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サウナで達した話

休職中の目標として、人間らしい生活リズムを取り戻すということがまず自分の中にあった。規則正しい時間に起きて、3食飯を食らい、適度に運動し汗をかき、日をまたぐ前に布団に入る。その安定した生活リズムが土台にあった上で、その上に日中の元気な活動や健康的な思索といったピースを積み重ねることができる。

実家で過ごしているとご飯は親が作ってくれ、良い食事を摂ると良い睡眠だ取れるもので、自然とすぐに調子を取り戻すことができた。しかし「適度に運動し汗をかく」は意識しないとなかなか取り組むことができなかった。外が寒いわ緊急事態宣言だわで出不精になっていたのでランニングしようにも少しハードルが高い。ということで、自律神経系を整える意味でもサウナに通ってみようと思うに至った(身体にストレスを与えるイメージが強くあって、ある程度落ち着いてから行きたいと思い、実際に行ったのは休職から2,3週間経ってからだったが)。

サウナは昨今色んな本が出てることやインフルエンサー達が推奨していることも相まって”マイナー趣味の中のメジャー”になってきた感がある。自分がフォローしている範囲でも、オモコロで記事を書いている銭湯神ことヨッピー氏や、元日本一有名なニート・pha氏、進撃の巨人の作者・諫山先生など複数の著名人がサウナをおすすめしている。

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さらに身近なとこだと、先週の記事で私の文体を褒めてくれた友人がサウナーを自称している。

そういった自身のSNS環境から、自然とサウナに対する関心・整ってみたいという欲求が高まっていたことも一つのきっかけだった(かもしれない)。

ここでサウナ初学者のためにサウナでととのうとはどういうことなのか軽く説明しておくと、高温のサウナ(湯船でも可)と低温の水風呂に交互に入る「交互浴」を行うと、脳から変な物質が出て「なんか超気持ちいい感じ」になることである。「ととのう」の語源についてはその名付け親・プロサウナーの濡れ頭巾ちゃんという方が以下のように述べている。

サウナのあとの穏やかな心地よさを表そうと思った時に自然と出てきた言葉。「脈拍が斉う」「精神のバランスが調う」「準備が整う」などの"ととのう"の総称がサウナーに広まった。 (『東京ウォーカー 2019年12月号』より)

閑話休題、その「ととのう」を実際にやってみた。交互浴に似たようなことは実は大学生の頃に一度やったことがあるのだが、その時はキチンとした知識がなく、(なんか、まぁこんなもんかぁ)程度の感想だった。今回は冷水浴の後に外気浴を入れて、熱→寒→休→熱→寒→休→...という流れでやってみることにした。

サウナは10分程度入る。テレビが付いているので暇で困ることはないが、まぁ当然のことながら暑い、いや熱い。残り2,3分となった辺りから(まだか...まだなのか...)という気持ちの方が強まってくる。時節柄、周りのおっちゃん達との距離にも気を遣う。

10分経ったら逃げるようにサウナルームを退室。冷水を頭からぶっかける。身体を水に馴らすのと汗を流すことが目的である。水風呂には肩までしっかりと浸かり、呼吸すると喉がスースーするように感じられるくらいまで入るというのが一般的らしい。まぁ大体1分が目安である。30秒ごとに水中に潜り首から上もしっかりと冷却する。1分経ったら露天に出て、海やプールサイドに置いて有りそうな白い椅子に身体を預け、体温と心拍数を元に戻していく。

外気浴を始めて2,3分経った頃だろうか、"それ"は突然に来た。(…あ、なんか耳の聞こえがおかしいな…)と思っていたら一気だった。まず平衡感覚というか、三半規管がおかしくなり、聴覚が鋭敏になる。色んな音が細部まで聞こえ、鳥の鳴く声や風の音、露天風呂からお湯が溢れる音、銭湯屋内を換気する換気扇の音、銭湯と露天を繋ぐドアのスライドする音、ドクンドクンという自分の心臓の音、そういった一切合切が耳に入ってくる。入ってくるのに、脳はそれらを処理できない感覚。身体は重たく、椅子に全身が沈みこんでいくような錯覚を覚える。日光が暖かく全身を包み込み、風が肌を優しく撫で、風になびく体毛の一本一本がありありと感じられそうな感覚。瞼も重くて開けていられない。仮に開けたとて視界に入ってくる情報を整理できない。五感はものすごく働いているのに、思考が情報の波に飲まれて制御不能に陥っている。それでいて不安はなく、心はその情報の氾濫から一歩下がった所にいてとても落ち着いている



達した。



うまく言語化できないが、確かに私はそう感じた。「ととのう」なんて綺麗な言葉ではなく、オーガズム絶頂心理的射精くらいの言葉が自分にはしっくりくる。下品なのでみんなオブラートに包んで「ととのう」なんて言葉を使っているんだ。私的には「達する」を広めていきたい(広まらない)。

そうこうしている内に体温が徐々に上がってくると、流石に風が肌寒く感じられてくる。そしてまたサウナへと戻っていく。温めた後、水風呂に浸かり、外で寝転がる。自分の場合は、1回目の外気浴がピークで、2回目、3回目はあまり気持ち良いところまで達せなかったが、それでも心地良さは十分に感じられた(交互浴は3周くらいを1つの目安とするらしい)。3回目の外気浴を終えた後は軽くシャワーで汗を流し、浴室を後にする。服を着て待合スペースの椅子に座ると、もう一生立てないのではないかと思うくらい疲れている。仕事終わりとは違う、いい疲労感が身体に残り、その日の夜はぐっすり寝ることができた。

正直、それぞれの時間や回数は個人差があると思うし、トリップする際の感覚というのも人それぞれだと思う。その日のコンディションにもよる。が、日常に疲れている人や疲れがなかなか抜けない人は特に、一度騙されたと思ってやってみて欲しい。


サウナは良いぞ。

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