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積読こそが完全な読書術である。

【超訳】積読は「読むことを未来へ残す」知的資本の一形態であり、書籍に囲まれた環境は、自分の関心やテーマを可視化し深めるための「ビオトープ」。未読の本こそが新たな対話を生み出し、自己探求と自己肯定をもたらす。

「積読こそが完全な読書術である」永田 希
超訳まとめシート

積読は本当にネガティブなことなのか?

読めていない本の山を前に、「あれもまだ読めていない」「いつか手をつけるはずなのに」という罪悪感を抱いた経験はありませんか?一般的には「積読(つんどく)」と呼ばれるこの状態は、「本を読む」とは程遠い、ただの“読み残し”とネガティブに捉えられがちです。しかし、本当にそうなのでしょうか。

「あれもまだ読めていない」という気持ちに対する従来のネガティブな捉え方を打破し、「積読」こそが豊かな知的生活を支える真の読書術であると論じています。自分にまだ開かれていない本の存在を肯定する、まさにコペルニクス的発想です。

積読に感じる「うしろめたさ」の正体

永田氏によれば、積読のうしろめたさは、「いつか誰かに読まれるはずだ」という書物自体が持つ期待に対して、自分がすぐに応えられないことから生じるものだと言います。しかし、私たちは忘れがちですが、書物は単に「今」読むためのものだけではなく、長期的に「保存され保管される」ために作られたものであることを思い出すべきです。

本というのは「いつか誰かに読まれるはずだ」という期待を持った存在であり、人に「いま読んでほしい」と語りかけてきます。しかし、私たちは忙しい日常の中で、この要求にすぐ応えることが難しい。すると、「買ったのに読まないなんて、もったいない」「放置している私はダメだ」というネガティブな感情が生まれるわけです。

ところが永田氏は、そもそも書物とは「保存され保管される」ことを前提に作られたメディアだと思い出すべきだと語ります。情報が溢れる現代社会において、「今読むべき」というプレッシャーにとらわれず、むしろ積読を通じて知的なビオトープ(生態系)を構築していくことこそが本書の提案です。

積読は「読むことを未来へ残す」行為

では、「積読こそが完全な読書術である」とはどういう意味なのでしょうか。永田氏の見解によれば、積読は単なる“未読の山”ではなく、“読む未来”を手元に残しておく行為だと言えます。いつ読むか分からない本であっても、手元に置いておくことで、「読書の余白」が未来の自分に贈られるからです。

さらに、積読の山に囲まれている状況は、一種の「ビオトープ(生態系)的環境」を生み出すとされます。本を“積む”ことは、自分がいま何に興味を持ち、どんなテーマを追っているのかを可視化する行為です。それは、あたかも多様な生物が共存する自然環境のように、多様な関心が混在する知的空間を作り上げます。

積極的は読み残しではなく知的行動

本が多ければ多いほど、一見カオスに思えるかもしれません。しかし、このカオスこそが新たな組み合わせや発想をもたらし、読者の思考を深めてくれるのです。積んでいるだけでは「情報を活かせていないのでは?」と不安になるかもしれませんが、実際は“未読”こそが未来との対話の可能性を秘めています。だからこそ永田氏は、積読を“ただの読み残し”として消極的に捉えるのではなく、むしろ能動的に「自分の知的行動」として再評価せよと提案します。

たとえば、本を選ぶ際の基準として参考になるのが、アドラーの『本を読む本』で提示され「初級読書」「点検読書」「分析読書」「シントピカル読書」の4つの読書段階です。また、ピエール・バイヤールの『読んでいない本について堂々と語る方法』を引き合いに出し、完全な読書は不可能であり、むしろ未読の状態でこそ新たな対話の可能性が開けることも視点として面白く感じられるはずです。

積読を通じて自己を知る

また、積読の重要性を理解するために、「本を読まない方法は、本を読む方法よりもはるかに大切である」というユニークな視点が示されています。。これは、読むべきでない本に時間を奪われないための意識的な選択の重要性を示しており、読書の効率や質を高めるためのアプローチです。だから著者は語るのです。「堂々と語るだけでなく、堂々と積むことが必要である」と。

さらに、永田氏は、積読によって形成される「ビオトープ的な積読環境」についても言及しています。これは、情報の濁流の中で自分自身を見失わないための個人的な知的空間のことであり、スロー思考によって文化資本を蓄積し、自分の輪郭を明確にする場であるとされます。

積読から学ぶ「スロー思考」の価値

積読とともに考えさせられるのは、読書における「ファスト思考」と「スロー思考」のバランスです。永田氏は、100冊の本を無理に読もうとするよりも、自分なりのテーマに基づいて選んだ10冊を知っていることが、自己肯定感をもたらすと述べています。これにより、読書がただのインプット作業ではなく、自己探求の旅であるという新たな視点を与えてくれます。

近藤麻理恵氏の『人生がときめく片付けの魔法』では、一冊一冊の本が自分の人生にとってどんな位置づけかを考えるよう促していますが、積読はまさにそうした“ときめき”や“瞑想”を両立させる行為とも言えます。

手に取った本がすぐにときめきをくれなくても、後日ふと心が惹かれる瞬間が訪れるかもしれない。それを信じて本を“積む”というのは、自分自身を肯定するスロー思考の姿勢です。

自分なりのテーマを持った10冊があればいい

積読について語ると、よく「結局、全部を読み切るのは無理」と開き直りがちですが、永田氏やバイヤールが言うように、そもそも人間は“全部読む”ことなど到底できません。むしろ「すべてを読む」のではなく、「必要なときに、必要な本を開く」ことが大事なのです。

たとえば、100冊を無理に読もうとせずとも、「自分なりのテーマを持った10冊を知っている」だけで、十分な自己肯定感を得られるのです。テーマを決めて本を積む行為は、それ自体が自分の興味や問題意識を明確にする作業でもあります。それが、自分の輪郭を形作り、知的資本を蓄えるスロー思考の実践というわけです。

書物は「閉じと開かれのあいだ」にある

哲学者ジャン=リュック・ナンシーの言葉「書物は閉じと開かれのあいだにあるもの」は、積読を考える上で示唆的です。見た目には閉じられた本も、実は読み手との関係性によっていつでも“開かれる”可能性を秘めています。

積読された本は“いま”は閉じられているかもしれない。しかし、あなたが必要とするとき、また興味が湧くとき、あるいは無作為に選んでペラペラめくるとき——その瞬間に本は“開かれた存在”へと変わります。つまり、積んでいる間も書物はあなたと対話しようとしているのです。

だからこそ、積読をただ「溜まる一方で読めていないもの」と見るのではなく、「対話を保留している本」と捉えると、ひとつのライフスタイルとしてポジティブな意味を帯びてきます。

雇用クリーンプランナーの仕事と積読が似ている理由

ここで少し意外な視点を加えてみます。実は、雇用クリーンプランナーの仕事と「積読」の発想には共通点があります。雇用クリーンプランナーとは、働く人々が安心して自己表現し、人間関係のハラスメントを未然に防ぎ、職場を改善していくための資格・役割です。

そのために必要なのは、多様な知見を蓄え、“いま”役に立たないとしても将来的に使えるように知的資本をキープしておくこと。そして、それぞれの人や状況に合わせたコミュニケーションを探ることです。これはまさに、積読がもたらす「ビオトープ的な知的空間づくり」と同じ思想と言えませんか?

  • 多様な状況に対応できる引き出し
    本を読まずに積んでいると、いざ必要になったときに適切な資料を参照できる。雇用クリーンプランナーも、職場の悩みが顕在化したときに、多面的なアプローチを提供できる引き出しが必要。

  • 自己認識を深める姿勢
    何をテーマに、どんな本を積むのか。それは自分が“いま”どんな問題意識を抱えているかの鏡になる。雇用クリーンプランナーも、職場の課題や個人の心理的負担に対し、自分と相手をどう理解し、どう寄り添うかが求められる。

積読を「堂々と」する

結局のところ、積読に対する「うしろめたさ」をどう扱うかは、その人の読書観に大きく左右されます。もし本を「買ったらすぐ読まないといけない」義務のように捉えてしまえば、積んでいる本はただの負担にしかなりません。しかし、永田氏の提唱するように、積読を“読む未来を手元に残す”行為と見れば、それは個人の知的ビオトープを育むポジティブな実践へと変わります。

「本を読まない方法は、本を読む方法よりはるかに大切」という逆説的なフレーズも、情報が氾濫する時代だからこそ響きます。どれを読まないかを選べるからこそ、本当に必要なテーマに集中し、スロー思考で自己を探求できるのです。いま100冊すべてを読めなくても、自分が本当に必要とする10冊を知っているだけで、自己肯定感が高まる。

そして積読された本は、今は閉じられていても、いつか開く瞬間をあなたと共に待っている存在です。書物が「閉じと開かれのあいだ」にあるように、積読も「読むか読まないかのあいだ」を揺れ動く境界的な行為。それこそが、自己表現と自己肯定のプロセスにもつながるのではないでしょうか。

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大田勇希|ハラスメントを哲学する
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