【創作SS】 No.4 列車が、自身の路線とは異なる路線を『自認』しだしたら?
夜中、とある駅の車庫。
その日の仕事を終えた列車が、2つ並んでいます。
彼らはお互いに、自分の担当する路線の話をしています。
「…なあ、君はどこから来たんだい?」
そう尋ねられた列車は答えます。
「僕は□□方面から来た、□□線の列車だよ!」
「…ほう、□□方面から。私は行ったことがないなぁ」
「そうなんだ!君は、どこから来たの?」
「…私は、○○方面から来た○○線だよ」
「そうなんだ!」
「そうか、君は□□線か…」
「…うーん…」
「…どうしたの?なんだか悩みがあるように見えるけど…」
「少し、自分自身について、思うところがあってね…」
「…」
「…なあ、□□線。もし…」
「明日から私は△△方面へ行くと言ったら…どうだい?」
「え?絶対だめだよ!」
「…だめ、かい?」
「だって君は、○○線なんだよ!」
「○○線は△△方面に行かないじゃないか!」
「…」
「…しかし私が○○方面なのは、たまたま最初に割り当てられた路線ってだけで…」
「本当は△△方面に行きたいし、そのほうがしっくりくるのだけれど…」
「で、でも!」
「お客さんは、君の中身じゃなくて」
「列車の行先表示板とか、電光掲示板とか、ホームの番号とか」
「『皆から見える部分』で」
「君がどんな電車なのかを、判断するんだよ!」
「君がいくら自分のことを△△線だと言っても」
「〇〇線は〇〇方面に行くものだし」
「同じ〇〇線の他の列車と同じようにしないとダイヤが乱れちゃうよ!」
「…確かに…」
「考えてみてよ!」
「今まで乗ってきた列車と同じように」
「君のことを〇〇線だと思って乗ってきたお客さんが」
「乗った後で『見た目とか電光掲示板は〇〇線なんですけど、実は僕は△△方面行きなんです』」
「…なんて言ったら怒られちゃうし、迷惑かけちゃうよ!」
「…うーん…」
「…しかし私は、自分が〇〇線でいることに、息苦しさのようなものや」
「違和感をずっと昔から抱えているんだ…」
「この違和感は、私だけの悩みなのか?」
「それとも、皆同じように持っている感情なのか?」
「それがわからないんだ…」
「私はずっと、この違和感を抱えて生きていかなければならないのだろうか…?」
「それは、皆あるに決まってるよ!」
「…やはり、そう…なのか?」
「全てが自分の思った通りになる、なんてことは絶対ないし」
「いつも周りの人が気を遣ってくれるわけではないよ!」
「僕だって、満員電車は辛いから、人をあんまり乗せたくないけど」
「皆が乗りたいって言ってるから、我慢しているよ!」
「…確かに」
「…誰もが、自分の思い通りにならないことを持っていて」
「それを我慢しているというのは理解できる…」
「しかし、私のこの悩みは、本当に『皆』と同じ重さなのか…?」
「皆、表にしていないだけで、私と同じくらい悩んでいるのか…?」
「誰しも大なり小なり、悩みはあるものだよ!」
「君の『△△方面の方へ行ってみたい』っていう考えは」
「君以外の他の列車も、持っていてもおかしくないけど」
「だからといって、『自分は生まれつき△△方面がしっくりくる』とか」
「『だから自分は本当は△△線なんじゃ無いか?』なんて思うのは絶対おかしいと思うよ!」
「だって君は、〇〇線の列車として生まれたんだから!」
「周りからもそう見られているんだから!」
「〇〇線として〇〇方面へ行くのが、君のあるべき姿なんだよ!」
「…」
「…そうかもしれないな」
「そうだよ!」
「…ありがとう、□□線。もう変な考えを持ったりはしないよ」
「ううん。わかってくれてよかった!」
「人を励ますのは得意じゃないけど、うまくいってよかったや!」
「じゃあ、明日も今まで通り、頑張ろうね!」
「…ああ、頑張ろう」
「生まれた時に、たまたま決まった事とはいえ
「自分自身の役割を全うするとしよう」
《終わり》
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