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【映画】オッペンハイマー【レビュー】

ロバート・オッペンハイマーが原爆を開発を指揮し、後半はロバート・ダウニーJr(ストローズ)がロバートを追い込むという、ロバート好きには堪らない映画となっている。

彼が原爆の父であるなら、原爆はその子という事になる。子が父の手に負えない存在であったのは、劇中常に泣き叫んでいた彼の子供と同じであり、ノーランが込めた皮肉だろう。

オッペンハイマーは極端な愛国者でもなく、人間的な感情が欠けたサイコパスの類でも無かった。キャラクターなんて言葉で簡単に分類できない、複雑で捉えどころのない人間だ。
劇中、量子力学の説明があった。量子は波であり、同時に粒子でもある。そのような相反する存在は、それを説明していたオッペンハイマー自身でもある。彼は破壊の人でありながら、平和の人でもあった。量子の世界は見通せるのに、自分の未来や周囲の人の心は見通せなかった。

日本での映画の公開に時間がかかったので、もっと物議をかもすような作品かと思っていたが、そんなこともない。(日本の映画配給会社のこのような萎縮は本当に残念で情けない。)
当時のアメリカを肯定するような描写のあとに、間髪を入れずにそれを打ち消すようなセリフやシーンがサンドイッチされて、制作側の配慮が読み取れるが、わざとらしくもない。また東京大空襲や広島長崎への原爆投下が民間人の大虐殺であることや、もはや日本は戦争を続けられず、降伏間近であるにも関わらずアメリカが原爆投下に踏み切った事なども匂わせていたのはよかったと思う。

しかし、あの轟音の下で、訳もわからず恐怖のうちに全身を焼かれ、あるいは吹き飛ばされ、もしくは放射能に肉体を蝕まれた人達がいたのかと思うと、胸が苦しくなり涙が込み上げてきた。

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