復興へ向かう福島の恵みを、極上の料理で味わう。「浜通り美食倶楽部ツーリズム」レポート
こんにちは。ガッチ株式会社広報部です。
私たちは、福島県双葉郡浪江町の大堀地区で約350年間生産されてきた国の伝統的工芸品「大堀相馬焼」松永窯の4代目である松永 武士が始めた会社です。日本各地の伝統工芸品の魅力を、世界に向けて発信する商社・メーカーとして活動しています。
福島の太平洋側に位置する浜通りは、寒流と暖流が交わる豊かな海でとれる「請戸(うけど)もの」や、豊かな風土で育まれる農産物など、美味しいものがいっぱい。しかし、震災で被害を受けた浜通りの農産物は、風評被害もあり、その魅力が消費者に伝わりづらい課題があります。
松永が代表を務める浪江マーケティング合同会社では、浜通りの生産者を訪ねて、スペシャルディナーを楽しむ「浜通り美食倶楽部ツーリズム」を9月25日・26日に開催しました。コミュニティサロン「TERIYAKI美食倶楽部」とコラボレーションし、美食家たちと浜通りをめぐった2日間をレポートします。
地元に愛されて50年の味噌ラーメンは、ニンニク大もりで
集合は、JR浪江駅に11時半。観光バスに乗りこんで出発です。ガイドをつとめるのは、浪江マーケティング合同会社の松永武士。車窓から街を眺めながら、浪江の現在を語ります。
東京電力福島第一原子力発電所の事故により、長い間人が住むことができなかった浪江町。放射線量が低い地域ごとに避難が解除され、少しずつ住民が街へと戻ってきています。
市内を数分走り、一件目のお店へ到着です。
「サッポロラーメンたき」は、南相馬で50年にわたり地元に愛されてきたラーメン店。震災で被害を受け閉店しましたが、店主の滝真琴さんがお店を復活させました。移転を経て、現在は浪江の国道沿いにお店を構えています。
一番人気の「味噌ラーメン」は、ほっとする優しい味わいです。受け取り口の隣には、すりおろしにんにくコーナーが。地元民によると、最初はそのまま、その後にんにく、最後に辛味噌を追加して味の変化を楽しむのがツウだそう。
震災をいまに伝える震災遺構へ
生産者だけでなく、復興へと向かう浜通りの現在や震災の被害について知ることのできる場所にも向かいます。「浪江町立請戸小学校」は、震災遺構として2021年から公開されています。
東日本大震災の発生時、約1.5キロメートル離れた大平山を目指したことで、奇跡的に児童と教職員が全員助かった請戸小学校。ゆがんだ柱や壊れた天井など、当時のまま保存されている建物は、津波の被害の凄まじさを物語ります。
「浪江町立請戸小学校」から少しバスを走らせて、海のそばへ。東京電力福島第一原子力発電所から10キロほどのこの場所からは、遠くに原発の排気塔の影をとらえることができます。請戸の海は、白波が立っていました。
時間ができたので、松永武士の実家でもある「大堀相馬焼松永窯」へ。浪江町の山間に大堀相馬焼の窯元が集まる大堀地区は、2023年3月31日まで避難指示が出ていました。人がいない10年の間に、野生のサルなどが入り込み、ガラスが割られて無残な状態に。「松永窯」は、震災遺構としてこの場所を残す予定です。
どぶろく文化から誕生した、新しく自由なサケ
福島・小高に2021年に誕生したクラフトサケの酒蔵「haccoba」。
クラフトサケとは、日本酒(清酒)の製造技術をベースに、従来の「日本酒」では採用できないプロセスを取り入れたお酒。JR小高駅構内にオープンした「haccoba 小高駅舎醸造所&PUBLIC MARKET」では、「haccoba」のお酒を試飲することができます。
全4種類から選べる試飲は、1種類無料、3種類500円。メインプロダクトの「はなうたホップス」を一口飲んでみると、そのフルーティーさにおどろき! ホップの華やかな香りがふわりと漂います。
ほろ酔いでバスに乗り「haccoba 浪江醸造所」へ。醸造にたずさわる武田朋之さんにお話を伺います。
様々なスタイルを取り入れて、多様な味わいに挑戦しつづける「haccoba」。「はなうたホップス」は、家庭でどぶろくを楽しんでいた時代に東洋のホップ「唐花草(カラハナソウ)」を入れて醸造していた「花酛(はなもと)」のレシピにルーツを持っています。伝統のなかに新しさを見出す「haccoba」の哲学にふれる時間になりました。
