連載企画―夢ゼミ探究の旅― 【第一章】福田貴之さん
先週から始まった連載企画―夢ゼミ探究の旅―。
今回この連載を始めるきっかけとなったのは、現在夢ゼミの責任者を担当している澤正輝さんの「夢ゼミともう一度出会い直したい」という思いから。連載が始まった詳しい経緯や担当者の思いなどは前回のnoteをぜひお読みください。
記念すべきトップバッターは、夢ゼミの講師であり、現在「隠岐しぜんむら」にて勤務をしていらっしゃる福田貴之さんです。
隠岐國学習センターにて、夢ゼミの責任者をしている澤正輝さんと、講師の福田さんとの対談をお届けします。
夢ゼミを行う上で大切にしている4つのこだわり
澤:僕と福田さんが出会ってから4年が過ぎましたが、その中で福田さんが夢ゼミを行う上で一貫して大切にしていることは大きく分けて4つあると感じています。
本物の探究、”ちゃんと”地域に出ること、どこまでやるかは自分たちで決めること、その代わりアウトプットを必ず残すこと。
福田:そうですね。情報が溢れているからこそ、生徒たちには自分の目で確かめて実証できる能力を身に付けてほしい。また、アウトプットを残すというのも、「先輩たちがこうやってたなら、今度はこうしてみたらどうだろう」というように、後輩たちが実例として探究の材料にするためです。
この子たちがやったという証拠を残してあげたいという思いもあります。
澤:アウトプットの質についてのこだわりはあるんですか?
福田:こだわりはありません。基本的にアウトプットを残してほしいとは伝えるけど、何をしろとは言いません。自分たちでハードルをつくっていかなければいけないと思うんですよね。そのハードルを越えるために、「何をするべきか」というプロセスを作れるかどうか。さらにそれをチームとしてできるかどうか。
質に関しては、自分たちができるところまででいいと思ってます。思うような結果にならなかったときに、こうなってしまったのはなぜかという分析を最終的につけ加えられればいいんです。その力があれば、次に何かあった時にそこをちゃんと活かせると思います。
澤:なるほど。生徒たちの、”できるところまで”の、その”できるところ”のレベルはどうやって上げていくんですか?
福田:例えば、生徒たちと一緒にフィールドワークに行った後に振り返りの会をよくやるんですけど、その時に「本当にそうなの?」「どう思ったの?」というようにつっ込みを入れます。あえて「こうしろ」とは言わない中で、つっ込んだ時に生徒が気づくか気づかないか。そこでハードルが上がるか上がらないかが決まると思ってます。
生徒たちは、同じ土俵で戦う仲間でありライバル
澤:僕が福田さんをすごいなと思うところは、自分が正しいと思う方向につっ込んだり修正していくのではなくて、つっ込みを入れながら、「本当はどこにいきたいんだ」「そっちでいいの?」「その程度でいいの?」と生徒に問いかけているところ。簡単そうで難しいことだと思うんですけど、一貫してやり続けていますよね。それはなんでなんですか?
福田:これは環境教育にも通ずることなんですが、自分が正しいと思ってそっちの方向に行かせるのは洗脳だと思ってます。そうじゃなくて、自分が正しいと思っていることも、もしかしたら別の考えを持っている子の方が正しい場合もある。
その子たちが正しいと思ったことならきちんと検証し続けると思います。そういう意思を持たせるには、自分たちで選んだ道に行かせることが肝になってくる。だから自分でコントロールしようとは絶対思いません。
澤:自分が正しいと思う方向に引っ張りたい欲求との葛藤とかはないんですか?
福田:全くないです。自分が正しいと思う考えと新しい考えが戦うときに、相手がどういう風に感じて、逆にそこから吸収できるところがあるかもしれないって思うから面白いんです。だからライバルを増やす、多様性を増やすというところに楽しさを感じるんですよね。そこでさらに自分を突き詰めて、ここが足りなかったとか弱みが見えてくる。同じ自然や環境に目を向ける人間として生徒を見たときに、この子がどうなっていくんだろうって考えてます。その種(たね)をまいてるという感覚です。またその種が育ってきて、一緒に何かしましょうってことになったらそれもまた面白いなと思います。
澤:生存本能に近いんですかね?
福田:そうですね。進化っていうものは蹴落とし合いで、自分がいかにそこの環境に適応して生き残るかの話なので、他の生物がいた方がより良い進化ができる。共存していく生物がいたら、一緒に成長できて、また特殊な何かを生み出していく。そういう生物的な発想もあるのかもしれません。
澤:すごく生物的で、そこがやっぱり面白いですよね。先生という仕事をしている人は、ライバルを作りたいという生存本能はあるけど、"ただし自分を越えない範囲で"っていう注釈がある人が多い気がします。
福田さんは、ライバル関係の中でお互いに切磋琢磨して、種全体がたくましくなっていくっていうのを本能的に選択している感じがして、そこがすごく好きです。
生存から考えたら、すごく合理的で当たり前の話だと思うんですけど、人間が持っている恐れというか、追い抜かれるかもしれない、取って代わられるかもしれない、それこそ殺されるかもしれないというものよりも、生物的進化を優先させている感じが面白いなと思います。それを選択できない人間の方が多いですからね。
福田さんが目指す”本物の探究”と現在地
澤:4年間夢ゼミをやってきて、”本物の探究”をしている生徒たちはどれくらい現れてきてますか?
