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【100の職種プロジェクト】第9回 ASD・ADHD×プロジェクトマネージャー

100の職種プロジェクトは、社会で働くさまざまな障害や特性がある人たちが、どんな職種や業種でどのように働いているのかインタビューし、障害種別・特性と職種・業種をかけ合わせた100通りの働き方を発信するプロジェクトです。個人が診断を受けている障害名に左右されず、それぞれの経験や環境に着目しながら、多様な人たちの働き方・環境について発信しています。

第9回は、IT企業のプロジェクトマネージャーとして活躍している山岡さん(仮名)にお話をお伺いしました。

障害の内容と発覚時期

Q. まずは山岡さんの障害について教えてください。

私の特性は、ASDとADHDです。うっかり忘れとか、衝動的に何かしてしまうとかが多いですね。
ASDについて言うと、スムーズなコミュニケーションが取れないな、と思うことがしばしばあります。仕事でもプライベートでも、色々なコミュニケーションシーンがあると思うんですが、正しい返答の仕方がわからない。ちぐはぐな回答をしてしまうことがあります。

Q. 診断を受けたきっかけを教えてください。

大学を卒業して入社してから、書類の確認漏れとか忘れ物のミスがすごく目立つようになりました。例えば、今は客先と話すときもリモートでやることが多いと思いますが、入社当時はカチカチのスーツを着て客先に出向いていたんです。ある時、出張に行くのにジャケットを忘れて、シャツの上にコートだけ着て来てしまって。相手側から怒られることはなかったですが、社内ではしっかり注意されました。
新入社員の時は特にそういうミスが頻発してましたね。学生時代に発達障害について学ぶ機会があって、知識は持っていたので「もしかしたら自分も発達障害かもしれない」と思って病院に行きました。

Q. 学生の頃からそういった傾向はあったんですか?

そうですね、小学校から大学までずっとあったと思います。
例えば小学校のとき、毎日お弁当を作ってもらっていたんですが、三日連続でお弁当箱を持ち帰るのを忘れたことがあります。大学生のときは遅刻もよくありました。ADHD特性のようなことはずっと起こっていましたが、学生時代は全然深刻に捉えていませんでした。発達障害について学んだりもしていましたが、社会人になるまではまさか自分がそうだとは思ってなかったですね。

Q. 今は服薬していますか?

薬の服用はしてないです。コンサータは妄想不安が更に高まってしまって、ストラテラは肝障害の副作用が強く出てしまって飲まなくなりました。自分には合わなかったので、周りの環境調整やカウンセリングで対処しています。

現在の業務内容

Q. 現在の業務内容を教えてください。

企業が使うシステムを売る会社に所属しているのですが、その商材となるシステムの設計に携わっています。プロジェクトマネージャーとして進捗管理や予算の管理をしつつ、自分でシステム開発もしています。割合は大体、プロジェクトマネージャーとしての仕事が6割、自分で手を動かして開発をするのが4割ですかね。

システムを作るのは主に協力会社で、そこに業務を発注して作ってもらっています。
例えば「今回は申し込み画面を作ります」となったら、2週間ごとの計画を立てて協力会社に依頼します。3日に1回ぐらい進捗を確認して、進捗に対するアドバイスをしたり「もっとこういうふうに修正してほしい」とお願いしたり、というのを日々回しています。
開発にかかる費用のことも考えなきゃいけないので、「協力会社に何人準備してもらって、どのくらいの期間で稼働してもらうのか」を決めて、必要なお金の管理もします。
これがメインのプロジェクトマネージャーとしての業務です。
加えて、協力会社だけではできない部分や、予算の関係で発注できない部分は自分で開発をしています。基本的にはノーコード/ローコード開発ですね。ノーコード/ローコード開発は、コード開発と比較してプログラムを自分で書くことが少ないため、スペル間違いなどの些細なミスが発生しづらく、イライラしづらいので自分にあっていると思っています。

ノーコード/ローコードとは・・・
ノーコード:ソースコードを書く必要のない開発方法。プログラミングに関する専門知識がなくても、アプリなどを開発することができます。
ローコード:簡素なコードを用いた開発方法。ノーコードでの開発よりも自由に機能を実装することができます。

SB テクノロジー「ノーコード・ローコードとはそもそもなに?|5分でわかる基礎情報」より
パソコンを使用する男性


Q. プロジェクトマネージャーとして管理をする、という業務では、計画性が求められるのではないかと思います。ご自身の特性との相性はどうですか?

相性は悪くないです。というのも、管理するよりも管理される方が大変なんですよね。(笑)
管理されると、期限通りに何かをやらないといけないじゃないですか。でも、管理する側は、相手を急かすのが仕事になるので。もちろん簡単ではないですけど、自分にはこっちの方が向いていると思います。