浪江に移住した若者が育てる香り豊かなエゴマ
「オオタカ農業」は、浪江町に移住して就農した大高充さんの農場です。4.6ヘクタールもの広大な畑で、エゴマを栽培しています。
もともと花農家として就農を考えていた大高さんは、コロナ禍もあり、農家さんから圃場を引き継いでエゴマを育てることに。エゴマの実の食感と香りを生かしたスイーツ「えごまる」など、商品も開発し、浪江の農産品のPRに取り組んでいます。
10月後半から収穫がはじまるエゴマ畑では、実を付ける前の小さな白い花が風に揺れていました。
農薬を一切使わず、初期の除草作業を行うことで虫害を最小限に抑える大高さんのエゴマ。実は小ぶりだけれど、香ばしい香りを持っているそう。ためしに1枚エゴマのはっぱをいただいて食べてみると、シソのさわやかな香りが広がります。
浜通りの美味しいものが勢ぞろいのスペシャルディナー
おまちかねのスペシャルディナー。浪江産の生産者が育てた農産物・海産物を、一流シェフが調理するコース料理をいただきます。
会場である「和坐(わざ)」は、先祖伝来の旗指物を風になびかせた騎馬武者が疾走する「相馬野馬追」に出陣する吉田家の築140年の古民家を再生したスペース。運営する(株)ランドビルドファームの吉田さやかさんは、武士が縁起の良いカツオ(勝男)をニンニクと一緒に食べていたという歴史をヒントに、「相馬野馬追」の馬の堆肥を活用した「SAMURAIGARLIC(サムライガーリック)」を栽培しています。
コースは7品+サプライズ1品。腕をふるうのは、大阪の「ビストロ・ド・ヨシモト」「ル・クロ」などで修行ののち、完全予約制隠れ家レストラン「Lee」のシェフに26歳の若さで就任し、現在赤坂「amorphous」でシェフをつとめる、イ・チュンファンさん。
オオタカ農業のエゴマの香りがたまらない「里芋アイスとパンペルデュ」や、請戸地区で水産業を営む柴栄水産の肉厚なヒラメをつかった「ヒラメのパイ包み 日本酒とトマトのソース」など、食通たちも大満足です。
著者が驚いたのはカツオ。サムライガーリックとごま油で和えられたピンク色のカツオは、カツオの概念を覆すほど、やわらかく脂がのっていました。
D&DEPARTMENT福島店の一周年を記念した「1st Anniv. -Harvest-」(haccoba)、浪江の花「コスモス」酵母で醸造した「磐城壽純米吟醸「壽こすもす」」(鈴木酒造)など、提供される浜通りの酒のうまいこと!スペシャルゲストで来てくださった浪江町長吉田栄光さんのお話を聞きながら、浜通りの夜が更けていきます。
相馬の復興市民市場で、おみやげと海鮮を使った料理を
2日目は浪江から少し足を伸ばして相馬市へ。旅の最後に向かうのは、震災から10年目にオープンした「浜の駅 松川浦」。ここは、松川浦漁港で水揚げされた新鮮な魚介類を中心に、名産品が揃う復興市民市場です。
「交通の便があまりよくないことが心配でしたが、予想以上に多くの方が訪れてくださっています」と語るのは「浜の駅 松川浦」店長の山田豊さん。海水温が上昇したため、下関で漁獲されていたフグが近年相馬で獲れていることなど、浜通りのお魚事情も教えてくださいました。
松川浦で養殖されているアオサノリなど、浜通りのとびきりのお土産を選んだあとは、市場内の「浜の台所 くぁせっと」へ。新鮮なお魚を使った料理が大人気の食堂です。著者が選んだのは「地魚丼」。とれたての地魚の海鮮丼に、地魚のおだしをかけていただきます!
さて、2日間かけて浜通りの美味しいものにたくさん出会いました。それは同時に、震災から13年経った浜通りの現在を知る時間でもありました。復興へと向かう浪江や相馬の街なみを眺めること、そして美味しいものをつくる生産者の生きざまにふれることで、浜通りの食の素晴らしさをもっと深く感じることができるはず。
ガッチ株式会社・浪江マーケティング合同会社では福島県産品の美味しさを発信するイベントやツアーを今後も実施していきます。
(text&photo.ガッチ広報部 荒田詩乃)