『失われた祖国』は、一度は読みたい一冊
『失われた祖国』はジョイ・コガワ著者、長岡沙里訳(二見書房)の長編。私のなかで忘れてはいけない宝の1冊だ。
手元にあるメモに残されている言葉。
『やさしいお母さん、私たちは沈黙してばかりいたため、道に迷ってしまったのです。無言でいることは、お互いにとって破滅でした。』
あとは、(アヤおばさんとエミリおばさん)と記している。
これだけでよみがえってくる主題。 (アヤおばさんとエミリおばさん)
第二次世界大戦中の日本人収容所の話は、アメリカのことはフィルムなどで知ってはいたが、書籍を手にすることはあまりなかったように思う。ましてカナダの日本人収容所の話は殆んど知らなかった。
アメリカ、カナダの日本人はそれでなくても経済的困難と差別に苦しんでいたのに、対戦国、敵国、しかも卑怯な開戦と思われたなかを連れていかれた。カナダの収容所では、アメリカの収容所より厳しく扱われた。
そのカナダの収容所での話。日本人にとって自虐的になりがちな主題であるし、これまでなら積極的には手にしなかった。今はウクライナとロシア、中国、アフリカ、中東、東南アジア、韓国など、世界との繋がりが顕著だ。読んだ方がいい。読んで過去を知った方がいい。
訳が読みやすかったこともあり、一気に読めた。(何があっても辛抱強く黙って耐えたアヤおばさん)と(自分たちの困難と権利を訴えたエミリおばさん)。だからアメリカの収容所はカナダよりは改善されたかと。
日本人は権利意識が弱い。謙虚は美徳。沈黙は金。・・・時としてそうした言葉が自分自身を束縛する。そしてお互いを牽制し合う。
最後の『やさしいお母さんへ』の呟き。そう、沈黙してばかりいると道に迷ってしまったと教えてくれる。だから話そう、伝えよう。自分を取り巻く環境を変えるのは、自分だから。人に助けてもらいながら、ネットワークを築きながら。『無言でいることは、お互いに破滅でした。』の言葉を、噛み締める。