超年下男子に恋をする㊱(季節外れの冬の花火は年上女の恋のよう)
彼の21歳の誕生日。冬の花火をやるために私たちは河川敷に来た。
その日は雪がちらついて、河川敷はとても寒くて、風もある。
私が手に持つろうそくに彼が火をつけようとする。
ライターの火がなかなかつかない。
二人で風を防ぐように手で囲いを作る。
重なる手、至近距離、でも火がつかない。
カチッカチッと虚しく音が響く。
胸に顔を埋めるぐらい近くにいて、それでも彼の火がつかない。
まるで私たち二人のようだ。
でもこの時は、彼も必死に火をつけようとしていた。
そしてやっとついた火が消えないように二人で囲いを作るように手を重ねる。
いよいよ花火に火をつける。
これもなかなか火がつかない。
彼の足先が冷たい。
震えながら、火がつくのを待っている。
やっとついた花火を彼とミワに渡す。
雪の中で色とりどりの火花が散る。
綺麗だけどすぐ消える。長続きしない。
ろうそくの火も消えている。
また彼がライターに火をつける。
カチッカチッと音が響く。
そうやって、苦労して、やっと一瞬火がついて、そしてあっという間に消えていく。
「なんで冬に花火やらないのかわかったよ」
私は彼にそう言った。
火遊びは夏にするものだ。
冬の花火は苦労が多くて、楽しみも一瞬。
夏のようにいたずらに時は過ぎない。
凍てつく寒さの中で、なかなか火もつかなくて、温め合うことすらできない。
冬の花火は年上女の恋のよう。
季節外れの花火を楽しむどころか、彼は寒さで震えている。
結局花火は半分残した状態で、もうミワと彼が寒さで限界。
私たちが買ってきたカップ麺もホットドリンクもすっかり冷え切ってしまった。
それでもミワがずっと撮影していた二人の花火の動画や写真は、寒さは感じさせなくて、ただただ綺麗だった。
火をつけようと寄り添うように向かい合う私たち、花火を振りかざして夜空に火花を散らす彼、その顔が赤や緑に染まる。
現実はあんなに辛かったのに、思い出として残る写真はなんて色鮮やかで美しいんだろう。
帰宅後、私から彼にもう一つのプレゼント。
それはバイト先の人たちに聞いた彼のいいところ。
「声が大きい」とか「目が大きい」とかどうでもいいのが多かったけれど、それでも彼は喜んでいた。
「山田さんのが一番多いですね」
と言われたけど、もっと言える。ずっと言える。
もしもいつか私のように、自分のいいところが何だかわからなくなるぐらい自信喪失した時には、今度は彼に思い出してもらいたい。
こんなにいいところがあるんだよってことを。
・人の悪口言わないところ
・嘘つけないところ
・誠実で不器用なところ
・(良い意味で!)アホなところ
・おもしろいところ
・空気清浄機みたいなところ
・一生懸命働くところ
・自然と動物が好きなとろ
・思いやりがあるところ
・無邪気で心が綺麗なところ
・優しいところ
これは私がそのまま彼に送ったもの。
私のいいところを思い出させてくれた彼に。
人を愛せることを教えてくれた彼に。
生まれてきてくれたことへの感謝を込めて。
いつもいつも私の心の片隅には、あの時一緒に火をつけたろうそくの炎が揺れている。
凍てつく夜に儚く散った冬の花火の美しさと共に。
そしてもうすぐクリスマス。
忘れられない夜が来る。