最終的にはライバルが増えっていって、お互いの探究心をくすぶり続けながら、島前高校の生徒のレベルも毎年上がっていく。それと同時並行的に、関わった地域の人たちも引っ張られていって、地域の力が強くなっていく。それを作っていく一つの礎として夢ゼミが置かれていると思います。今は、その野望の何合目くらいにいけてるのかなと思って。
福田:島前高校と夢ゼミの相互作用が起きていないのが一番悲しいところです。島前高校側が目指す探究と自分の目指す探究が一致していないのが原因だと思います。
澤:その違いってなんなんですか?
福田:目的をどこにおくかです。探究というからには、自分たちが何かをやって深めた先に何があるか、というのを分析したり改善したりするものだと思ってます。それに対して、高校側の探究は目指すべき場所が決まっていて、そこに行かせるように探究をさせる傾向があります。そうなったら、先生の好きな答えを持ってくる生徒がいい生徒になってくる。それだと何も深まりません。結局最後は、大人が喜ぶ言葉を使ってまとめるから、言葉の重みがないんだと思います。
澤:今の探究は、軸が決まってたり、合わせにいったり…。そうしたくないと思ってる先生たちはけっこういらっしゃると思うんですけど、全体のカルチャーとして残っていますね。
福田:しょうがないと思う部分はあります。先生たちも、入れ替わりが激しくて、急に島前高校に赴任して探究をしろと言われても地域のことも知らないし、難しいですよね。なので、探究って言葉を使わないでほかの言葉にかえた方がいいんじゃないかなと思います。意味合いが変わってくるので。
澤:目指すところは、シンプルに、子どもの可能性を伸ばす探究ですよね。
福田:失敗したら失敗したで別にいいんです。きちんと分析して次につなげればいいだけなので。すべては思い通りにいかないということをその中で学んでいけばいいと思います。いろんな考えがあるということが他者と協働する中で分かってくる。特に自然系に興味がある子は、そこが苦手な子が多いです。その難しさを分からない中で、どうしたら他者と協働していけるのかを問い続けるというのが大切だと思います。
自分の足で、ちゃんと地域にでていくこと
澤:最初にでてきた、本物の探究、”ちゃんと”地域に出ること、どこまでやるかは自分たちで決めること、その代わりアウトプットを必ず残すこと。という4つのこだわりの中で、地域の部分をもう少し深く掘り下げてお聞きしたいです。
福田:まず、○○さんを紹介してくださいというのが好きじゃないです。こういう人がいるっていうのは伝えますが、コンタクトは自分でとってほしい。その人にアピールするためには、自分がこういうことをしたくて、どういう情報がほしいのかをきちんと相手に伝えられるかどうか。自分の足を使って探しに行かないと、その人の周辺環境だったり、どういう人間関係でどういう立場なのか、というのを肌で感じることができないと思います。
あと、失敗談を沢山聞いてほしいなと思います。成功話ばかりを聞いていると、その裏にどんな努力をしたとか苦労をしたというのを知らないまま、その方向に進むから挫折してしまう。情報がいっぱいあるからこそ、そういう情報を自分でとりに行く、失敗する、というのが人を強くするんじゃないかなと思いますね。
澤:まさに、日常の中で”越境”をしていくことで、個体としても強くなるし、お互いに越境しあうことによって、全体としても強くなる。そういうことをやってるんだなと感じました。
夢ゼミは、切磋琢磨しながら強くなっていく場所
澤:あらためて福田さんにとって、夢ゼミはどういう場所であってほしいですか?
福田:自分のスキルを発揮していくところ。まさに、切磋琢磨する場所、武士ですよね。お互いに斬り合って強くなれる場所がここにあるかどうか。色んなレベルの子が戦いあっていくうちに、いつの間にか自分がすごい人になっていたとか、何気なくやっていることが、自分の成長につながっていたという場にできたらなと思っています。
澤:今一度、ゼミの中でもゼミを越えてでも、その連鎖というものをどうしたら起こしていけるんですかね?全体としてもう一段上がっていくためには、どんな変化があればそこに近づくのでしょうか。
福田:個体分析ですね。その子がどういう子かなというのを見てあげないといけない。得意なところだけを育てて尖るのもいいですけど、もっと苦手な部分も上に引き上げてあげた方が、色んなことに対応できるようになるし、色んな尖り方ができると思うんです。さらに1人ではなくて、周りの人と一緒にやることで、この子とこの子が組んだらどうなるんだろうとか、あえて苦手な子にやってもらうとか。そうすると、だいたい予想を超えてきますよね。こんなことを言うようになったんだとか、驚くことが多いです。
澤:まさに、学習センターでも個にこだわるというのをもう一度やろうとしています。自分たちのレンズで生徒をカテゴリーに分けて「こういう人だよね」と決めつけるのではなくて、一回そのレンズを捨ててその人のことを丁寧に学んだり、こういう人間なのかと思う中で自分のレンズが研ぎ澄まされていく。そういうことを学習センターでもやりたいし、この夢ゼミのインタビューでもやっていきたいです。
ライバルに種(たね)をまき続ける
澤:最後に、夢ゼミを一言で表すとしたら、なんて言葉で表現しますか?
福田:種をまくという表現が一番いいですかね。その種が育っていくのを見るのが楽しいんです。そこにどんな価値観が咲いてくれるのか、反抗しにくるのか、調和しにくるのか、それを楽しむっていうのがあります。それと、自分と同じ種を育ててるので、種の繁栄ですかね(笑)
自分のDNAを受け継いで、いい社会にしたいと思ってくれる人が増えていけばいいなと思います。