見出し画像

陰陽猫はヒゲを式神にする(#コミックエッセイ)

 ハルとは、我が家の三代目の保護猫となった雄猫である。

 その日、発売日を楽しみにしていたコミック本を購入した私は、家に持ち帰るのがもどかしく、帰宅途中にある公園で、日向ぼっこをしながら読むことにしました。
 公園内の自販機で缶コーヒーを買い、大きなタコの滑り台があるベンチに座り、真新しい本のフィルムを外して読み始めました。
 タコの滑り台では小さな女の子とその母親と、傍にはキジトラの仔猫がいました。
 きっとその母娘の飼猫なんだろうと思っていたら、いつの間にかその母娘はいなくなっていて、仔猫だけが取り残されていました。
 漫画を読み終えて、そろそろ帰ろうと立ち上がると、カラスに狙われている仔猫が目に入り、そのまま自分だけ帰る訳にもいかず、連れて帰ったのがきっかけで我が家の家族となったのでした。

仔猫時代のハル

 そんなハルですが、すくすくと育ち、今では6㎏を超える巨漢に変貌。
 だが見た目に似合わず、今年10歳になるかなりのビビり猫。
 来客の度に押し入れに引き籠り、帰るまで出てこないので、友人たちの間では家族にしか姿を見せない幻の猫と呼ばれるほど。
 ビビりだけではなく、私には家庭内ストーカーを繰り返し、トイレやお風呂まで付きまとい、夜は私の指を吸いながら眠りにつきます。
 夫は「私のことを命の恩人だと思っているんじゃい?」というが、ただ甘えたいだけのように思えます。

 ある日のこと、出勤して自分のデスクに行くと、私の机の上に1本の猫のヒゲが置かれていました。
 どうして会社に猫のヒゲが・・・?
「えっ、なんで?」と後ろにいた同僚Aを見ると、
「落ちてたから、拾っておいたよ」と・・・。
 同僚Aは社内でも指折りの猫好き。

 見ると太く長い白いヒゲ。
 根元の部分がわずかに茶色、ハルのヒゲに間違いないと確信!
「やだ!会社までついてきちゃったの」と驚くと、すかさず同僚Aが、
「心配してるんだよ、きっと。見守られてるね」と満面の笑顔。

 ハルは会社まで自分の分身を私にくっ付けてストーカーしてきたのか?
 それとも式神を操る陰陽師(陰陽猫)なのか??
 何の目的で?

 猫の毛が服に纏わりつくのは珍しくないけど、ヒゲは今までなかったことだ。
 まあいいやと、ゴミ箱に捨てようとする私を制止し「お守りにするから、そのヒゲ頂戴!」と手を差し出したのは同僚B。
 同僚Bは、猫を飼ったことはないが、珍しもの好きで『呪』のかかった式神ならぬ式髭を欲しいと思ったようだった。

 飼い猫のヒゲを大事に保存するためのヒゲケースも販売されているほどだから、猫のヒゲを集めている人も結構いるのでしょう。現に3匹の猫を飼っている同僚Cも、すでに財布に愛猫のヒゲを忍ばせているらしい。
「財布に入れて置くとお金が溜まるんだって」と、まゆつば話で更に同僚Bをその気にさせていました。

 かくして、ハルのヒゲは同僚Bの金運のお守りになりました。
 ご利益があるかどうかは謎ですけどね。

        了(1197字)


これは以前、本当にあった出来事で、今でも同僚Bは財布にハルのヒゲを忍ばせているようです(笑)
ご利益があったようには見受けられませんが💦


#コミックエッセイ大賞

いいなと思ったら応援しよう!