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【感想】「すべての、白いものたちの」
※ネタバレ注意
今回読んだ本
凄まじい物語だった。研ぎ澄まされた刀のように鋭く、それでいて、磁石のように離れない文章だった。
私がこの本に出会ったのは行きつけの書店で、心が沈み込みゲームも読書も気が乗らなかった時だった。普段は英語圏の小説を探すためによく立ち寄る海外文学のコーナーに、その本は置いてあった。
和訳の題は「すべての、白いものたちの」、原語では「白い」と題されたこの本を手に取って開いた時、私は強烈な衝撃に襲われた。余計な描写を、情報を、印象すらも取り除き、心に直接刻みこむような鋭い文章の数々。立ち読みでは物語の流れをつかむことはできなかったが、それでも訳のわからないまま引き込まれていくような言葉の数々。
その時は結局本を買わずに家に帰ったが、数日過ぎてもこの本の印象はぬぐい切れず、事あるごとに脳裏によみがえってくる。やがて辛抱できなくなってきて、文庫本で買った後、心身が落ち着いてからようやく端から読み始めた。読み始めてからは一気呵成、分量が多くないのもあり、2日で一通り読み終えた。
あらすじとしては、かつて戦争で破壊された異国の地に足を踏み入れた一人の女性と、産まれて間もなく息を引き取った彼女の姉を巡る物語である。主に彼女が見聞きしたもの、あるいは思い出したことが描かれている。
彼女が思い浮かべるのは白いものと、生と死について。生きることのささやかな喜びと、人が忘れようとせずにはいられないような暗い死。読んでいて苦しくなることも多々あったが、この苦しみもまた、この本の魅力につながっているのかもしれない。
この本は生きることと死ぬことについてをこれ以上ないほど克明に描いているように思える。その苦しみを、悲しみを、怒りを、それでもと願い続ける祈りを。軽い気持ちで踏み入れることのできないこれらを、平易かつ印象的な言葉で記したこの本には、独特な力がある。
これを読んでくださった方も、機会があればぜひこの本を手に取って、目を通してみてほしい。きっと貴方を白いものと、人生を巡る旅へと連れて行ってくれるはずだ。
<了>