絵事常々 -制作のながれ② 紙の張り方-
こんにちは。
大型連休はせっせとアトリエに詰めていました。
コツコツ描き進めています。
今回は前回の投稿に続き、制作の流れについてです。
転写から着彩に進めていこうかと思っていたのですが
よく考えると「水張り」工程を軽やかに端折っている…
「制作の流れ①」の最後、水張りは乾かし中の画像だけなので
今回は水張り=紙の張り方についてです。
それでは早速。
1.水張りをする理由
絵を描く際にパネルに紙を張りこむという工程があります。
なんのために必要かと言いますと、
THE・安定した状態で紙に描くためです。
紙の性質としまして、水を含ませた際に膨張します。
逆に乾いていくと収縮し、元に戻ろうとします。
この膨張・収縮の度合いは紙によって異なりますが
新聞紙でもティッシュでもコピー紙でもなんでも
紙である以上は水分に翻弄される運命です。
そうした材料に水気を与えて描く場合、自由気ままにしてやっていては
筆を置いた箇所からあれよあれよという間に膨張・収縮、膨張・収縮…
気が付けばあら不思議、ボコボコの波打った画面の出来上がりです。
そんな悲しいことにならないために、
固定してやる=自由を奪う工程が水張りです。
すでに描きやすい状態にしてある
市販のもの(色紙や和紙ボードなど)もありますが、
大きい作品を描く場合は自分ですることがほとんどです。
2.水張りの流れ
さてさて、そんな水張りの流れ。
私が日本画・パネル張りなので、その方法のご紹介です。
用意するものから参ります。
①用意するもの
紙とパネル、この2つが基底材と呼ばれるものです。
読んで字のごとく、基底となる材料。
絵全体の印象・耐久性を左右する大事なものです。
滲み止めをした紙は、していない紙よりも縮み、サイズが小さくなります。
滲み止めをせずに張り込み、後から滲み止めを行った場合、
紙が更に収縮し、パネルに対して余裕がすこぶる無くなります。
描き進めていく過程でバインダーが加わり、紙はどんどん縮んでいくため
パネルが反りかえったり悪い場合には紙が裂けたりします
(すごい音で裂けるそうです)
中には滲み止めを行いながら張り込む方法もあります(ドーサ張り)
時間と場所の節約志向が強い方法と個人的には思ってます。
基底材の選択・張り方は、その後の描法と切っても切れない仲なので、
最終的にどんな絵を描きたいかで決めていきます。
捨て糊に関しては、私の好みです。
あまりコテコテでない糊にするため、いざ張り込んだ時に
「糊がパネルの木地に吸われしまってつかない!」という状況が起こり…
恐ろしすぎて薄めに1回捨て糊をすることにしています。
パネルの水拭きも、するしないは人によるかもしれません。
木くずや、木地の目を埋めるための「砥の粉」をとるためにしています。
私的に「今から水張りするぞ!」という、儀式的な要素があります。
どんなに綺麗に描いても基底材が安定していなければ
その上にある色彩はすぐに壊れます。
基底材をきちんと仕込めば安心して描き進められますのでがんばります。
続きまして、それ以外の用意するもの
糊は水で溶けるもの、でんぷん糊を使用します。
また防腐剤が入っていないものを。変質・変色するそうな。
私は袋タイプの洗濯糊です。お安いので。
かの有名なヤマト糊のチューブタイプも使いやすそうです。
糊の粘度も人それぞれで、薄めたり捨て糊をしない方もいます。
張り込むときは、空気を抜きながら糊止めをしていきます。
時間との勝負になるので、できるだけ大きな刷毛で手数少なく。
毛が傷んでいると、紙の表面を毛羽立ててしまうので状態の良いものを。
できれば水刷毛など専用のものを使えば気分がいいかと思いますが
ないならないで、紙に優しい刷毛を使います。
このあたりも最終的な絵の仕上げ方によります。
「自分は荒れた紙でワイルドな表現をするんだ!」という
前衛的な気分の時もあるかもしれませんが、
基底材が壊れたら目も当てられませんので、基本は押さえます。
「紙が自分の表現にはやわすぎる!」という方は
ベニヤに描いても良いですし、綿布などもあります。
なんにせよ、基底材として使うものの性質をおさえてきちんと仕込みます。
②水張り工程
用意ができたらいよいよ水張りします。
卓上で制作できるサイズならあっという間ですが
自分の身長を超えるサイズになると小一時間くらいかかります。
あんまりカンカンに晴れた日に陽当たりの良い部屋でやると
紙の湿らしが難しいかもですが、屋内であれば温度・湿度そこまで気にしなくてOKな作業です。
私は休みの日の午前中にやることが多いです。
仕事から帰ってからだと疲れが紙に沁み込む気がして…
というのは冗談ですが、
