FINAL FANTASY XVI
日本を代表するビデオゲームの一つである「FINAL FANTASY(以下FF)」シリーズ。
その歴史を簡潔に表すなら家庭用据え置きハードとともに歩んだ歴史と言い表すことができる。
1987年12月18日にファミコンで初代「FINAL FANTASY」が発売されて以来、実に7世代30年以上に渡り継続的に据え置きハードでシリーズを展開している。
今回はそんなFFシリーズ最新ナンバリングタイトルである「FINAL FANTASY XVI(以下FF16)」についてレビューしていきたいと思う。
例によってネタバレも多く記述していくので、未プレイの方は閲覧しないことを推奨する。
ダークなようで王道の物語
今作のストーリーをシンプルに表現するなら、「ダークな世界観で展開される、王道ファンタジー物語」といった所だろうか。
今作は発売前からダークな世界観を主張し、主人公クライヴ・ロズフィールドの当初の目標も「祖国と弟の復讐」と言ったようにダークな印象が強いものであった。
実際、ダークファンタジーとしての雰囲気は終始一貫しており、序盤から中盤にかけては各国の思惑が重なり紛争が絶えない状況であり、また終盤になると民衆が怪物化するなど、より終末的な印象が強まる。
その一方、クライブの「復讐」はかなり早い段階で決着がつき、その後は「仲間と協力して世界を危機に陥れる黒幕と決着をつける」という王道ストーリーが展開される。
クライブ自身を見ても、客観的には世界の秩序を崩壊させる大罪人という立場ではあるものの、本人の性格はいたって善良であり、年齢こそ従来よりやや高めなものの、少年漫画の主人公がそのまま年を重ね落ち着きを得たようなキャラという印象が強い。
そのため、今作を本格的なダークファンタジーとして見ると、やや肩透かしな印象を持たれるかもしれない。
その一方、単体のストーリーとしての完成度は高い。
やや複雑な設定や専門用語も多いものの、プレイしているうちに自然と理解できるレベルである。
クライヴが癖のなく共感しやすい性格ということもあり、彼の眼を通してゲームの世界に入りやすいのも好感触。
また、ストーリーの流れも「マザークリスタルを破壊し、守護者であるドミナント(大ボス)と対峙する」の繰り返しであり、設定の複雑さに反してシンプルなものとなっている。
また、本編はほぼ全ての伏線を回収しているものの、EDは比較的あっさりとしており、エピローグも余韻を残すものとなっている。
これはもちろん意図的なもので、その後クライヴがどうなったのかを考察してほしいという意図があるものと思われる。
実際、プレイヤーからはやや賛否分かれている印象だが、この手のEDとしてはしっかりとヒントが散りばめられており、むしろ答えにたどり着きやすい部類だとは思う。
また、ED中に米津玄師の「月をみていた」が挿入歌として流れるのだが、非常に印象的な使われ方をしている。
いわゆるタイアップなのだが、本編中では全くと言っていいほど存在感がなく、ここぞという場面で印象的な使われ方をしているという、タイアップのお手本のような使われ方をしている。
今作のストーリーを総じて言うなら、「EDがやや消化不良だが、全体としてはクセが少なく入り込みやすいストーリー」と言えるだろう。
その一方で、アクや個性の強さをストーリーに求める人には、やや物足りないかもしれない。
派手なようで、細かい部分の調整が印象的なバトル
シリーズ初の本格的なA.RPGとなった今作だが、その戦闘システムは比較的シンプルなものに仕上がっている。
剣による近距離攻撃と魔法による遠距離攻撃を基本に、溜め攻撃・突進技・空中コンボ・ダウン追い打ち攻撃・回避・パリィといった基本的なアクションを状況に応じて使い分けるというオーソドックスなアクション戦闘となっている。
シンプルとは言え単調なものにはなっておらず、基本アクションだけでもなかなか多彩であり、また操作性も良いため「思ったアクションを出せない」ということもめったに起こらない。
これら基本アクションに加えて、「召喚獣フィート」「召喚獣アビリティ」という特殊なアクションも存在する。
「召喚獣フィート」は各召喚獣に紐づいたアクションであり、「高速移動」「敵の攻撃をガード」「複数の敵をロックオンし攻撃」という基本アクションでは出来ないアクションをすることが出来る。
強力な反面、召喚獣は3つまでしか装備できないため、必要に応じて取捨選択しなければならない。
「召喚獣アビリティ」は、各召喚獣が取得できるアクションであり、主に強力な攻撃手段となる。
AP(アビリティポイント)を投入することで強化でき、マスター化することで装備した召喚獣を問わず、自由に装備することが出来る。
各召喚獣ごとに2つ、計6つのアビリティを装備することが出来る。
