ジャパニーズウィスキーを通して描かれる日本の生活世界の豊かさを感じます
1.お仕事ものとしての『駒田蒸留所へようこそ』
ずっと見たかったP.A.WORKSの『駒田蒸留所へようこそ』(2023)を見る。なんで見たかったかというと理由は二つ。
一つ目は、なんといってもペトロニウスがウィスキー大好きで、こつこつ勉強しながら飲んでいるので、関係するものは見たいというやつ。
もう一つは、『花咲くいろは』(2011)、『SHIROBAKO』(2014)、『サクラクエスト』(2017)、『白い砂のアクアトープ』(2021)とP.A.WORKSのお仕事ものシリーズは大好きなんで見たかったんですよね。これらのシリーズは、かなり本気度の高いお仕事目線ですが、こう言った類型や文脈が出てくるルートで、僕は、丸戸史明『冴えない彼女の育てかた』(2012)を思い出します。この時の僕の問題意識は、ラブコメのハーレム、たくさんの女の子が一人の男の子を好きになる構造は、オチをつけていくのにバランスが悪くて、難しいよなと思っていた時でした。だって、真剣にラブコメ?していれば、それぞれとつきあったり、愛し合ったりしていくように、物語、ドラマトゥルギーは展開していってしまうので、等距離に関係を保ちつつ、たくさんのいろんな種類の女の子と恋愛ギリギリの関係を維持するのは、幾らなんでも無理がありすぎます。普通に考えて、そんな浮気やろうが何人もの女の子を騙しているような状態が長続きするとは思えません。なので、耳が聞こえないふりをしたり、と涙ぐましい努力が続けられていて、なんとか、この関係性を正当化するロジック(笑)はないものかと、考えている時でした。
ところが、学校空間ではバランスが悪かった関係が、仕事をしている同志だと、かなり安定するんですよね。要は恋愛や性愛とかの関係性がなくても、仕事という手触りと共通の目標があれば、人は長く一緒にいられるってことなんだなと持ったんですよね。これ、ハーレム構造の脱出ルートの一つだ、と感じているんですよね。
ちなみに、『駒田蒸留所へようこそ』は、かなりガチ目のお仕事ものの脚本でした。何を持ってガチというかというと、ラブコメとか恋愛要素がないところ。駒田蒸留所の若き女性社長の駒田 琉生(こだまるい)とWebニュースサイトの記者高橋 光太郎が主人公の位置づけのキャラクターですが、話がずれちゃうからする必要はないにしても、二人に恋愛要素を入れてもおかしくないと思うのですが、一切その雰囲気を入れていないで、仕事の同志、同僚としています。
2.ウィスキーの知識は必要ないけど、入口にはとても丁寧なつくり
ちなみに、映画は初心者にも優しい作りをしていると思いますが、より知りたい人は、ウィスキーの第一人者土屋守さんの、僕は、『ウィスキー入門』がわかりやすかったです。本格的になると、『シングルモルトスコッチ大全』とかで、メモしながら味を覚えていったりしています。映画に関係ないけど、ウィスキー好きとして(笑)。
ちなみに、ジャパニーズウィスキーの蒸留所がいろいろ出てくるのですが、見たことあるところが多くて、なかなかに聖地巡礼が楽しめそうな作りなのも、昨今のアニメらしくていいです。
3.ヨーロッパは農家と家族の崩壊を描き、日本は職人が生み出すブランドと家族再生を願う
見ていて思ったのは、ずっと強く感じていたのは、つい最近見たヨーロッパ映画『太陽と桃の歌』(2022)との比較です。もっと起きな目線で言うと、ヨーロッパ映画と日本映画のテーマについて。以下でも書いているのですが、先進国の後期資本主義国に生きる西ヨーロッパや日本は、社会の構造や、人間が生きる目線が非常に近いと思っています。
テーマとしては、かなり同じことを描いていると思うんですよね。『太陽と桃の歌』は、エネルギーの構造転換による産業の変換による桃農家が壊れていくこと、『駒田蒸留所へようこそ』は、長野県の地震で家業が継続できなくなっていくこと。どちらも、それが契機で家族や共同体が崩壊していくことを描いています。もちろん、その壊れる「刹那」を描くことは、共同体が輝く瞬間を描くわけで、家族が復活する「ように見える」んですが、『太陽と桃の歌』では、全く家族の復活の兆しが見えません。なぜかといえば、サプライチェーンにおける一次産品(農作物)の話を描いても、出口なんかないからです。このルートの答え、解決方法について、前の記事(ヨーロッパ映画の基本的な問い(鑑賞の仕方)から『太陽と桃の歌』を見て、土地と家族の結びつきの破壊を考える)の最後に書いたのですが、まさにそのルートと同じ話をしているのが、この『駒田蒸留所へようこそ』なので、日本の方がはるかに処方箋と出口をわかっていると感心しました。
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