訴求力を高めることで真のニーズを満たすことができる
午前中、12時少し前に1本の電話をいただいた。
電話の主は去年末にある工事のご相談を受けたマンションのオーナー様である。弊社の方では年始早々に現地を確認し、最適な工法で改修する提案見積りを提出させていただいた。
住人様の生活を最優先した提案をしたつもりであったが、簡易な工法で弊社の見積りよりだいぶ安い金額を提示した他社の採用で工事が決まった。
一抹の不安もあったが、わざわざお断りの電話をいただいた際に、業者の説明でも、採用する工法で問題なしとのことで聞いていたので単純に弊社の力不足と認識し、工事が無事完了することを願っていた。
そして、今日いただいた電話の内容にもどるが、工事は終わったものの、工事代金もすべて支払ったあとから住民からのクレームが次々と出ているというのである。
そのクレームとは案の定、簡易な工法を採用したあまり、工事をしたにもかかわらず、問題が解消されていないばかりか悪化している箇所さえあるというのだ。
施工した業者の担当者には連絡を入れているが「忙しい」とか「契約通りの工事をした」とのことで一向に取り合わず、現地にも顔を出さないということだ。
困り果てたオーナーが失礼も承知で一度断った弊社に藁をもすがる気持ちで電話をしてきたという経緯。
まだ現地での確認はしていないが、お話を聞いている分にはおそらく改善策はあるだろう。当然追加のコストは発生してしまうが、完全なやり直しと比べれば大したことはない。
それでも見た目の不格好さは否めないし、それよりその追加コストを加算すれば弊社の提案した見積りと変わらないのではないか、とさえ推測する。
同じ様な費用をかけて質を落としてしまうとは、オーナー様もなんとも無念であると思うが、私もこの様な事態になることを一番恐れていたということで、なぜもっとオーナー様を納得させられる提案ができなかったのだろう、と反省した。
顧客は消費する際、自身の要望や希望を優先する。そのこと自体はごく自然のことだが、それはあくまでも顧客側から見えている側面に過ぎず、提供側から見える現実やその先の懸念事項までも加味した真のニーズに訴求しなければならない。
今回のように、コスト重視というのはあくまでも顧客側から見えている希望によるニーズであり、叶えたい気持ちもあるが、そのまま受け入れたがゆえに想像できる問題を隠してまで受注したいとは思わないのだ。
おそらく、弊社の見積り提出後に業者の提案があったのだと思うが、コストを気にしているというところにフォーカスし、起こる可能性の高い問題を適当に言いくるめて受注してしまったのではないかと思うのだが、断りの連絡をいただいた際にもう少し丁寧に説明をしておけばよかった、と反省をしている。
専門分野に知識のないオーナーに落ち度はない。むしろ訴求力や説得力などの力が乏しかった私に責任がある。今後このような悲劇が起こらないよう、提案するプロセスにもう少し磨きをかけることを心の中で誓ったのだ。