ゆるすい6年目の『変身』~早稲田祭2021:わせだ吹奏楽同好会(緩)ステージレポ~
⓪はじめに
2021年11月6日。2年ぶりに対面開催した早稲田大学の学園祭・早稲田祭で、ひときわ輝く演奏サークルがありました。
わせだ吹奏楽同好会(緩)、通称ゆるすい。
2年ぶりの対面でのパフォーマンスに臨んだサークルは、どこも「戻ってきた!」という感じを醸していましたが…ゆるすいだけは、「戻ってきた」というよりは、明らかに「変身」していました。それも、悪い方向にではなく、良い方向に。
僕たちが今まさに経験しているコロナ禍というものは、こと吹奏楽サークルにとっては死活問題です。楽器を吹くためにはどうしてもマスクを外さなければならないので、練習がままならない時期が長く続いていました。このような事情を考慮すると、楽団として悪い方向に傾いていくのが自然であるように思われますよね…?
でも、ゆるすいは違いました。コロナ禍を経て、一皮も二皮も剥けたのです。
いったいぜんたい、どうしてでしょうか?
この記事では、ゆるすいで2年前から学生指揮を担当している僕がライターとして今回の早稲田祭でのステージ演奏を振り返りながら、”中の人”目線でその秘密に迫ってみたいと思います。
①ゆるすいとは
わせだ吹奏楽同好会(緩)は、2015年に新設された、早稲田大学で3つめの吹奏楽団。「ゆるく楽しく吹奏楽を楽しむ」を合言葉に運営しています。
吹奏楽というと「厳しい上下関係」「朝から晩まで連日の体育会系の練習」「シビアな能力主義社会」という既成概念が根強くありますが、そういったものを徹底的に排除するのがコンセプトです。練習は週に2回だけで、出欠は取りません。本番には出ても出なくてもどちらでも良く、学年に関係なく吹きたい人が吹きたいパートを吹く……こんな感じの、徹頭徹尾緩い吹奏楽サークル。
設立当初はこの理念に深く共鳴したメンバーが集まっていたそうですが…その緩さゆえに「なんとなく入ってみたけど、いまいち身が入らない」という人がだんだん増えてきて、サークルとしての規模が拡大していけばいくほど、サークル内の結びつきの強さや演奏のクオリティは低下していました。
そのようなよろしくない傾向の中で昨年、コロナ禍に入ってサークルはほとんど開店休業状態に。もともと空中分解しかけていたサークルだったがゆえに、存続の危機に立たされていました。
②ゆるすいはどう「変身」したのか?
そんなゆるすいでしたが、「ゆるく、でも音楽に対しては真剣に楽しみたい!」という新入生の加入により、今年の4月から雰囲気が一変しました。
昨年一年間、コロナ禍で吹奏楽をしたくてもできなかったという悔しい思いを抱えて入ってきてくれた沢山の新入生が新しい風を吹き込んでくれたのです。この嬉しい出来事により既存の3~4年生も奮起し、コロナ禍以前より、「ゆるく仲良く真剣に、良い音楽を作り上げようとするサークル」に「変身」したのです。
では、その「変身」はどのように演奏に表れていたのでしょうか?
いよいよ早稲田祭でのステージ演奏のレポに入っていきます。ここからが本題ですよ!
③わせ祭ステージレポ
早稲田祭2021ゆるすいステージ@戸山カフェテリアステージ(11/6 11:55~12:35)
ゆるすいにとって2年ぶりの対面本番の会場は、普段は文学部・文化構想学部の学食のテラス席としてにぎわっている戸山カフェテリア。
今回はポップスと映画音楽を中心とした4曲を演奏しました。前半は2年前の早稲田祭で演奏したのと同じ『嵐メドレー』と『オーメンズ・オブ・ラヴ』。後半は2年前からずっと演奏機会に恵まれなかった幻の『美女と野獣』と『セプテンバー』。難易度の高い大曲を演奏したわけではありませんが、練習時間の少なさを考慮すると、意欲的で盛り沢山なプログラムですね。
実際にバラエティ豊かで満足度の高いステージに仕上がっていました!
