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【短篇】警察署の四つの影 思い込みに惑わされるな
第一章:新人刑事の初仕事
町の警察署に、新人刑事のタカシが配属された。
熱意は十分だが、まだ経験は浅い。
そんなある日、商店街で倉庫荒らし事件が発生した。
目撃者は「黒いコートを着た長身の男」と証言。
ベテラン刑事のサトウが言った。
「タカシ、お前もこの事件の捜査に加わるんだ」
「はい! 目撃証言があるなら、すぐに犯人を見つけられそうですね!」
署長のミヤモトがタカシに忠告した。
「焦るなよ。人間はな、思い込みや先入観に引っ張られやすいんだ。それが原因で、間違った結論を出すこともある」
タカシはよく意味がわからなかったが、「はい!」と元気よく答えた。
第二章:四つの影に囚われて
① 錯覚のワナ:「見たまま」を信じるな
タカシは目撃証言にあった「黒いコートの長身の男」を探し、
すぐに似た人物を発見した。
「すみません、昨夜の23時ごろ、商店街にいましたか?」
その男は驚いた顔で答えた。
「いや、家にいたよ。何かあったのか?」
タカシは疑いを強めた。
「でも、あなたに似た人物が目撃されています。嘘をついているんじゃないですか?」
しかし、サトウが冷静に言った。
「タカシ、防犯カメラを確認してみろ」
カメラには、事件の時間、別の場所にいる男の姿が映っていた。
「そんな…確かに目撃証言があったのに…」
署長のミヤモトが言った。
「人間の目や耳は、思った以上にあてにならない。目撃証言は大事だが、それだけを信じるのは危険だ」
タカシはハッとした。
② 先入観のワナ:「過去」にとらわれるな
次にタカシは、過去に窃盗の前科がある男に目をつけた。
「前にもやってるんだから、今回もこいつの仕業に違いない!」
タカシはその男の家を訪ね、強い口調で言った。
「お前、昨夜どこにいた?」
「は? 俺は仕事で工場にいたぞ。いい加減にしてくれよ」
サトウが腕を組みながら言った。
「タカシ、お前は『前科がある』というだけで疑ったな」
「…だって、前にもやってるんですよ? またやる可能性が高いじゃないですか!」
署長のミヤモトが首を振った。
「確かに前科がある者が再犯することはある。でもな、それだけで決めつけると、大事な証拠を見落とす。人間は、一度経験したことに引っ張られやすいんだ」
タカシはまたしても自分の視野の狭さを痛感した。
③ 噂のワナ:「みんなが言ってる」に惑わされるな
タカシは今度こそ、と町の人々に聞き込みをした。
すると、ある人物が話していた。
「最近、あの若い男が夜遅くにうろついてるって話を聞いたよ」
タカシはすぐにその男を疑った。
「目撃証言に一致してないけど、行動が怪しい。調べるべきだ!」
しかし、サトウが冷静に言った。
「タカシ、それはただの噂だろ?」
「でも、町の人が言ってました!」
「『みんなが言ってる』っていうのは、意外と当てにならないもんだぞ。人間は、聞いた話をそのまま信じてしまいやすいんだ。証拠を見ずに、ただの噂に流されるな」
結局、その男は事件とは無関係だった。タカシは深く反省した。
④ 権威のワナ:「偉い人が言ってる」を疑え
タカシは「過去のデータ」を調べた。
すると、「この地域の窃盗事件は、ほとんどが特定の窃盗団によるもの」という資料が見つかった。
「よし! 今回もこの窃盗団の犯行に違いない!」
タカシは勢いよく立ち上がったが、ミヤモトが止めた。
「確かにデータは大切だ。しかし、それが絶対に正しいとは限らない」
「でも、過去のデータですよ? これまでの統計があるなら…」
「人間は『偉い人が言ったこと』や『昔からのやり方』を信じすぎることがある。でもな、世の中は変わるんだ。過去のデータがあるからといって、それに頼りすぎるのは危険だぞ」
サトウが補足する。
「大事なのは『証拠』と『論理』だ。過去のデータも活用するが、それだけに頼るな」
結局、真犯人は窃盗団ではなく、倉庫の元清掃員だった。
彼はリストラされ、腹いせに盗みを働いたのだ。
第三章:思い込みを乗り越えて
事件解決後、タカシはミヤモトに言った。
「俺は、何度も思い込みに惑わされてました…」
「誰でもそうだ。だからこそ、自分の考えが正しいか、常に疑うことが大事なんだ」
サトウがニヤリと笑う。
「刑事はな、事実だけを見る仕事だ。思い込みに流されず、証拠を積み上げる。そうやって真実にたどり着くんだよ」
タカシは力強くうなずいた。
第四章:教訓 ~正しく考える力を持て~
タカシはこの事件で学んだ。
人の記憶や感覚は間違うことがある(錯覚のワナ)
過去の経験だけで判断してはいけない(先入観のワナ)
噂に流されず、確かな証拠を探す(噂のワナ)
偉い人の意見でも、自分の頭で考える(権威のワナ)
「思い込みに囚われず、冷静に証拠を追う」
タカシは新たな決意を胸に、刑事としての一歩を踏み出したのだった。
(終)
イドラについての解説
この物語で登場した「錯覚のワナ」や「先入観のワナ」などは、実は人間が物事を判断するときに陥りがちな思い込みを表しています。これらの思い込みを「イドラ(幻想)」と呼びます。
イドラは、フランシス・ベーコンという哲学者が提唱した考え方で、人間の思考がどれだけ誤った方向に進んでしまうかを説明したものです。
ベーコンは、私たちがものごとを判断するときに、「自然に持っている偏った考え方」や「過去の経験」などに引きずられてしまうことが多いと指摘しました。
そうした「イドラ」の存在に気づき、注意することが、より正しい判断をするために大切だというのです。
イドラの種類
錯覚のイドラ(種族のイドラ)
人間の目や耳は、見たり聞いたりしたものを完全に正確に捉えることができません。思い込みや錯覚に惑わされてしまうことがあるということです。例えば、目撃証言が必ずしも正確でないことがあるということです。先入観のイドラ(洞窟のイドラ)
自分が過去に経験したことや学んできたことにとらわれて、新しい事実を受け入れにくくなることです。たとえば、「前科があるから犯人に違いない」といった偏った判断をすることがこれに当たります。噂のイドラ(市場のイドラ)
人は他人の話を信じすぎて、事実を確認せずに情報を鵜呑みにしてしまうことがあります。これが「噂」に惑わされる原因です。たとえば、町の人々の噂を元に捜査を進めると、大きな誤解を生むことがあるということです。権威のイドラ(劇場のイドラ)
「偉い人が言っているから正しい」という考え方です。たとえば、過去のデータや有名な学者の意見をそのまま信じてしまうことです。もちろん参考にすることは大切ですが、常に自分の頭で考え、確認することが大事です。
イドラから学ぶこと
人間は、どうしても自分の思い込みや先入観に影響されがちです。しかし、冷静に証拠を集め、異なる視点から物事を見ることができれば、より正確で公正な判断を下すことができるようになります。
この物語のタカシのように、思い込みに惑わされず、事実を重視することが、どんな仕事においても大切だという教訓を得ることができます
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