【創作SS】 No.3 『いただきます』となぜ言うの?
「こらー、○○○○」
「また『いただきます』やってないよ」
「えー?お母さん、ボク、やったよ」
「うそ。嘘つきはえんま様に舌ぬかれるんだぞー」
「やった!絶対やったの!」
「ほんとにー?」
「だって、いただきますって、ご飯が食べられることを、ありがとうすることでしょ?」
「そうだよー。こうやっておてて合わせて…」
「だから、ありがとうするのに、おててはいらないじゃん」
「なんでおてて合わせなきゃいけないの?」
「うーん…」
「…保育園でも、みんないただきますするとき、おてても合わせるでしょ?」
「だから、おてて合わせなきゃいけないの。一人だけしてないと、食べ始められなくて、みんなが困っちゃうじゃない」
「えー、でも、…そっか。わかった…いただきます」
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「って、夕方、あの子に言われたんだけれど」
「なんて返せばよかったのかしら」
「はは」
「あいつも俺の子だ。ガキの頃、僕もおんなじこと思ったもんさ」
「あら、そうなの?」
「…小学生の頃にさ」
「給食の合掌の時に、いつも手のひらをパチンと鳴らす××××って奴がいてさ」
「どうやら大きい音を鳴らして目立ちたかったらしい。それに我慢できなかった僕は、放課後にこっそり先生に言ったのさ」
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『先生、××××君が、きちんといただきますをしていません』
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「…いや、彼してるじゃないの」
「先生も同じことを言った」
「?」
「だから僕は、先生に」
「『いただきます』とは、食前に感謝の心を持つことが目的であり」
「合掌をする事自体が重要なのではない、と説明した」
「かつ、××××は大きな音を鳴らすことが目的であり」
「彼の合掌は、感謝の気持ちを表していない」
「そう捲し立てたんだ」
「そしたらね…」
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『…そうね。…あなたの言うことも一理あるわ…』
『確かに××××君は手を鳴らしたいだけかもしれない。…けれど、それでもいいのよ』
『…どうして?先生』
『だって周りの人は、彼が「いただきます」してるように見えるでしょ?』
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「そう言われて、気づいた」
「『いただきます』とは、その『合掌している姿』を他人に見られること」
「それが目的なのだ、と」
「食材や機会、環境への感謝ではなく」
「自分はこういった道徳的行為、社会性を身につけていますと周囲にアピールするためなのだと」
「…」
「今日の昼飯の時、牛丼屋でさ」
「急いでいるだろうに、律儀に『いただきます』って合掌してから、牛丼かき込んでいるリーマンがいたよ」
「それ見て課長も、『若いのにきっちりしてる、親のしつけがよかったんだろう』って高評価さ」
「それはそうよ。律儀じゃない」
「本当にそう思う?」
「当たり前よ。どうして?」
「…彼は、本当の『いただきます』を」
「つまり『食材や環境等に感謝する気持ち』を、親から、先生からしつけられたのかな?」
「『エサの前に手を合わせる』ことだけをしつけられたのなら…」
↓↓↓
「犬でもできそうなものだけどね」
《終わり》