![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/85675145/rectangle_large_type_2_add338461b4c5214505e43915eef1be1.jpeg?width=1200)
絵事常々 -制作のながれ⑧水干絵具-
やっとこさ色を塗るところに辿り着きました。
制作開始、あれは5月初めの頃の話…
しみいるような新緑の季節から、ぼちぼち紅葉。
まさか投稿するまで5か月を要するとは誰が想像したでしょう。
≪これまでの流れ≫
① エスキースや下図の説明(投稿:4月)
「制作しながら経過報告していくぞ」と浮き浮き投稿開始
② 紙張りの話(5月)
すでに描き始めていたものの、紙張りの説明をしなくては!と思い立ち投稿
(早くも現状の進行と乖離しはじめる)
↓
制作以外でわやわや
↓
③ 転写紙の話(9月)
おもむろに転写紙の話を投稿(材料の話をせずにはいられなくなる)
実際は転写も下塗りも終わり、岩絵具で細かく描き込んでいる
④ 転写工程の話(9月)
まだ話す転写について
実況ではないことをこのあたりから開き直る
⑤ 墨の話(9月)
もういっそのこと使ってきた画材について改めて勉強し直す勢い
⑥ 図起こし(9月)
やっと画面を触りだすところの話
(実際の進捗は7割方終了)
⑦ 膠の話(10月)
まだ話す材料について
今回の投稿でようやく下塗り(イマココ!)
絵が終わるころに絵の1色目のお話です。
さて、記念すべき最初の1色ですが
もう何色にするかは決めております。
赤みの紫!
ここ1年くらい妙に「月」づいていまして
描くものも書くものも「月」、しかも「落ちる月」。
なんだか知りませんが急に月が落ちてきて
お手製の墨の揉み紙とも相性が良く「落月シリーズ」を展開しています。
そんな中、
前々から墨の下に赤みを忍ばせておくのが気に入っていまして、
なおかつ月の周囲にできる虹彩も想起できると思い赤みの紫1択です。
![](https://assets.st-note.com/img/1665212431681-vLDGFepBjj.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1665212441923-MjKOA9GDKO.jpg?width=1200)
見えにくいですが、ちらちら草原や岩山にもとばしてます
ほんと、空間とモチーフにさらっとひと塗りしただけなんですけどね。
でも最初の1手は結構緊張するのです。
真っ白なキャンバスは無限の可能性なもので(墨の揉み紙ですが)
この1色目ですが、
画材は「水干絵具」なるものを使用しています。
![](https://assets.st-note.com/img/1661682880689-fNfTKrRU10.jpg?width=1200)
水干絵具2色と膠さんです
◆水干絵具とは
着色する材料は「顔料」と「染料」の2種類があります。
顔料は紙の上にのっかる色材、染料は繊維にしみ込む色材で
水干絵具は「顔料」です。
古くは土や貝殻を粉砕して精製したものを指しました。
その精製の方法が「すいひ」。
粗い粒子を水でふるいながらきめ細かな粉にしていく製法です。
「すいひ」は水簸(干)・水飛の字があてられます。
水で細かくふるい落とし乾かす=干すことから「水簸」、
水で細かなものが運ばれる様を「水を飛る」と記述したことから「水飛」の字が用いられています。
水干絵具は大別して2種類あります
・岱赭、朱土、黄土など土を精製したもの
・貝殻の粉や白土を染めたもの
古くは染める材料も植物性・動物性由来のものでしたが、
合成染料が用いられるようになり多様な色が展開されています。
発色よく、伸びが良いことに加え、安価。
1両(15g)で100円台からだもの。(岩絵具だと1両300円程度からスタート)
しかも少量でまぁまぁ塗ることができ、岩絵具に比べ非常にコスパが良い。
そのため下塗りにはこの水干絵具を、仕上げに岩絵具を使うというのが
発色良くお財布にも優しい王道の手法です。
レアなところでは染料の沈殿を顔料にした高純度なものがあり
こちらはすこぶる高級品です。
水干絵具の詳しい概要はこちら
武蔵野美術大学のページが見やすいです ↓↓
◆さて練ろう
また材料説明で熱くなりそうだ…
とりあえず工程の話をします。
水干絵具の使い方ですが、
細かくすりつぶして、よく膠水と練る
これに尽きます。
買った時の水干絵具はフレーク状だったりダマだったり
均一ではなく粗いまんまなのです。
これをそのまま練ると、まぁツブツブ・ザラザラの絵具。
それに加え水干の粒子に膠が絡まず剥落の要因となります。
ですので最初はひたすらすりつぶす。
目安はざらついた感触と音がなくなるくらいです。
丁寧に空擦りされた水干絵具は、発色も定着もよろしい。
念のいった場合には更にガーゼなどで濾します。
![](https://assets.st-note.com/img/1665217840397-vxr81d3Nal.jpg?width=1200)
更には適切な膠水の量も違ってきます
なめらかになるまで膠水で練りましたら
