「思う」という意味の英語表現を調べたら30種類以上あった
最近ある本で面白い話を目にしました。
川端康成のノーベル文学賞受賞に大きく貢献した、翻訳家のサイデンステッカー氏(Edward George Seidensticker)についてのことなのですが、氏は川端の文章を「数少ない言葉を繰り返し使って綾をつけていく」と評し、例えば「思う」という言葉をとってみても、作中に何度も用いられるため、翻訳に苦労したというのです。
なぜ苦労するかというと、日本語と比較して英語は同じ表現を繰り返すことを嫌うからです。大学などで英語の論文指導を受けると、この点は非常に細かくチェックされますね。
パッと訳せと言われたら反射的に「思う」= "think" としてしまいがちですが、英語の文章、とくに文学作品で何でもかんでも "think" と翻訳していたら、とてもノーベル文学賞など考えられないものになっていたでしょう。そのためサイデンステッカー氏は川端作品に出てきた「思う」という日本語に対し、文脈に合わせて30種類近くの表現で訳したそうです。
そのエピソードを知って興味が湧いたので、「思う」という日本語に相当する英語を調べてみました。
試しにジーニアスの和英辞書で「思う」と検索すると、think のほかに、feel, believe, consider, suppose などの候補が出てきます。
「believe = 信じる じゃないの?」と思われるかもしれませんが、「思う」という行為を「ある考えを強く心に抱くこと」と解釈すれば、訳語としてはおかしくありません。
そもそも別々の言語を完全に1対1で対応させて訳すことはできないので、このように解釈や文脈に合わせて訳語を変えていく必要があります。そのためサイデンステッカー氏も苦慮したのですね。
様々なニュアンスを含む「思う」について考えると、例えば希望を表す hope, want, would like, wish などは「~したいと思う、~が欲しいと思う」と訳されます。
他にもよく使うレベルでは
推測:guess
予測:predict, foresee, forecast
想像:imagine, fancy
確信:realize
期待:expect, anticipate
感謝:thank, appreciate
疑念:suspect, doubt, wonder
懸念:be afraid, care, mind, be concerned
意図:intend, plan
決意:decide, determine
判定:regard, judge
などの語が様々な「思う」という日本語に対応しています。
もう少し細かい使い分けを必要とするものでは
presume:根拠があって、当然そうだろうと思う
assume:確証はないが、十分にあり得ることだと思う
なども当てはまります。
英検1級レベル以上のもっと難しい単語や、20世紀前半以前に使われていた古臭い表現なども含めるとまだまだありそうです。
翻訳家や通訳の専門家はこうした言葉の違いを理解して、文脈や状況に合わせながら一つ一つ適したものを当てはめていく作業を繰り返すわけですから、本当に大変ですね。
この記事を書きながらサイデンステッカー氏の翻訳が実際にどのようになされているか気になってきたので、機会があれば川端作品の原文と対比しながら、また気づいたことをnoteでお伝えできればと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございました。