発達障害は“病気”ではなく“個性”――支援と環境が生む新たな可能性
【超訳】発達障害は「治すべき病気」ではなく、その人らしさを表す個性。本人の特性を活かせる支援と環境づくりが求められている
『発達障害大全』を手に取って感じたのは、「発達障害」という言葉が持つ幅広さと奥深さについて、私たちはまだまだ知識が足りないのではないか、ということです。先日発達障害についての学び直しの記事を書きましたが多数の反響もいただきました。
多くの職場や社会の場で、発達障害のある方々の多様な特性が理解されず、彼らの強みを活かしきれない現状がある。黒坂真由子さんの本は、そんな現代の課題を捉え直し、発達障害についての理解をより豊かにしてくれる一冊です。
職場での人間関係の改善や、組織のあり方を見直すきっかけにもなり、私たちの「雇用クリーンプランナー」の活動を通じた支援を考える立場の方にも、必ずや新しい視点を与えてくれるはずです。
発達障害とは何か?
発達障害は、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習障害(LD)、発達性協調運動症(DCD)など多様なタイプの総称であり、「病気」ではなく脳の「特性」です。診断には「日常生活での困りごとがあるか」が重視され、本人がどれだけ障害を感じるかが重要です。
自閉スペクトラム症(ASD):対人関係やコミュニケーションで困難が生じやすく、強いこだわりが特徴です。児童期および成人期全体でおおよそ1~2%とされています。
注意欠如・多動症(ADHD):注意力の散漫や多動性が目立ち、児童期で5〜8%、成人期で2〜4%とされています。
限局性学習障害(LD):読む、書く、計算するなど、特定の学習分野で困難を感じることが多いです。
発達性協調運動症(DCD):協調運動が苦手で、「不器用」と言われることが多いのが特徴です。
診断は、発達界隈では伏線回収ともいわれています。なぜ自分がうまくできなかったのかの答え合わせすることは「自分を理解するためのステップ」であり、生活に必要な支援や環境改善を探る契機として定着しつつあります。
社会の変化が生きづらさを生み出している
「発達障害が増えている」とよく耳にしますが、実際には社会が変わり、それに伴って「自分を発達障害と認識する人」が増えているのです。昔から存在していた特性や困難が、現代の社会の中で新たな問題として浮き彫りになってきているわけです。
社会が求める「普通」や「基準」がどんどん変わっていく中で、それにうまく適応できなければ、まるで自分が何か「問題」を抱えているかのように感じてしまう。
これは、パワハラの問題とも似ています。「なにがハラスメントか」という社会的な感覚も変わりつつあり、行為そのものではなく、背景にある価値観や社会の期待が影響するのです。だからこそ、正しく理解し、柔軟な対応が求められるのです。
発達障害に必要なのは「治療」ではなく「支援」
発達障害にとって大切なのは「治療する」ことではなく、「その人に合った支援と環境づくり」です。たとえば、ASDやADHDの人がその特性を活かして働けるような職場環境を整えることで、彼らの強みが自然と発揮されるようになります。
子供の場合も同様で、診断は「どのようにその子が成長し、発達していくか」を理解するためのものであって、「静かにさせる」ためのものではありません。
2024年4月からは改正障害者差別解消法が施行され、「合理的配慮」が義務化されましたが、配慮するだけでは解決できない場合もあります。過剰な配慮は、その人の能力を引き出す妨げになることもあるので、慎重な対応が重要です。
実は7人に1人が「境界知能」
現在、不登校や学習障害などの問題が生徒指導や特別支援といった縦割りで切り分けられています。しかし、子供たちに変わるように求めるだけでなく、子供たちがそのままの自分でいられるよう、社会や制度、教育環境の側を変えていくべきです。
特にIQ75以下とされる境界知能は約1700万人、人口の約14%が該当するといわれています。発見・支援が不十分な現状があり、社会全体で理解とサポートを進めることはこれからますますの課題です。
発達障害の人と働くということ
発達障害のある人と一緒に働く際に難しいのは、その障害が目に見えないことです。一方で、こうした人たちの「ちょっと変わっている」個性は、見方を変えれば優れた才能として光ることも多いのです。
逸材を見つける視点を持つことが、個人と組織にとっても大きな力になります。特に指導と支援のポイントはマネジメントに関わる全ての人が理解するべきです。
指導と支援のポイント
時間をかけること:発達障害の人の場合、普通の人より時間がかかります。3ヶ月や6ヶ月で結論づけるのは早すぎる。
感情を込めない指導:淡々と伝えることが重要です。善意の人ほど苦しみやすい傾向があります。
相手の特性を理解する:何らかの生きづらさを相手が抱えていることを理解するのが出発点です。
発達障害を「個性」として尊重する社会へ
発達障害を「問題」ではなく「個性」として受け入れ、その人の特性を活かせる社会へと変わることが、私たちの未来には必要です。「何が得意で、何が苦手か」だけではなく、「どこにこだわりがあり、どんな思考の癖があるか」を周囲が理解し、共に支える姿勢が求められます。
発達障害を持つ人々の特性に合わせた社会環境の構築は、社会全体の包摂力を高め、多様な人材が活躍できる社会づくりにつながります。これこそが、すべての人にとって生きやすい社会を目指すための大きな一歩なのです。
「雇用クリーンプランナー」は、多様な個性を持つ人々が働きやすい職場環境を実現するための資格です。発達障害やパワハラ問題など、個人と環境のミスマッチから生じる困難に対して、客観的な視点と柔軟な支援で、誰もが働きやすい環境を整えるための知識を提供していきたいと考えています。
誰もが尊重され、支え合える職場づくりを目指すためにも、これからも雇用クリーンプランナーの取り組みを広げていきたいと思います。