あとは水もしくは膠水でのばして塗りやすいようにします。
私は濃い膠で練って水でのばすタイプ。
あまり濃い膠水でじゃばじゃばすると、絵具の発色が非常に悪くなる。
俗に「焼ける」「膠ヤケする」と言われます。
このあたりの塩梅はちと経験がモノを言うところ。
(要はヤケるのを経験して打ちひしがれたことがあるかどうかです)
![](https://assets.st-note.com/img/1665219823907-vyh2PGcQr4.jpg?width=1200)
乳鉢は直径7㎝くらいのもの
![](https://assets.st-note.com/img/1661683002567-5pexZRZrmd.jpg?width=1200)
これを混ぜ合わせて赤みの紫にします
こちらを混色します。
和紙の端切れなどで試し塗りして、いい感じの色に。
面倒がらずにキチンと色見本を作っておくと後々便利です。
![](https://assets.st-note.com/img/1661683035565-VfRrgXxavE.jpg?width=1200)
これは残った絵具を小皿に移し、冷蔵庫で保管して固まらせたもの
![](https://assets.st-note.com/img/1665218890639-6dicaeBG5Q.jpg?width=1200)
名刺サイズが便利
◆さて塗ろう
いよいよ塗ります!(臨場感)
絵具を練る前からざっくり塗りのイメージを持っておきます。
今回はあまりべったりつぶすようには塗らず、ほどよく染まる感じで。
薄くしゃばしゃばにした絵具を塗るのも1手ですが
紙にあらかじめ水を引いた上で、
ある程度の濃さの絵具をのせてぼかすようにします。
このやり方、塗りムラを怖がらずに挑めて良いんです。
水加減・紙の乾き加減・絵具の膠濃度さえ気を付ければだいぶ気楽です。
まずは水引き。
![](https://assets.st-note.com/img/1661683100912-ZoMchOCITu.jpg?width=1200)
塗りムラなく絵具が引ける、揉み紙の凹凸も少しもどるので一石二鳥
紙の乾き加減をみて、えいやと絵具投入。
![](https://assets.st-note.com/img/1661683135513-1Gglhi0t8d.jpg?width=1200)
細かいところは平筆、大きなところは刷毛
パネルは寝かせたまま、乾くのを待ちます。
![](https://assets.st-note.com/img/1661683161412-vz2mX8uzss.jpg?width=1200)
余った絵具は小さな絵皿にとって、ラップしておくと後日使えます。
![](https://assets.st-note.com/img/1661683252330-kKejp3EIbV.jpg?width=1200)
その後お湯とスポンジで洗います
絵具を練るのになんやかんや小一時間。
塗るのは20分くらい。
手間暇かけて作った料理をあっという間に食べる、あの感慨があります。
私は水干絵具の「和紙との相性」や「上澄みの透明感」が好きなのですが、
岩絵具だけで仕上げていく人も多いのですね。
その理由の1つに準備・片付け手間があるのではと半分本気で思ってます。
さて乾いた状態。
![](https://assets.st-note.com/img/1665220076736-rouvJIel09.jpg?width=1200)
さらっとしていますが、結構この赤紫、あとあとまで残ります。
赤系の水干は良くも悪くも後に響く。
着色の染料が滲みやすいというか、上から白で塗りつぶしても赤みが出てきたりする、湧いてきやすい要注意人物です。
やっと1色入りました。
1色入って、各モチーフに色を入れていって、まとめていく最初の方までは無邪気に楽しいんですよね…
今はどう詰将棋しようか、ちょっと悩んでます。
次は石や岩山を塗っていきます。
「田原白土」という私の非常に気に入りの絵具が登場!
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
また次回の投稿で。
蛇足
「水干絵具」は別名「泥絵具」というのが一般見解になっていますが、少しひっかかっています。
泥絵具は質が低く精製が不十分なものを指していたようで、恐らく水干絵具とは別のものの名称。
精製技術が発展し質の低いものが無くなっていったんでしょう。
良いことです。
が、しかし!
「言葉がうやむやになる・水干と同義語になる」
こうした状況だと、ちと困る分野もある。少なくとも私は困る。
いつか自分の中ではハッキリさせようと思いながらも
歴とした根拠を探し出せず大きな声で言えない不甲斐なさ。
蛇足でこっそり書いておきます。
いいなと思ったら応援しよう!
![巳白](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/57476102/profile_a054e918414dbc7b0543cc2d3fac320b.jpg?width=600&crop=1:1,smart)