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あこがれの君! 【ショートショート】

心春こはるという名前が 誰だったのか  思い出すのに
ちょっとだけ 時間が掛かった

その 心春 から   俺のスマホに連絡が来るなんて
想像もしていなかったからだ

俺と彼女は 同じ高校の同級生だったが  親しく話
をした記憶は   全く無かった

月並みな言い方だけど  彼女はクラス中の男子の
憧れの的と言ってよい 存在だった

であれば  さぞや 女子達からは 嫌われてた
だろうと思われそうだが   決してそんなことは
無かった!

むしろ  その性格の良さと 可愛らしさで 心春は
女子達からも 絶大な人気を誇っていたのだ

要するに  誰からも 好かれるアイドル的な存在
… それが 心春だった


そんな人気者だった彼女が   誰かから  俺の
メルアドを聞き出した
と前置きをして メール
を送ってきたのだ

一体  どういうかぜの吹き回しなんだろう

俺みたいな えない男に  わざわざ コンタクト
してくるなんて?
 

メールの中身は簡単だった  ぜひ会って話がしたい
正月の休み中なら  いつが良いのか教えて欲しい
… そんな内容だった

それを読んだ俺は  天にも昇る気持ちになった!

あの … 高嶺たかねの花だった 心春とデート出来る!
しかも  先方からのご指名ときてる!

あぁ 早く心春に会いたい …
会って いろんな 話をしてみたい



二人が待ち合わせた場所は   彼女がお気に入り
だという シックな喫茶店『巴里パリ』だった

俺は遅れる訳にはいかないと考えて … 約束した
14時より  30分も早く入店して  何度も時計を
見ながら 彼女を待った


お店の入口のドアベルが “カランカラン”と鳴り
彼女は 14時少し過ぎに  店内へと入って来た

驚いたことに 彼女は  ピンク色のあでやかな
『振袖姿』だった!

お店に入ってきた彼女と目が合った瞬間 …
俺は軽い眩暈めまいを覚えた

心春は俺を見つけて 急ぎ足で歩み寄る

「うわぁ … 久しぶりね~ 卒業以来だから
4年ぶりかな~ なんか逞しくなってるし!」

そう言われた俺は  すっかり嬉しくなり …

「 心春こそ  元気そうだね!  それに着物がよく
似合うよ!  ホントに綺麗だ!」

「うわ〜 ありがとう!  嬉しいなぁ …
でも … お正月っぽいでしょ? … うふふ 」

それから 同級生の噂話で盛り上がった
30分もすると 心春は こんな話を始めた


「実は … 琢磨君と一緒に行きたい所がある
んだけど … どうかなぁ~  時間ある?」

「いいよ!この後特に予定は入れてないし」

「ホント?  良かった!  じゃ … 出ましょ!」

「うん」

俺は 伝票を店員に渡すと  心春の分も含めて
コーヒー2杯分の 計 1,320円 を支払った

心春は「あっ  私が誘ったのに ゴメンね ~
でも … ご馳走様~ 」と言うと  とびっきり
の笑顔を見せた



心春が行きたがった場所は   駅裏の雑居ビルの
地下にある 特設会場
だった

会場の入口には  何の表示も出ていなかったので
中の様子は  全く分からなかった

心春は  入口にいる係員に 小声で何か 告げると
その係員が会場のドアを開けて   我々を通した

壁際には「印鑑」「掛け軸」「壺」と書かれた
紙が貼ってあり 説明員が何人か立っていて
テーブルに山積みにされた品物の側で 来訪者に
懸命に説明を行っていた


俺は 自分がどんな場所に連れて来られたのか
すぐに 理解できた!



しかし 心春が  透かさず話しかけてきた



「私ね  ここの「印鑑」も「掛け軸」も「壺」も
全部 持ってるんだ! 三つ合わせて『三貴サンキ』って
呼んでるけどね

私は  三貴  を手に入れた途端  幸運がドカーンと
舞い込んで来てね 今では 超ハッピーって訳!
だ・か・ら … 琢磨君にも ぜひこの運気をつかんで
欲しいなぁと思ったのよ 」

俺はここで … 直球の質問をしてみた

「 三貴には  一体 どんなご利益があるんだい?」

「あっ 興味を持ってくれたの?   あのね …
幸運が舞い込むんだよ!   誰だって 運気が
急上昇するの!  そして … 金運がガンガンって
上っちゃうの!   とにかく 凄いんだから! 」


そして心春は  躊躇ためらうことなく  夫々の金額を
口にしたのだ

「印鑑が50万  掛け軸が100万  壺が150万!
でもね 得られる運気を考えたら  タダみたいな
もんよ!  合計したって  たったの300万よ!」


俺は  その 突拍子とっぴょうしもない金額を聞いて
とにかく驚いた!


だが … しばらく考えて




そして  こう答えた





「なんだか俺も 三貴 が欲しくなっちゃった … 」




「うわ~  嬉しい! え~とね
口座振込みだけど大丈夫? 口座番号がね …
あっ もし手持ちのお金が足りない時は … 系列の
消費者金融があるから  安心してね … 」


俺は 彼女の話を聞きながらも   正直言って
こんな代物しろものまやかしに決まってるよ と思った


しかし … 美しい晴れ着姿の  憧れの 心春 と
束の間のデートが出来ちゃった訳だし それに …
ひょっとして 心春 との お付き合いに発展する!
なんて事だって  ないとも言い切れない訳だし …




俺は 三貴 をかかえる様にして持つと  心春と
一緒に  特設会場を後にした


そして 心春 に教えてもらったサラ金業者から
300万 借りると  即 指定の口座に振り込んだ!




ところが …




入金した途端 …  心春からの連絡はピタリと
途絶えてしまった



俺は 彼女の言葉を思い出した …

“金運がガンガン上って  超ハッピーよ~ ”

「そうだよ … 俺が振り込んだ300万の内の
2割 … いや〜 1割でも キックバックされれば
心春にとっちゃ  ハッピーに決まってるさ!」


こんな事なら 喫茶店で飲んだコーヒー代ぐらい    
出して貰ったって   どうって事なかったなぁ…
と  俺は心の中でつぶやいた





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