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038 バッティングフォームをデザイン思考で修整すると…
デザイン思考とは「意図的な試行錯誤」のこと。
観て、聴いて、試作品を作って、テストをする、を繰り返すだけである。
意図的に行えばデザイン思考、そうじゃなければ単なる試行錯誤、それだけのことである。
少年時代の試行錯誤(デザイン思考?)体験
私の小学校6年のころの体験である。
当時私は野球少年だったけど、バッティングが力まかせの大振りだったので空振りが多くイマイチだった。
だからコーチ(的なことをしていた世話好きな大人)からは、「ダウンスイングしろ、」「ダウン、ダウン」「何度言ったら分かるダウンスイングだ!」って感じのことを散々言われていた。
けれども私はそれを無視して、そのままのスイングを続けていた。
周りの者はみな、言われたとおりダウンスイングの素振りをしている中、私だけ逆らっていたのである。
もちろん、球を見ずに顎の上がるようなアッパースイングがお話にならないことくらい分かっていた。
でも、自分のスイングはそこまでひどくないし、このコーチは一般論を押し付けているのだろう? くらいに思っていた。
なぜならプロ野球の選手を見てもダウンスイングしているようには見えなかったからだ。
そもそも「ダウンスイングなんかしたら球が上に上がらないじゃん」と信じていた。
それなのに、なんで大人はみんな判で押したように「ダウンスイングしろ」って言うのか、それが不思議だった。
もしかしたら「人格形成の意味で謙虚さでも教えようとしているのかな?」と思ったりもした。
ところが、テレビで王選手の素振りを観た時「あれ!?」と思った。
極端なダウンスイングだったのである。
これを見た辺りから、自分が間違っていたかもしれないと思うようになった。
そうなると、プロ野球中継や高校野球の中継を見ていても、見るのはスイングの角度だった。
それだけじゃなく、ラケットでも竹刀でも振り回すものを持てば、ダウンスイングのことが頭をよぎった。
脳にアンテナが立ったのか、見ること、聞くこと、何でもかんでもヒントになった気がする。
野球をやっている時も自分を実験台にしていろいろと試してみた。
わざと極端なダウンスイングをしてみたり、逆にアッパースイングしてみたりした。
周りは「こいついったい何やってんの?」って顔してこっちを見ていたかな。
その姿を見かねたのか、ある友人は「コーチに言われたからって気にすんな」と言ってきた。
たぶん慰めているつもりだったのだろう。
でも私は「え、そこ?」って気分だった。
もともとコーチがどうのこうのじゃなく、良いスイングとは何かを探求していたつもりだったから、慰められたかと思うと、そっちの方がショックだったかな。
まあ、今思えば友人の反応はまっとうだったと思うけどね。
そんなこんなの日々を過ごしたある日、あることに気づいた。
「プロのバットスイングはほとんど腕を使っていない」ってことに。
それまでバットスイングはハエたたきを振るように腕を振り回すことだと思い込んでいたけど、どうやらそうじゃなかった。
みなさんもやってみたら分かるけど、構えの時のグリップの位置、球が当たっている時のグリップの位置、グリップは肩からへその辺りに振り下ろされているだけである。
まさにダウンスイングだった。
これは自分の中でものすごい気づきだった。
試しに自分のバッティングフォームを鏡で見てみたけど、まさにプロ野球選手のそれと変わらないように見えた。(ちょっとひいき目過ぎたかな)
でも実際、これを心がけるようになったら飛躍的にバッティングはうまくなったよね。
当たるわ、飛ぶわ、自分でも驚きだった。
周りからバットに秘密でもあるんじゃないかって疑われるくらいの変化があったようだ。
この気づきを喜々としてコーチに話してみた。
そしたらそのコーチは「だからずっとダウンスイングだって言ってただろ! お前だけだよ、今頃そんなこと言っているのは!」って怒鳴られたね。
デザイン思考とは試行錯誤を言う。
デザイン思考というものを難しくとらえている人は、上記の体験談を読んでもピンとこない。
「これのどこがデザイン思考なの?」
「そもそもデザイン(総合的組み立て)なの?」
と思うかもしれない。
でも、上記の体験を整理すると次のような感じだ。
十分デザイン思考であることが分かると思う。
上記体験のデザイン思考的解釈
(テーマ)なんで大人は「ダウンスイングしろ」って言うのか?
(気づき)王選手はダウンスイングだ
(実験)極端なダウンスイングやアッパースイングを試した
(観察や話し合い)テレビを見たり、友人と話し合ったり、ハエたたきを見たりした
(仮説)腕はほとんど使わないのでは?
(試作品)腕を使わないバッティング
(実験)当たるし、よく飛んだ。
(結果)これがダウンスイングかと納得した
どうだろうか?
創造のために、意図的に実験を行い、試行錯誤を繰り返しているよね。
十分デザイン思考だと思う。
代表的なデザイン志向プロセス
上記の説明をしても、まだ疑問を持つ人がいるだろう。
そこでデザイン思考の第一人者たちのやり方を紹介したい。
代表的なものは以下のとおりだ。
各種デザイン思考プロセス
【ハーバートサイモン】定義⇒研究⇒アイデア出し⇒プロトタイプ化⇒選択⇒実行⇒学習
【ロバート・マッキム】表現⇒テスト⇒サイクル
【クリストフ・マイネルとラリー・ライファー】問題の(再)定義⇒ニーズの発見とベンチマーキング⇒アイデア出し⇒建設⇒テスト
【スタンフォード式】問題定義⇒共感⇒定義⇒アイデア⇒プロトタイプ⇒テスト
【ティムブラウン(IDEO)】着想⇔観察⇔共感
どうだろう。
デザイン思考のプロセスは色々あるけど、どれも「観て聴いて試作品を作ってテストを繰り返す」点はどれも同じである。
我々はとかく「〇〇思考」とか聞くと、さも難しいことのように思い込むけど、ほとんどは自然にやっていることに名前がついただけである。
デザイン思考も同じで、誰でも自然にやっている試行錯誤に意図性を加えただけなんだよね。
つまり、デザイン思考=意図的な試行錯誤ってこと。