まぁまぁ気をつかうというのと、トラブルがあった時に対応できるように時間は余裕を見てます。
これでもかと紙を水で膨張させて、のばしきった上で張り込みます。
さすれば紙はもうボコボコ暴れられないという理屈です。
紙の暴れ方は種類で異なるのですが、
しっかり湿らせてのばしきればフラット画面で張り込めます。
漉き方・原料で暴れ方が違うので、様子みて下さい。
後述しますが、さらっと描く人はぴっちり張り込んでOKです。
水引きの仕方で「イギリスの国旗のように」というのは
よく聞く例えかしらと思いますが、要点は隙間なく水を引こうね、ということです。
大きなサイズになりますと、刷毛での水引きが結構大変なので
霧吹きなどでまんべんなく撒く方も多いかと思います。
とにかくまんべんなく均一に水を配って繊維の奥底まで膨張させます。
あとのポイントとしては、空気を抜くときも紙を糊付けするときも
紙の辺に対して垂直に。
紙を切るときからもそうなのですが、
紙のタテヨコの繊維をあんまりにも無視すると言うこと聞いてくれずに
角ジワができたりしますので、一番大事に意識します。
大きなサイズの時はできることなら助っ人がいるとやりよいです。
ひっくりかえす時だけなんですけどね。
一人だとなかなか紙の位置を決めきれないので
もし手伝ってくれる人がいるならそこだけ頼むとスムーズです。
(と言いつつ私は一人でやるタイプです)
③紙の張り方いろいろ
一応、前述したものが水張りの基本かと思います。
ただ、基底材の仕込みに関しては
その人がどんな風に描くかで変わってくるところなので
思った以上にいろいろとやり方があると思います。
人の水張り方法を聞くと、なかなか興味深いです。
ポイントは「紙の張り具合」です。
紙の余裕の持たせ方とでもいいましょうか。
先ほどの方法で水張りした紙というのは、まぁパンパンに張りつめてます。
だからビシャビシャに潤いたっぷりで描いても波打ちません。
ただ、張りつめているということは「もう限界です」に近い状態です。
描く手数が多い場合には、紙が限界!限界!となって
パネルを反らしたり紙が耐えかねて裂ける場合があります。
この辺りは、描き方・バインダーの濃度など色々ありますが
余裕をもたせてあげときたいなぁという時、
先ほどの方法ではちょっと張りつめすぎになります。
ではどんな感じで余裕を持たせるか。
1つは紙の「膨張させ具合」です。
「充分に水を浸透させた状態=限界まで膨張」なので
そこから生乾きまで待てば「ちょっと余裕ある膨張」になります。
またまた、なんなら「膨張させない=濡らさない」のも1手です。
この濡らさない(水引きしない)張り方を「から張り」と言います。
余裕たっぷり状態なので、
紙によっては描き始めに水気たっぷりで描くと暴れます。
機械漉きのなんちゃって鳥の子でやると絵具が溜まると思います。
それを承知で上りに合わせて、から張りする方は結構いるかなと思います。
最初の方で触れた「ドーサ張り」も同様にあえて狙ってやる方がいます。
もう1つの余裕調整は「張り込み方」です。
空気をこれでもかと抜いて、紙を引っ張り気味に糊でガッチリ固定するのが限界=余裕なしの張り込みです。
ですので、空気抜き・張り込みの加減で余裕を調整できます。
また、糊で固定せずに「画鋲で固定」という方法もあります。
側面すべてが固定されていない分、紙の自由度は高いです。
ただバインダーで紙が収縮していくので
ある程度、紙の糊しろは多めにとっておくが吉です。
その画鋲止めを、どこで糊止めに変えるかがまたポイントで
ある程度描き進めたら糊付けしていく人もいれば
最後に糊付けする人もいます。
こうした「パネル全体を紙で覆って側面で固定する」の他に
「パネル上に張り込む」=仮張りという方法も主流です。
こちらの方が、完成後カットしやすいので表具に仕立てたりしやすい。
同じく固定は糊付けでいけますが、水張りテープなどでも。
こうした辺りは個々の加減ですので
それぞれ仕上がりイメージを持って自分が選んだ材料と相談して進めます。
誰しもとっかかり、最初の水張りは誰かや何かに教わってすると思いますが
自分の制作の手順、材料の使い方を一番知っているのは自分です。
材料と自分が話し合って、気持ちよく描ける基底材の仕込みをします。
なんだか最後の方、熱がこもりましたが
そんなこと考えながら絵を描いているんですよのお話でした。
話せばまだまだある基底材のお話し。
とりまえずの水張りについて今回はご紹介しました。
楽しんでフムフムして頂ければ幸いです。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
鋭意制作中です。
それではまた次回の投稿で。