基本アクションに加えて3つのフィートと6つのアビリティを使いわけて戦っていくのだが、上級者の操るクライヴの動きはまさに変幻自在で、非常にスタイリッシュな動きを魅せてくれる。
もちろん、クリアするだけならそこまで高度なアクションは求められていないので、アクションが苦手だからと言って尻込みする必要はない。
また、一部の敵には体力ゲージの他にウィルゲージがあり、これを0にすることで一定時間攻撃不能状態となり、なおかつ攻撃をヒットされるごとにダメージの倍率がアップする。
つまりボス戦では、いかにウィルゲージを削り、効率よくダメージを与えていくかが問われることになる。
そのために、装備する召喚獣やアビリティをうまく組み合わせ、コンボを狙っていくのだが、これらが上手くはまった時の爽快感は非常に高い。
また、ボス戦ではしばしばQTEも見られるが、これも良く出来ている。
QTEというと眉をひそめられる方もいるだろうが、今作に関してはQTEでストレスが溜まることはほとんどなかった。
そもそもQTEの問題は何かというと、プレイヤーが弛緩するムービー中に突然操作を要求され、時間的余裕もなく、その上失敗するとペナルティを貰うという理不尽さから来るものが多い。
今作のQTEは戦闘中に発生し(戦闘中なのでプレイヤーが弛緩している可能性は低い)、操作方法も□(攻撃)ボタンとR1(回避)ボタンに限定されており(普段の操作と一緒のため、直感的に理解しやすい)、時間的猶予もかなり余裕を持っている。
結局自分は最後まで一度も入力に失敗しなかったのだが、ペナルティもそう大きくないようだ。
そのため、QTEの理不尽さを最小限に抑えつつ、プレイヤーの臨場感を高めるというQTE本来の役割をしっかりと果たしている。
他に評価できる点として、バトル時の視認性の良さが挙げられる。
大作アクションゲームにありがちな問題として、エフェクトが派手すぎて視認性が悪くなるというものが良く上げられる。
今作に関しては、敵の攻撃範囲がかなり分かりやすい形で表示され、それでいて決して派手さを失っていないという絶妙なバランスに仕上がっている。
そのため、敵の攻撃にやられた時も理不尽さを感じる場面はほとんどなく、自身の行動が悪かったと受け入れることが出来た。
地味な点だが、理不尽さを感じないということは、そのまま再プレイの意欲にも繋がるため、こういった丁寧な調整は重要であると思う。
ちなみに、A.RPGとなったことで難易度が高くなるんじゃないかとプレイ前は心配していたが、意外なことに今作の難易度はシリーズでも低い部類に入る。
そもそも、救剤措置が豊富なうえに、死亡時のペナルティも非常に軽い。
「オート○○」系のアクセサリを使えば、極端な話ボタンを連打するだけでもクリア出来るぐらいである。
が、それを抜きにしても難易度は低く、自分は「アクションフォーカス」でオート系アクセサリを使わずにプレイしたのだが、作中苦戦することはほとんどなかった。
個人的にはもう少し高くても良かったんだけど、多くのプレイヤーに最後までプレイしてもらいたいという意向なのだろう。
ただ、リスキーモブに関してはもう少し強敵を用意してくれても良かったと思う。
無駄をそぎ落としたシンプルなシステム
今作をプレイすると、出来るだけ無駄を省きシステムをシンプルにしようという意図が見える。
例えば今作はミニゲームがほとんどない。
FF7リメイク及びリバースには非常にミニゲームが多く、過剰なまでのサービス精神を感じたのだが、同じシリーズでもこうも方向性が違うのかとある意味感心させられる。
サービス精神は確かに重要だが、それが行き過ぎると時にはサービスを受ける側も辟易させられることもある。
今作はあくまでストーリーとバトルに力を入れ、それ以外は出来るだけシンプルに仕上げようとしたのだろう。
別に今作のボリュームが少ないということはなく、サブクエストとリスキーモブ討伐も含めると、クリアまで70時間以上と十分なボリュームのため、ミニゲームが無いことを不満に感じることはなかった。
また、フィールドマップもオープンワールドではなく、FF12に近い複数のエリアに分かれたマップ構成となっている。
とは言え、それぞれのエリアは十分な広さであり、国産ゲームでは最高レベルのグラフィックもあり、風光明媚な景色を楽しむことが出来る。
成長システムもかなりシンプルなものとなっている。
クライヴのステータスは、HP・攻撃力・防御力・ウィルの4つしかなく、成長の方法もレベルを上げるか装備を上位のものに変えるかの二つだけ。
装備に関しても、素材を集めて強化するというシステムはあるが、武器ごとの属性や特殊能力と言ったものはなく、基本的にその時点での最高の装備を整えるだけという簡素なもの。アクセサリの取捨選択に多少のカスタマイズ様子こそあるが、過去作と比較しても戦略的な要素は少ない。
