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教育学者は、何を目的にしているのか?(流行に躍る日本の教育)

 教育業界に明るい方であれば、この本が賛否両論で別れたことをご存知だろう。鋭い指摘もあれば、批判のための批判もある。だからこそ、何のためにこの本を書いたのか、是非聴いてみたいところだ。

 本書の紹介文には、下記とある。読後感としては、残念ながら「日本の教育がいま、本当に大切にすべきことは何かが明らかになった感」はなく、「教育のもつ真の力を再考した感」もない。

教育の「内」と「外」から、次々と押し寄せる「改革」という名の「流行」のうねり…それらは、教師の背中を後押しし、子どもたちが成長できる学びを生み出せるのか?「日本の教育がいま、本当に大切にすべきことは何か」を明らかにする!(Amazon
改革を扇動する言葉に踊らされず、安易な批判や復古趣味に陥ることなく、未来志向で地に足のついた教育のもつ真の力を再考する!(表紙

著者たちの指摘

 本書は「教育界の流行語」を各章ごとに取り上げ、その流行性への危機感を解いていく。章を構成するキーワードは次の通り。

1.資質・能力ベースのカリキュラム改革 2.個別化・個性化された学び
3.対話的・協同的な学び 4.プロジェクト型学習 5.インクルーシブ教育
6.教師による「研究」 7.外国語コミュニケーション 8.大学入試改革
9.エビデンスに基づく教育 10.社会に開かれた教育課程

 テーマとしては、これに『教員の働き方改革』を加えたら概ね全方位的にカバーしていると言えると思う。一方で、基本的に全ての章は次のトーンで論じられていく。

【導入】
なぜこの教育改革・教育活動が求められるのか?
   なぜこのキーワードはトレンドになっているか?
  ↓
【指摘】
①目指す教育は、過去に繰り返されてきた教育である
   ②学校現場には〇〇な事例もある
   ③理念はわかるが、〇〇に留意する必要がある

 冒頭の通り、鋭い指摘もある。ただ、なかなか読み進めるのが苦しかったというのが本音である。それは結局、著者たちが何を目指しているのかがわからないからだ。
 過去に良い取り組みがあったことを伝えたいから?それも大事だが、大切なことは子ども達の学びをより良くすることのはずだ。すでに現場では、良い取り組みがたくさんあるから?それも真実だと思うが、だからといってこれからの教育をより良くする議論・動きを否定する理由にはならないはずだ。物事を批判的に捉えるのが学者の仕事だから?それは仕事のための仕事だ。
 読んでも、著者たちがどうしたいかがよくわからない。そこから感じる苦しさのように、私は感じてしまった。

なぜこうなるのか?

 著者たちの真意はわからないので、別の観点からなぜこうした論展開になりがちか、考えてみたい。つまり、なぜ良い教育を目指した活動に対して、必ず否定的な意見が出てくるのか。そしてその否定的な意見も、何とも微妙な感じに思ってしまうのか。そしてなぜ大きな意思決定も、なんか合ってるようにも思うし合ってないようにも思うのか。私は下記4点だと考える。

①評価の難しさ「児童・生徒の成長の多くが評価できない(可視化できない・定量化できない)」
②ケースバイケース「良い教育活動と言えるか、対象次第」
③タイムラグ「いつの時点での成長を狙うのか。卒業後だと検証しようがない」
④変数の多さ「教育活動以外にも、成長に寄与する変数が多すぎる」

 つまり、成果を示せないし、成果っぽいものが出たとしても「全ての児童生徒に活かせるの?」「短期的成果に自ずと限られる」「それ以外の要素を本当に排除したか不透明」となるので、いいか悪いかがわからないと思うのだ。

 どうせよく分からないなら、教育こそ自律分散で

 上記を踏まえると、「良い教育とは何か?」という問いに対して誰も答えられないようにも思いう。「私はこう思う」と言ったところで批判されるし、その批判も確信的なものにはなりえない。
 であればこそ、そこに関わっている人々で「これを良い教育とします」と合意してしまえば良いのではないか?生徒,教員,保護者,地域のステークホルダー,,,関係する人たちが納得している教育活動こそ、これからの"良い教育"ではないか。所得格差、地域格差、環境格差。あまりに一人一人の児童生徒を取り巻くものに差がある中で、全国一律の教育制度の是非を問うことは意味がないのではないか?

一つ一つの教育現場がより良くなることを願って

 本書のように、大きな政策の是非を問う議論はもちろんどんどんやれば良いと思う。だからと言って、それで白黒つけようなんて、到底できない話だ。こと学校現場では、そんな議論を材料にしつつ、「うちの学校はこれを良いとします」として、自律的に発展することを願いたい。

 とはいえ、大きな議論をしている方々にも問いたい。「何を良い教育と考えて、日々活動していますか?」と。


ここまでお読みいただきありがとうございます。
是非ご感想など伺えれば幸いです。

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