ガチ産業医3

12.勧告権の落とし穴

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はじめに

勧告権の法的背景(労働安全衛生法13条)や、産業医・産業保健の強化についてリーフレット、日本産業衛生学会の「産業医の権限強化に関する答申」についての資料はリンクをつけておりますので、そちらをご確認ください。 本記事は産業医の勧告を行使する際のいくつかの落とし穴をご紹介いたします。

と、その前に・・・2024年に医事新報社さんから、勧告権の書き方についてオンライン記事を出しましたので紹介させてください。本記事のコンテンツと併せて読んでいただくことで、より深く学ぶことや、より良い勧告書を作成することができると思います。

プロセスなき勧告という落とし穴

産業医の勧告権は、緊急事態を除けば、衛生管理者や安全衛生担当者等への助言、指導といった段階を経て、それでも理解や改善が進まない時の手段と行使されるもので、段階的な対応をとることが求められます。産業医は普段から事業者と積極的に意見交換を行い相互の信頼関係を構築し、安全衛生に関する産業医の意見が、勧告権を用いずとも事業者に円滑に理解され、採用されるように日々活動していくことが肝要です。

勧告して終わりという落とし穴

産業医として勧告を行使するだけで終わってはなりません。勧告した事項が実際に実行され、健康障害が確実に防がれるところまで求められます。「就業制限かけっぱなしという落とし穴」でも触れましたが、勧告を行使する際には、対応の期日を設けて確実に実行されていることを確認する必要があります。

勧告のあて先が人事や管理職という落とし穴

事業所の安全衛生活動は、事業者(総括安全衛生管理者)が責任をもって行うものです。産業医の活動もまた安全衛生活動の一環であり、産業医が勧告するべき先は事業者(総括安全衛生管理者)です。「産業医が決定するという落とし穴」でも触れましたが、安全衛生活動の主体者が誰かというのはとても重要です。

根拠が希薄な勧告という落とし穴

勧告を行使する事項は、緊急性の高いものから中長期なものまで様々なものが考えられます。産業医は健康の専門家として、勧告の対象となる健康障害のリスクについて相応な根拠を提示することが求められます。根拠となりうる情報源としては産業衛生学会、ACGIH、IARCなどの団体や、SDS、医学論文、過去の労働災害、労働判例、法令などが挙げられます。(海外の安全衛生団体はこちら)これらを根拠として示しながらも、非医療職でも理解できるように説明を行う必要があります。

重大性が低い勧告という落とし穴

勧告権の行使は、日常的に行うものではなく、重大な法令違反や健康障害に対して行うものであり、事業所側への働きかけとして最高位のものです。重大性が低い事項については、衛生管理者や安全衛生担当者などへの助言、指導などによって解決を図る必要があります。

具体的対策がない勧告という落とし穴

安全配慮義務には結果回避措置も含まれます。勧告権を行使するに際し、健康障害が起きる(起きうる)ことだけではなく、その健康障害をどのように防げるのか・低減できるのか・回避できるのか具体的な対策についても専門家として提言する必要があります。

口頭による勧告という落とし穴

産業医の活動は、基本的に記録に残すことが求められます(例:就業上の措置に関する意見、巡視記録、面談記録など)。勧告の行使についても同様であり、文書として事業者に示す必要があります。また、勧告内容は安全衛生委員会で報告されるものですので、個人情報への配慮も必要です。

忖度と迎合という落とし穴

産業医は独立した立場であり、事業者や労働者に対して忖度・迎合するべきではありません。産業医として勧告が必要だと思った事項は、忖度せずに勧告を行使するべきです。重大な健康障害が起きている際には、産業医の職業倫理上、労基署へ相談するすらも検討しなければなりません。

参考サイト

1. Naoto I, Ayana O, Mika K, Koji Mori, Tomohisa N, Yoshihisa F. Factors that influence occupational physicians’ decision to issue an employer warning in Japan. J Occup Health. 2020;62:e12147.
2. 産業医の勧告に関するシナリオ作成と勧告権行使の可能性に関
するアンケート調査
 

3. 改正労働安全衛生法で産業医の何が変わるのか (浜口伝博先生)

4. 産業医の勧告権は強化されたのか(河野慶三先生)


https://x.com/masaki_kobashi/status/1121702990820204549?s=20





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