1)ジャパニーズグラフィティ・嵐メドレー
最初に演奏したのは、初期から中期の、嵐のいわゆる”懐メロ”を集めたメドレー。活動休止後も色褪せない彼らの音楽の魅力が詰まった名編曲です。
指揮は会計幹部のにっちー。いつもにこやかな彼女のキャラクターと嵐の音楽がマッチしていて、雰囲気ばっちりな演奏でした。
お馴染みのにぎやかな『A・RA・SHI』に続いて、オーボエとピッコロのしっとりとしたソロ。
木管の次は金管の魅せ場。ホルンとユーフォニアムが吠える!トランペットとトロンボーンの高らかなソロが会場に響き渡る!そして奏者とお客さんのボルテージが一気に上がる!!
そして『風の向こうへ』⇒『ハピネス』⇒『桜サケ』という怒涛のアップテンポナンバー・ラッシュ。1曲目からガンガン飛ばしてますよ!!!
サックスによる『WISH』のソロ。
2年前、僕がこのソロを吹いたときはまだ19歳でした。21歳になって、大人になって、我ながらより艶やかなサックスを聴かせられるようになったような気がします。何より、目の前で後輩がめちゃくちゃ良いオーボエソロを吹いていたので、絶対に負けられない!という思いで吹きました(終わった後でオーボエソロのセイゴくんに「ソロ良かったっすよ」って言われてめっちゃうれしかったっす)。
これまでゆるすいは、こんな風に演奏でお互いを高め合ったりするサークルではなかったので、感動しちゃいました。
花男の名曲『Love so sweet』でフィナーレ。そう。この曲の歌詞の通り、「信じることがすべて」なんですよね。
今回の早稲田祭の練習を進めていくにあたって、「本当に早稲田祭ができるのか?」とか、「そもそもみんな練習に来てくれるのか?」とか、さまざまな不安がありました。そんな中でも、「早稲田祭で良い音楽ができる!」と信じ続けたからこそ、良い演奏ができたんだろうな、と思います。
2)オーメンズ・オブ・ラヴ
2曲目に演奏したのは、言わずと知れたT-SQUAREの名曲である『オーメンズ・オブ・ラヴ』。吹奏楽で演奏されることも多い、ド定番曲ですね。
この曲についても、2年前の早稲田祭で演奏したのと同じ楽譜。
今回の指揮者は、嵐メドレーで素晴らしいピッコロソロを披露してくれた佳月ちゃん。
ド定番曲であるがゆえに、演奏の上手い下手が顕著に出てしまう非常に怖い曲なんですが…
金管楽器の均整がとれた重厚感のある響きと、木管楽器の駆け抜ける旋律が鮮やかに組み合わさった、素晴らしい演奏でした。
2年生ながら、新生ゆるすいを”みんなのお姉さん”としてひっぱってくれた佳月ちゃん。その優しさと明るさがよく表れた演奏になっていましたね。
3)美女と野獣
配置転換をはさんで、ここからは一度も演奏したことがない曲が続く未知の領域へ。
3曲目は『”美女と野獣”よりハイライト』。この曲については、2019年に楽譜を購入してからちょうど2年…ようやくお披露目の機会が到来しました!
