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【都会のアリス】心地よい旅を~ネタバレあり感想

2023年末、「perfect days」で日本中のシネフィルを良くも悪くも沸かせたドイツの巨匠、ヴィム・ヴェンダースの傑作。ヴェンダースのロードムービー三部作の一作目である。

紀行文の書き手であるフィリップは、ついに記事が書けないまま締め切りを迎える。失意の中、アメリカからドイツに帰国したいのだが、ストで空港が閉鎖、足止めを食らう。
すると、同じくドイツへ帰ろうとするアリスという少女とその母親と知り合う。中を深めた2組だったが、母親が突然蒸発。母親はドイツで落ち合おうと伝言を残すが...。

白黒の作品だが、1973年の映画なので、ばっちりカラー映画の時代の作品である。モノクロの映像で、さらに粒子が荒く、思い出の中のような幻想感が現れる。全体的にふんわりほのぼのとした雰囲気の今作にとてもマッチしている。

さて、本作の内容だが見どころはやはりアリスちゃんだろう。かわいい女の子なのだが、愛嬌があり、フィリップといいコンビネーションをみせる。
アリスが登場してから映画が面白くなるところもあり、本作の8割は彼女の魅力でできている。
途中でとある女性の家に泊まることになる。早起きした彼女はフィリップに「よく眠れた?」とたずねる。何もかも見透かすような少女だ。
「パリ、テキサス」のハンターくんもそうだったが、子役は時に大人の俳優よりも目をくぎ付けにすることがあり、そんな映画はたいてい名作だ。

アリスが警察に保護された後、自力で抜け出してフィリップのもとに戻ってくる場面が良い。フィリップが一人寂しくチャック・べリーのコンサートを見たあと、車でぼんやりしているといきなり車の助手席を開けて乗り込んでくる。「場所を思い出した」と言った後は野暮なことは言わない。コンビは復活する。
また、フィリップは紀行文を書かずにインスタントカメラで撮影ばかりしていたのだが、アリスと一緒に記念写真を撮るのが後半の名場面になっている。小さな箱に入って二人でとれるシステムで、古いプリクラみたいなものである。20年後にヴィンセント・ギャロが「バッファロー66」で使っていたあれに近い。
2人でにっこりして撮影をする。今まで無表情が多かったフィリップがおどける名場面である。写真は印刷され、縦長のシートの形で出てくる。アリスがそれを見返す場面が切ない。

クライマックス、アリスは再び警察に保護され、フィリップと離れることになる。だが隙を見て2人で汽車に乗り込む。
常識からいえばありえない展開である。母親は無事見つかり、ここで二人は別れるべきだ。がしかし、旅をつづけ絆を深めた2人にとって、これこそが最良の選択だろう。そして、それを選択することができることこそが映画の美しいところだ。

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