絵事常々 -制作のながれ⑤ 墨-
中秋の名月がとても綺麗でした。
私の月の絵も気分よく描き進めています。
が、noteの投稿ではまだ画材説明に字数を費やす。
いざ制作の話をしようとすると、
「この画材の説明なくして話できないわなぁ」と気になってしまう。
「書くからにはいい加減な説明できないわなぁ」と色々調べてしまう。
たぶんこの後も「膠」や「水干絵具」や「岩絵具」の説明がはさまりながらの制作ドキュメントになるであろうと思います。
そんな今回のnoteは「墨」のお話しです。
正直に申しますと、墨の話はあまりできません。
書や水墨画をされている方・墨おたくの方、墨の世界はものすごく熱い。
私は「和紙に膠を使って描く作品の、1つの色味」として使う立場なので、そこまで深掘りできませんがご容赦ください。
さてさて、そんな私が愛用しています墨と硯はこちらです。
硯は「呉竹精昇堂 高級別製 御硯(天然硯)4.5平」
墨は「古梅園 極上 梅花墨(油煙墨)」
硯が3,000円、墨が13,000円ですね。(研修で頂戴したありがたい逸品)
墨を磨るとき用の少しずつ水を入れる「水差し」なんてあると粋なのですが、私はもう筆洗とパフェスプーンです。
1.墨のちがい
墨は原料で大別して2種類あります。
原料が変れば製造方法も変わりまして、
松煙は燃やして生じる煤を和紙に付着させて獲得します。
油煙は油を蓋つきの土器の中で燃やして、蓋に煤を付着させます。
このあたり、調べるとすぐに色々出てきます。
墨の世界は熱いから。
面白くわかりやすく読めた記事をちらっと貼り付けておきます ↓↓
その原料の違いで何が変わるのか。
ずばり「色」「墨の動き」ですかね。
「墨の動き」ですが、滲みや垂らしを多用していないので経験値は低いものの、油煙墨、プカプカ複雑極まりない印象を受けています。
水でぼかす際、松煙墨はぼかし筆の動きに従ってスーッといく感じです。
油煙さんは比較するとそんなに従順じゃあない。
水多めに引いたところに濃墨を落としても、プカプカされます。
軽いんでしょうね。
この一筋縄ではいかない動きが逆に深み・柔らかみのある墨色を演出しているように感じています。
色味に関しては、今回の比較でいくと油煙墨が断然深いです。
同じ時間をかけて磨った濃墨で比べた時、松煙はマットな感じでしたが、油煙は柔らかく深いためか、黒が強く感じられます。
松煙は青味寄り、油煙は赤味寄りで、作品の中でもその色味は見分けがつく程度に違います。
こうした試しなどして、手持ちの墨では「松煙は硬めストレートな時」、「油煙は柔らかく深みが欲しい時」と使い分けています。
2.硯について
硯、恥ずかしながらお話しできるほど知っていることがありませんで。
これまた先ほどの面白い記事をご紹介まで ↓↓
私が硯で気を付けている唯一のことは「墨と硯の相性」です。
硯にも硬い・柔らかいがあり、墨も同様。
硬い硯で柔らかい墨を磨ると、そらもう速く磨れるのですが、
「磨る」は「磨く」ようなものなので、あんまり大根おろしみたいにされちゃいかんのです。
(大根おろしも墨のようにおろすのが美味しいようです)
ダメというか、墨の細かな粒子が荒っぽくなるので、厳密ーな話でいくと色も滲み方も本領発揮ではないんですね。
ならば墨汁で良いではないか(絵画用で色々と面白い商品あります)。
でもね、きちんとした墨の色と動きって本当に魅力的です。
そんな素敵な墨は長く使わないと勿体ないので、丁寧に磨って参ります。
3.墨の磨り方
「墨を磨るときは病夫の如し」、力を入れないことが肝要です。
幼い娘に磨らせるのが良いと言われるも、生憎そんな素敵な娘はいません。
墨の重さだけで磨るイメージで、ゆっくり丁寧に磨っていきます。
磨り方も色々。
「墨を磨る軌跡」と「墨の立て方」が違いのポイント。
墨を磨る軌跡、方向は「円をかく」タイプと「N字をかく」タイプ。
加えて墨の立て方は「垂直」・「斜め」の2タイプ。
(斜めは、墨の長辺を進行方向におくタイプ・短辺をそうするタイプと更に2種類あります)
斜めにした方が硯との接地面積が大きくなり、得られる墨が多くなるというわけです。
こんな風に少しの水で磨っていきます。
そうすると、墨の膠分でねっちょりしてきます。
これが大事。
じゃぶじゃぶ磨ってもダメではありませんが、墨の色や伸びや定着力を確実に得るためには濃墨を作ることが必要です。
黒さももちろんのこと「濃墨から作った薄墨」と「薄墨として磨ったもの」では滲みやぼかしに違いがはっきり出てきます。
硯に残った濃墨も片付けがてら薄墨にします。
たぶん硯に残った墨は余分なカスもあるため一級品ではないのでしょうが、ここはもったいない精神。
そのまま薄墨として使ったり、濃墨の希釈に使ったり、遊んだりしてます。
これでようやく描けるのですが、その前に。
硯を綺麗に片付けます。
「膠分がこれでもかとまとわりついた微粒子」が墨です。
硯の繊細な凹凸をつまらせてしまうので、磨ったらすぐに洗います。
残った墨は紙で吸い取り、水(冬場は少し温かい水)で洗います。
高温のお湯とかで洗うと割れてしまうことがあるようです。
ある程度の面積に使おうとしたらば、まぁ2時間くらいですか。
「墨を使う」と決めた日は朝早くに磨っちゃった方が良いです。
ラップして冷蔵庫で保管すれば膠分は腐敗しませんが、墨色が悪くなると言われますのでその日の内に使います。(俗に一晩越したものを「宿墨」と言います)
線描に使うのであれば小さな絵皿に1/3で結構描けるので30分くらいで墨が得られます。
なんたって伸びがすこぶる良いので、少量でずいぶんと描けますよ。
濃墨はどんどん乾いていくので、使う際は絵皿半分にラップをしたり、おちょこみたいな深い小さな容器に入れるも一手です。
さてと、そんな墨を用意しまして「制作のながれ」。
次回からようやく画面を触りだします。
まずは転写した線を起こしていく工程から。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございます。
それではまた次回の投稿で。