戦闘自体が面白いことに加え、敵の動きや召喚獣の性能で難易度のバランスを上手く取っているため、実際にプレイして単調さを感じることはなかったが、RPG要素をオミットしていることは人によっては気になるポイントだろう。
あと、個人的に気になったのが、移動中に表示されるミニマップが存在しないこと。
ミニマップがあるとプレイヤーの目線がそちらに行くため、ゲームのメインであるフィールドに集中してほしいから無くしたという意図は理解できる。
ただ、タッチパットを押すとエリアマップが表示されるため、結局そちらを確認しながら移動することになり、手間が増えただけだった。
どうせなら、ミニマップを無くすのではなく、表示のON・OFFをプレイヤーで選べるようにしてほしかった。
とは言え、プレイ中に気になった点は上記のミニマップが無いことぐらいで、他には欠点らしい欠点は見られなかった。
非常に高いレベルのグラフィックながら、ロード時間がほとんどないのも素晴らしい。
ド派手な召喚獣バトル
発売前から目玉要素の一つとして紹介されてきた召喚獣バトル。
実を言うと、この要素については懐疑的な心持であった。見た目こそ派手だが、実際はイベントバトルのようなもので、ゲーム的にはあまり面白いものではないのだろうと。
結論から言うと、その懸念はほぼ当たっていた。その上で言う、素晴らしいと。
システム的には通常バトルから召喚獣切り替えを無くしたもので、特筆すべき部分はない。
クライヴのアクションそのままに操作できるため、その点で戸惑うことはないが、召喚獣バトル独特の要素というものは特に見当たらない。
特筆すべきはその演出で、はっきり言って完全に特撮の世界である。
まず、クライヴがイフリートに変身顕現するという基本設定からして、ウルトラマンや仮面ライダーのオマージュと見て取れる。
それぞれの戦闘シチュエーションも印象的で、キックで止めを刺したり、ビームを打ち合ったり、タイタン戦ではがれきの上を軽やかに駆け抜け巨大な相手に取り付くという軽快なアクションを見せ、バハムート戦では強大な相手に対抗するためフェニックスと合体してイフリート・リズンと化するなど、ノリが完全に特撮ヒーローやロボットアニメのそれである。
ちなみにラスボスに対しても、生身のステゴロで止めを刺している。本来ファンタジー作品でステゴロで止めを刺すなどと違和感しかない演出なのだが、今作を最後までプレイすると納得感しかない。そりゃ変身ヒーローがラスボスに止めを刺すならステゴロ以外有り得ないよな。
実のところ、召喚獣バトルはゲームを構成する要素としては僅かなものでしかない。
大半のバトルは生身で行い、一部の重要なボス戦でのみしか発生しない。
だが、その少ない機会でド級のインパクトを残すことに成功している。ムービーを見てもスタッフがノリノリなことが伝わってくるし、全編通して陰鬱でフラストレーションのたまる展開が多いからこそ、召喚獣バトルの爽快感も格別のものとなっている。
あえて気になる点を指摘するなら、シナリオ上重要なボスであるオーディン戦では召喚獣バトルが発生しなかったこと。
せっかく斬鉄剣究極奥義・大斬鉄に対して大斬鉄返しでカウンターを決めるという訳の分からない演出があるのに、ダメージ表記が通常バトルのそれであるため、いまいち爽快感を感じられなかった。
とは言え、発売前の懸念を力技で納得させたその手腕には敬意を表したい。
自分はゲームには日常では感じえない驚きを求めている。それは自分の予想を常に超えてほしいという願望でもあるのだが、自分でもいつの間にか「いかに気持ちよく予想を裏切ってくれるか」ということばかりを期待するようになった。
今作は久々に「予想通りだが、ここまでやられると納得するしかない」という形で自分の願望を満たしてくれた。予想を裏切るばかりが期待への応え方ではないことに改めて気づかせてくれたことには、スタッフ一同に感謝したい。
総評
このゲームの魅力を言い表すのは難しい。
ゲームとしては全体的に高品質かつシンプルなものに仕上がっている。
プレイして複雑な部分やフラストレーションの溜まる部分はほとんどなく、ゲームの世界にしっかりとのめり込むことが出来る。
ストーリー・バトルともに良くも悪くも無難なものに仕上がっており、安心して楽しめる。
言い方を変えれば、全体的に高品質だが、このゲームならではのずば抜けた魅力が何かというと返答に困る、優等生的なゲームと言える。召喚獣バトルを除けば。
全体的に優等生だからこそ、召喚獣バトルの異様なテンションが否応でも目立つ。
例えるなら、普段はあまり目立たない優等生が、文化祭でデスメタルバンドのボーカルとしてシャウトした、ぐらいのインパクトだろうか。
ただ、この訳のわからぬごった煮感こそFFということも出来る。FFとは何か?という問いに明確に返答することは出来ないが、召喚獣バトルのはっちゃけぶりには確かにFFの遺伝子のようなものを感じた。
無難なようでいて、どこかおかしい。まさにFFらしい一作と得る。