2杯目 ニホンブンレツ
代々マスターの趣味に彩られた町外れの変わった喫茶店。小説と珈琲好きのマスターがここを訪れる読書家達をこだわりの珈琲でもてなす。さて、今日も1冊の小説を抱えたお客様がやって来ました。今日はどんな小説に出会えるのでしょうか。
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からん、からん……
いらっしゃい。お好きな席へどうぞ。
今日はどんな小説を?
「今日は『ニホンブンレツ』を」
懐かしいですね。最近、文庫化されたようで。ごゆっくり。
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いかがでした?
「少し、辛いですね」
山田悠介先生の小説は読み終えた後に重たく感じるものが多いですからね。
「でも、ギリギリハッピーエンドという感じがするんです」
ギリギリ、ですか。
「結局世の中ってそんなもんじゃないですか。全員が全員ハッピーエンドで丸く収まることなんかなくて、でも心のどこかでは自分は幸せだと思いたくて」
なるほど。
「それを丁寧に、というかわかりやすく書いてくれてるなと思うんです。全てが幸せではないけど終わりよければすべてよし、って感じで」
私も最後のシーンでそれを感じました。
「あの結末を幸せと思うしかないんですけど、もっといい結末もあっただろ、って思ってしまって」
それがこのお話の面白いところでしょうから。
「そうですよね。僕もこんなふうに大切な人のことを想えるかなって考えると出来そうにないんですよね」
大切な人、いるんですか?
「残念ながらまだ。でも、いつか出逢えた時にあれくらい強くなってたいですね」
そうですね。
「あと、この話ってかなりぶっ飛んだ設定じゃないですか?可能性こそあれど現実じゃ誰もこんなことする勇気はない」
そうでしょうね。理解するには時間が少しかかりそうです。
「でも、そんな中で自分と同じように状況を飲み込めていない主人公と一緒に『なんで自分だけが』って主観的に世界を見れるのは作者の腕なんですかね」
どうでしょうか。お客さんの集中力とか想像力もあるんじゃないでしょうか。
「冷静に1歩引いて見れば『苦しんでるのはお前だけじゃない』ってなるはずなんですけど、何故かならないんですよね」
主人公も後半に本郷の話で冷静になってましたね。
「きっと自分もそうなんでしょうね。苦しい時ってつい悲観的になって『なんで自分だけ』ってなっちゃうんでしょうね」
それが人間なんでしょう。仕方ないことで、それを助け合っていかなきゃいけないんだと思います。
「そうですね。ごちそうさまでした。また来ます」
えぇ。お待ちしてます。
からん、からん……
〈続〉