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第十三回俳樂會【結果】及び【選評】
皆さまごきげんよう。
季節はいよいよ夏といった様相を呈しておりますけれども暦の世界は気が早いようで、七十二候もいよいよ秋が近づいてまいりました。
「土潤溽暑(つちうるおうてむしあつし)」ということで、いかにも蒸し暑い夏の日々といった感じですわね。草の蒸した匂いが感ぜられますわ。
さて、先日催させて頂きましたわたくし主宰の句会【第十三回俳樂會】につきまして一連の行事が無事終了いたしましたので、こちらでご報告させていただきたく存じます。
まず、全体としての結果一覧がこちらとなりますわ。
皆さま沢山のご投句・ご選句・ご観覧ありがとう存じました。
さて、ということでここからはわたくしの選評を書いて参りたく存じます。
天:応援の喇叭かすかな夜の秋
応援の中心である競技場はきっとまだ熱気の籠もった夏の夜なのでしょう。けれども。帰路にそこから少し離れて喇叭の音も微かになったとき、ふと「夜の秋」の訪れが感じられた――。その描写の巧みさ、家路につく一抹の寂しさようなものが季語の本意を見事に捉えているように感じられました。
地:クレバスにひとつ秘密を置き去りぬ
「秘密」とは一体何なのかがこの句を鑑賞する時は議題になるかと存じます。実体のあるものなのか、あるいは抽象的な思い出のようなものなのか。そんな神秘的な謎がクレバスという景に上手く溶け込んでおりまして、17字に留まらない言葉の広がりを感じました。
人:夜の秋裸で猫を抱く女
この句は例えば季語が「熱帯夜」だと蒸し暑すぎるのですけれども、若干涼しく、そして寂しさのある「夜の秋」ですと裸で猫を抱くという行為が丁度良い塩梅に思えてまいります。
季節の感覚だけではなく「夜の秋」にある若干の人肌の恋しさのようなものまで伝わってまいりました。
福:雪渓のふちより雲の解け出でぬ
雪渓を視覚として読もうとするとどうしても浮かぶ景色が限られてくるかと思うのですけれどもその中で「解け出る」という表現に至ったのがこの句の良い点かと存じます。例えばこれが「雲が湧く」という言葉ですと月並みになってしまいますので、その工夫で上手く句が締まったように存じますわ。
禄:去年ぶりラムネの玉がポンと鳴る
ラムネは別段どうしても夏しか飲めないという存在では無いのですけれども、それでもポンと玉が落ちた瞬間の爽やかさを耳にしまして「あぁ、夏が今年もやってきたのだなぁ――」と、改めて感慨を深くしたという、そんな実感が伝わってくるような夏らしい一句でございました。
寿:さびしらに梳りゐる夜涼かな
「梳る」という言葉は昨今あまり耳にしなくなりましたけれども、髪を梳かすことで幾分の気休めをしているところかと存じます。
特に女性の長髪ですと首元が蒸れますから、夏の夜に半ば癖のように繰り返しているのかもしれません。無意識の中に現れる、幾ばくかの寂しさが伝わってまいりました。
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以上、芙蓉セツ子選でございました。
――さて、ということで第十三回俳樂會、ご参加頂きました皆さま、お見守り頂きました皆さま誠にありがとう存じました。
今回の俳樂會では幾つかの細かな変更点
・2日制への変更
・集計形式の変更(一部混乱する点がございました。恐れ入ります)
によりまして、概ね句会としての形式は整ってきたように存じますわ。
ですので、次はマンネリズムにならぬよう、また何か新鮮なことを企画できればと考えておりますわ。
今回の主宰としての実感といたしましては、投句頂いた方の句歴や層、個性といったものがかなり多様化してきたのではないかということを感じておりました。ですので、選句の焦点をどこに置くかかなり悩みましたわ。どれも別の点で優れていたりと優劣の比較が難しかったように存じます。
そんな詠み手の俳句を詠むに至った背景や所属による「色」というものがそれぞれあるのだとすれば、俳樂會は百人百様の「色」が輝くような句会になれば良いかなと思っておりますわ。
さて、次回の俳樂會についてなのですけれども一度小規模な13.5回を設ける方向で検討しておりますわ。ここのところわたくし自身が賞への投句を含めて多作にならざるを得ない日々でしたので、このあたりで一度「一言一句の重み」に焦点を当てたような句会を考えてみたく存じます。
より洗練された場になるよう精進してまいりますので、またご縁がありましたらその際はよろしくお願い申し上げます。
俳樂會主宰 芙蓉セツ子
首筋の細きを落つるラムネかな
雪渓の刻みし間氷期を生きぬ
黒鉛の紙削る音や夜の秋
水流るトマトの命を守るごと
頬触るる木床静けき昼寝かな 雪子
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