2年前から楽譜を読んできた僕。ついにこの曲の指揮を振ることができました。
ゆるすいは練習頻度が少ないので、クラシックな曲の演奏は苦手なサークルでした(というか、まともにクラシックを演奏できたためしがありません)。
しかし、みんなが隙間の時間を活用して徹底的に楽譜を読み込んできて、アラン・メンケンの音楽の世界をディープに表現するために工夫を凝らした結果、見事な『美女と野獣』に仕上がりました。
この曲はミュージカル映画音楽のメドレーなので、しょっちゅうテンポや曲調が変わります。なので指揮を振るのも演奏するのも大変です。
にもかかわらず、半屋外演奏というあまり落ち着かない環境でもピッタリとハマった。この瞬間に、僕は「ゆるすいは本当の意味で吹奏楽サークルに変身した」と思いました。ちょうど野獣が王子に変身する場面の演奏でそれを感じたのが、何とも象徴的でしたね。
お互いを認め、尊重し、尊敬し、一緒に音楽を作り上げ、新しい自分に変身する。『美女と野獣』の映画のテーマと今のゆるすいの両方を存分に表現した演奏になりました。
4)セプテンバー
ラストを飾るのは、EW&Fのディスコミュージックの定番曲『セプテンバー』です。
今回使った楽譜は、何とピアノとサックスのソロをフューチャーしたバチバチのジャズバンド編曲。こんな楽譜、いままでのゆるすいでは使ったことがありませんでした。まさに未知の挑戦です。
ピアノは前幹事長のま~くん先輩。コロナ禍の1年間、サークルを守り続けてくれた先輩のピアノが炸裂!
サックスソロは僕が担当。
実はこのソロ、高校2年生の頃にも吹いたことがあったんですけど、当時は暗譜が間に合わずにあまりうまく吹けず…ですが今回はきっちりリベンジを果たすことができました!
ラストの曲でも疲れを感じさせずに爆裂するトランペットとトロンボーンのハイトーン。ノリノリの裏メロでソロをあおってくれるクラリネット、サックス、フルート。グルーヴ感たっぷりのパーカッションとエレキベース(ベースを弾いているのは何とバリトンサックスの2年生!サックスもベースも激ウマなんです)。それらをガッチリと繋ぐホルンとユーフォニアム。
すべてが嚙み合った完璧なバッキングのおかげで、ピアノもサックスも超ノリノリで演奏できちゃいました。
お客さんも巻き込んでの大団円!
ゆるすいは本当に下手な吹奏楽団だったので、こんな風にフロアを巻き込もうとしてもいつもシラケるだけでした。それが、お客さんも奏者もみんなが一体になれるぐらいの盛り上がりをつくりだせる楽団になるなんて…
まだ吹き足りなかったので、アンコールでもう一回やっちゃいました。全員で立奏しながら吹いた、ラスト一回のみんなのノリノリ感。
そうそう、これがやりたかったんですよ…!お客さんも奏者も、ゆるく、でもちゃんと楽しめる。ずっとゆるすいが理想にしていたものがようやく形になった瞬間でした。
④演奏を終えて
昨年から続くコロナ禍で、何の苦労もしなかった大学のサークルなど存在しないでしょう。
でも、コロナ禍でここまで飛躍的な「変身」を遂げたサークルというのもまた、珍しいのではないでしょうか?
演奏が終わった後の充実感と達成感と一体感。
週に1,2回の練習を1か月ぐらい続けただけで、こんな大団円を迎えることができるなんて…
もちろん、その裏にはサークルをまとめた幹部や早稲田祭担当者たちの苦労があるわけですが、これまではそういう苦労や思い出すら共有できないサークルだったんです。ゆるすぎてバラバラだったから。
でも今は違います。確かに練習参加の規定はゆるいけれど、演奏のクオリティもゆるい部分はあるけれど、それでも演奏に対する思いや、メンバー同士のつながりは、決してゆるくない。そういうサークルに「変身」したことはまず間違いないと思います。
今回の早稲田祭で生じた良い流れがどのように続いていくのか……これからもゆるすいの「変身」から目が離せませんね!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。以上、”中の人”目線でのゆるすい早稲田祭レポートでした!次にみなさんとお会いできる機会を楽しみにしています。
それでは!
〈webマガジンGaku-yomu副編集長/わせだ吹奏楽同好会(緩)学生指揮者:根本拓海(早稲田大学教育学部3年)〉
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