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『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読んで考えた現代社会の働き方と知的活動のバランス
1. はじめに
三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読み、現代社会における仕事と知的活動のバランスについて改めて考えさせられました。この本は単に「忙しくて本が読めない」という現象にとどまらず、労働環境が個人の文化的活動や成長にどのような影響を与えているかを鋭く指摘しています。
特に印象に残ったのは、「半身で働く」という概念です。これは、全力で仕事に取り組むだけでなく、余白を持って他の活動に時間を使うことを奨励するものですが、このアイデアの背後には社会学者の上野千鶴子さんの言葉があります。2023年1月に放送された『100分 de フェミニズム』(NHK・Eテレ)において、上野さんは「全身全霊で働く」男性の働き方と対比して、女性の働き方を「半身で関わる」と表現しました。この言葉は、労働と家庭生活、個人の成長を両立させるために重要な視点を与えてくれます。
2. 「半身で働く」という概念の魅力と現実の課題
三宅さんが紹介する「半身で働く」という概念は、私にとって非常に魅力的に映りました。仕事に全力を注ぐのではなく、意識的に仕事に対して距離を置くことで、他の知的活動や趣味に時間を割くことができるというアイデアです。これは、自分自身を大切にし、仕事以外にも充実感を得るための一つの方法です。
しかし、現実には「半身で働く」ことを実践するのは簡単ではありません。特に日本の労働環境では、長時間労働や人手不足が常態化しており、余裕を持って他の活動に取り組むことは難しいです。私も、仕事や家庭に追われる中で、自分自身の時間を確保することがいかに難しいかを日々感じています。
とはいえ、この本を通じて、私たちの労働のあり方そのものを見直すきっかけになりました。「半身で働く」ことは、私たちが自身の時間や精神的な健康を守るために、意識的に選び取るべきスタイルであると感じました。
3. 長時間労働と知的活動のジレンマ
本書の中で特に共感したのは、「単に時間がないから本が読めないのではなく、仕事とは関係のない知識や文脈を取り入れることが心理的に難しくなっている」という指摘です。仕事が忙しくなると、どうしても専門的な情報に偏りがちで、他の視点や知識を受け入れる余裕が失われてしまうことがあります。
長時間労働が常態化している職場環境では、仕事が終わった後に趣味や読書に取り組むエネルギーも不足してしまいます。仕事が中心になり、他のことに目を向けるのが難しくなるこの状況は、多くの現代人が共感できる悩みではないでしょうか。
4. 読書がもたらす「ノイズ」の重要性
読書がもたらす「ノイズ(偶然性)」の重要性について、著者は強調しています。この「ノイズ」とは、予定外の新しい知識や視点に触れることによって得られる発見や驚きです。効率的な情報収集だけでは得られないこの偶然性が、私たちの創造力を刺激し、新しいアイデアや発見の源となるのです。
三宅さんが主張する「ノイズ」は、日常の仕事の中では得られない「無駄」と思われるような知識や経験の大切さを教えてくれます。これこそが、仕事や日常生活において新しい風を吹き込む要素になるのです。
5. 「自己決定・自己責任論」の危険性
三宅さんが触れている「自己決定・自己責任論」の危険性についても、深く考えさせられました。現代社会では、自己実現や自己責任という考え方が強調されがちですが、それが個人に過度なプレッシャーをかけてしまうことがあります。特に、全力で働くことが求められる環境では、燃え尽き症候群や過労のリスクが高まります。これに関しては今の能力社会の一番危険だと私も思いますね。サンデル教授も警鐘を鳴らしています。
ニーチェの言葉を引用しながら、「自分を忘れるな」「激務に走るな」と訴えかける部分は、私たちにとって重要なメッセージです。自己実現のために働きすぎることの危険性を理解し、適度な休息やリフレッシュを大切にすることが、これからの働き方には必要だと感じました。
6. これからの働き方に向けた社会的な議論
この本を読んで感じたのは、個人の働き方だけでなく、社会全体として「半身で働く」という考え方を取り入れる必要があるということです。労働時間の短縮や働き方の柔軟性を高めるためには、個人の努力だけでなく、企業や社会全体での取り組みが不可欠です。
また、文化的な活動や趣味に対する理解を深めることも、働き方改革の一環として考えるべきだと思います。読書や趣味が私たちの精神的な豊かさをもたらす重要な要素であることを、社会全体で再認識する必要があるでしょう。
7. 結論
三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は、現代社会における仕事と知的活動のバランスを考える上で、多くの示唆を与えてくれる作品です。上野千鶴子さんが提唱した「半身で働く」という概念は、特に現代の労働環境において重要な視点であり、私たちがより豊かでバランスの取れた生活を送るための一つの道しるべとなるでしょう。
今後、私は自分自身の働き方を見直し、より「半身で働く」ことを意識していきたいと思います。
おまけ
私が中学生だった頃の夏休みは、ほとんど読書で過ごさせていました。今思えば、あの時間は本当に贅沢で幸せなものでした。しかし、今の私は仕事と子育てに追われて、読書も単なる情報収集になってしまっていると感じています。読書を通じて、単純に言葉を楽しむ時間がまた訪れることを願っています。