就職活動と入社後のキャリア

Q. プロジェクトマネージャーという仕事は、昔から目指していたんですか?

いや、流れでなった感じですね。
そもそも就職活動をしていたときは、学校教育に関わるような仕事をやりたかったんです。大学でもそういった教育関係の勉強をしていましたし、学校でのボランティアなんかをやるNPOでも活動してました。そういった経験もあって、学校教育に関われる民間企業に入りたいと思っていたんですけど、あんまり選択肢は多くありませんでした。幅を広げないと当時(就職氷河期)の就職活動は乗り切れなかったので、人材研修やコンサルも見ていました。

結果的に現在の会社に入って、今年の春ぐらいまではシステムの使い方や開発方法をクライアントに伝える研修講師をしていました。PaaSと呼ばれるシステムの使い方なんかを企業の方に教えていましたね。8年間講師をやってノウハウもたまった状態で、自社内のシステムを作る部署に異動することになり、今に至ります。

Q. 就職活動中にイメージしていたものとは、別のキャリアを歩んでいるという感じでしょうか。

そうですね。就活中や入社した当時は学校教育への関心が強かったので、それができないことに対するモヤモヤはありました。入社後4年ぐらいは、イメージと全く違うことをやらされてると感じて、転職を考えたりとモチベーションが高くなかった時期もありました。

その一方で、「システムを作って、業務を効率化する」っていうことへの関心もだんだん覚え始めたんですね。手動でやっていた作業を自動化して業務を効率化するっていうことは、結局は自分のためになるんです。例えば、注文書に書いてある内容を社内の決裁文書に書き換えたりする時に僕はミスをしやすい。でもそういった作業を自動化すれば、働きやすくなるし、自分の苦手な業務にとらわれず、得意なところを活かした仕事の進め方ができるようになるんじゃないか、って思い始めたんです。なので、今ではやりがいも感じているし、今後も専門性を高めていきたいと思っています。

障害特性と働き方

Q. 自分の障害特性を踏まえて、キャリアについて意識している事はありますか?

ジェネラリストみたいな「色々なことをやる」というキャリアよりも、何か特化した部分を作っていくことを意識しています。なぜかというと、色々なことに手を広げるジェネラリストだと、不得意な作業が業務に関わってしまうことが多いからです。
苦手なことがあっても「この人を雇う意味がある」と思ってもらうためには、すごく強い分野を作るのが大切になると思うんです。「『この人は多少遅刻はあるけど、この仕事ができるならいいか』って思ってもらえるようにしなさい」というアドバイスをいただいたこともあります。
そういったことを踏まえて、8年間の講師経験に加え、自分で勉強して資格を取ったりもして、結果として扱っているシステムにすごく詳しい人材になれました。
だからこそ自由に働けている、苦手なことをやらなくてもいい環境を作れていると思っています。

Q. 障害に対する配慮は、どのようなものを受けていますか。

会社に産業医と産業カウンセラーがいて、何かあったときに相談できる体制が整っています。僕の障害については産業医と産業カウンセラーに伝えてあります。あと、自治体の発達障害者支援センターで合理的配慮リストを作ってもらっているので、それを産業カウンセラー経由で上司に渡しています。障害を持っていることは、管理職の人たちは知っているんですが他のメンバーは知らない状態です。

具体的にどんな配慮をしてもらっているかというと、管理職の人たちは僕の障害を知っているので、それに基づいて業務の振り分けをしてもらっています。それでもデータ入力など苦手な業務はあるので、それについては他の人に「ダブルチェックお願いします」と頼んだりして対処しています。

ASD特性のところでは、他の人がやっているコミュニケーションを模倣することを心掛けてます。他人を見て、こういう時はこういう風に返す、対応するっていうのを真似することによってかなりマシになっているかな。人の行動から学び取ることが比較的得意だったこともあって、コミュニケーションエラーが起こったなと思ったら、上手な人の様子をみて学ばせてもらっています。

障害を持つ学生に一言

Q. 最後に、障害を持つ学生たちへアドバイスをお願いします。

自身の障害と付き合いながら仕事をすることへの不安が強い人は、できるだけ大きい企業に入った方がいいと思います。ベンチャーとか中小企業っていわれる企業だと、障害を持っている方に対する配慮をする余裕がない場合が多いからです。もちろんケースバイケースではあって、小さいからこそ柔軟な会社もあると思います。ですが、一般的には大きい企業の方が配慮のための制度が整っていたり、障害に対する理解も大きいと感じます。例えば今の会社で産業医との連携ができているのは、大企業ならではだと思います。

もう1点挙げるとしたら、自分の専門性を強く持った方が生きていきやすいと思います。
AIが発展したことで、単純作業の仕事はなくなりつつあるんですね。コンビニのレジ打ちも自動化されている。なので、何らかの専門性を高めていって「自分はここがすごく得意だ」って言えるようなことを作っていくと、社会に出ても苦労しないのではないかと思います。


「できないことをできるようにする」だけではなく、「尖った強みを持って『できなくてもいい』環境をつくる」というアプローチの発想がとても新鮮でした。
「できないこと」を知っていくと同時に、「できること」を見つけていくのもとても重要なんですね。
インタビューにご協力いただき、ありがとうございました!


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この記事を書いたのは「かのん」。高度難聴の大学生。趣味は映画鑑賞で、特にインド映画が好きです。

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