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『ジオジオのかんむり』老いがテーマの絵本

『ジオジオのかんむり』
作:岸田 衿子
絵:中谷 千代子
出版社:福音館書店
孤独なライオンの王様と小鳥の心の交流
ジオジオはライオンの中でも一番強かった王さまで、立派なかんむりをかぶっています。でも、ひとりぼっちでした。そこへ、卵をすべて失った小鳥がやってきました。嘆く小鳥にジオジオは語りかけます。「たまごをうみたいなら、いいところがあるぞ」。それはなんとジオジオのかんむりの中。ここなら安心、たまごは無事かえり小鳥たちは元気にジオジオのまわりを飛び回ります。年老いたライオンと小鳥との心の交流を優しいタッチで描きます。

福音館書店HPより


 この絵本は、長男や次男はあまりお気に入りではなかったようですが、学校の教科書にも選ばれているので、幼稚園や小学校の朝の読み聞かせの時間には、何度も持って行って読み聞かせをしていました。
 子どもたちは、寂しくしていたジオジオに声を掛けて、ジオジオの冠の中に卵を産んで、幸せそうにしている様子を、嬉しそうに見ているようでした。
 仲良しの友だちがいない、あるいは友だちの中に入っていけない寂しい気持ちは、幼い子どもたちにも共感できる感情なのだと思います。
 
 これが大人が読むと感想は少し変わってきます。「老い」がテーマになっているからです。子供向けではある絵本ですが、むしろ部長や取締役にまで昇りつめたサラリーマンに刺さるのではないかと思います。 
 ライオンと言えば百獣の王で、他の動物たちはその姿を見ただけで逃げ出してしまいます。それが野生の世界では当たり前で、若い頃のジオジオは、雄々しく強い自分が誇らしかったに違いありません。
 ところが全盛期を過ぎ、老いて弱々しく孤独な自分になっていることに気付きます。かといって冠を捨てて媚びることは誇りが許しません。
 そんな時、灰色の小鳥が声を掛けてきました。この小鳥も卵をすべて失った孤独な小鳥です。ライオンは自分の境遇を、この小鳥の中に見たのかもしれません。ライオンは始めて自分から、共同で卵を守り育てることを提案します。老いてもう目が見えなくなっているとはいえ、百獣の王ライオンです。冠の中の卵は敵に狙われることなく、無事に育ちました。最後のページでは穏やかな笑みを浮かべるジオジオの姿があります。

 穏やかで優しい王様ライオン、ジオジオのような幸せな晩年を、大人たちは夢を見るのだと思います。老いても誰かの役に立てるということ。そして愛する人が傍にいてくれるということ。それだけで人は幸せで満たされた人生を送ることができるのかも知れません。
 



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