しかし、
「このボタンをクリックすると、新しい画面が開きます。」
のほうが、日本語としてはより自然です。
これらのコツは、翻訳業界では誰もが知る技術の1つです。
このようなレビューは、原文から少しだけ意味が離れるため、「意訳」と認識されることもありますが、文書の目的によっては、原文に忠実であることよりも、ローカル言語で読んだときに自然であるほうがより重要なこともあり、その場合には、このレベルのレビューを行います。
具体的な作業としては、一旦、用語や文体のレビューを終えた後に、「文章として読みやすいかどうか」という観点に集中して、改めてレビューを行います。
 
✅ その他の考慮点
今まで、英語の文章を日本語に翻訳するという観点で書いていましたが、日本語の文章を英語に翻訳する場合も、基本的な考え方は、ほぼ同様です。
しかし、1つ上の「自然なレベルの英語」になっているかどうかについてだけは、ネィティブの英語話者に最終確認を依頼することが望ましいです。

また、翻訳された日本文をレビューしていると、文章に違和感があったり、理解できない箇所が出てくることがあるので、その際には再度、別の機械翻訳や AI 翻訳にかけて検索することも有用です。
 
もし、機械翻訳された文書をレビューする必要がある場合は、上記のような項目に注意しながらレビューすれば、誰でも短時間で、品質の良い翻訳文書を作ることができます。
 

まとめ

あちこちで言われていることですが、今後、AI なしの生活に戻ることはないことを考えれば、むしろ、それをうまく活用するように柔軟に方向変換をすることが重要ではないかと私たちは考えています。
さらに、AI もまだ完ぺきではありません。機械翻訳や AI をうまく使いこなし、その弱点を人間が補足して短い時間で高い品質のアウトプットを生み出し、それがビジネスの成果に繋がることが最も大事なことではないでしょうか。
 
その1つの方法として、今回の記事がお役に立てば幸いです。