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薄情な私を

暖房の生温い空気と謎の清涼感あるオジサンと甘ったるい香水のオバサンのニオイでごった返す電車内に、朝特有の絶望感が流れみんなが項垂れている。まとわりついてくる思念が私の1日のやる気をごっそりと削ぐのだと、他人の所為だと当て付けて、少しでも自尊心を保とうと今日も必死である。どうしたって私のやる気の増減は私の中のものであるに、ただ電車に乗るそれだけのことで滅入る…12月は特に滅入る。そんな12月ももうすぐ終わろうとしている。今年の私のトップソングスに乗せて、2024年の風は何事もなく吹き抜けるだろうか…。


どうしてもみたかった

ここ最近ずーー…ッッと観たかったアニメがあって、『魔法使いTai!』という佐藤順一と伊藤郁子のセーラームーンのタッグが作った魔法少女モノ(厳密にはジャンルとしては少しズレているが)OVAである。本当はVHSで欲しかったのだが、見つからなかったため泣く泣くDVDのコレクションを購入した。いつか必ずVHS版も手に入れたいと思うほどに素晴らしい出来で、観たかったのには愛川 茜あいかわ あかねというキャラクタービジュアルがあまりにキュートであった為であるのも一つだし、96年頃のOVA文化の盛り上がりも個人的にハズレないポイントだと確信していたのもある。私は決して魔法少女モノのジャンルに精通しているわけでも、特段好きなジャンルというわけでもない、けれど昔働いていた古い喫茶店のマスターが魔法少女モノについて深い理解と敬意を持って嗜んでいることを知っていた、だからおそらく彼の知らないであろう魔法少女モノから少し外れた『魔法使いTai!』の魅力を伝え、私が感じた魔法少女モノの本質的な良さがはたして正しいのかを確かめたかった。高次元の共感のみが人と人を強固に繋ぐと私は知っている。そしてそれがなかなかに難しいことも。寄り添う中で薄れていく共感の、純度が落ち、その透き通る様な輝きが濁るほどに人が本来持つべき柔らかさすら喪われてしまう。そうして一緒にいられなくなった人たちを想うたびに、私は自分の傲慢さや薄情さにゲンナリしてしまう。『魔法使いTai!』の中にいいエピソードがある。

魔法クラブ部員の中富 七香なかとみ ななか(ななか)は、副部長の油壷 綾之丞あぶらつぼ あやのじょう(油壺先輩)に恋をしている。だが油壺先輩はホモセクシャルで部長の高倉 武男たかくら たけおに一方的な好意を向け、公に愛を表現していた。或日、ななかはフラれてしまう事を分かっていながら、油壺先輩へ告白する事を決心する。ななかの告白を聞いた油壺先輩は「僕も中富くんの事は好きだよ。だって中富くんの気持ちは僕と同じなんだ…だからよくわかる。好きな人が自分に振り向いてくれない…それをわかっていて気持ちを抑えられないんだもの。ズルかったかな?こんな言い方。つらいね。」と返したのである。穏やかなやさしさも感じるが、同じ苦しさを持っているななかを大切に想っていることは間違いない。でもやっぱりちょっとズルいとも思ってしまう。でもそれが油壺先輩の良さでもあり、“同じ気持ち(感覚)を持っている”ということがお互いに愛おしいのである。それはどの様な関係性であれ言えることであって、それぞれ大切に想うものが違っていても、大切なものを持っていることが重要なのである。それをわかっていても人と分かり合うのは、私には難しかったなと2024年を振り返っている。あなたがステキな事は変わらないし、胸にしまった輝きを死ぬまで失わないでいてね。と今年よく聴いたDOWNTOWN BOYの言葉を借りたい。


再誕

私事ながらひとつ歳をとった。31歳に成ってしまった。自分自身、25歳頃から何か変わった様には思えず、ガキっぽいジグザグな興味思考と半端な社交性が、私をマトモな大人にはさせてくれないと感じている。どうやったって人付き合いが苦手で思いっきり内向的な私が、部屋の外や画面の向こうへ希望を見出せるのは他人に齎されたやわらかい心のおかげである。生まれ変わるキッカケを与えてくれた全ての女性たちのおかげである。オンラインの*スバルは遠くからステキな誕生日プレゼントを送ってくれた。現実の昴も、本当に偶然ではあるものの誕生日の昼間に一緒に食事をしてくれた。お祝いのメッセージを送ってくれた人たちもこんな私にとって大事な人に変わりない。例え遠くから見守ってくれている人であってもそれは同じで、私の祈りは彼ら彼女らへ向いている。こんな薄情な私が持てる唯一の慈悲である。鬱に敗れ、突っ伏した私がまた地面を踏むキッカケをくれたあなたたちが、どうかそうならないで…と祈ることくらいしか私には出来ないけれど、それがあなたたちに届いているかはもうわからない。わからないけれどそうするしかないのである。死ぬまでそうして祈っていたい。

*スバルとは、アニメ.hack//SIGNに登場するキャラクターで、絶望した主人公が立ち直るきっかけをくれる慈愛に満ちたキャラクターである。そのことと重ねて、オンラインゲームで出会った大切な人を“オンラインの昴”。現実の大切な人を“現実の昴”と私の中だけで勝手に呼んでいる。ちなみにアニメの昴は現実で脚の障害を抱えているという重い境遇でありながら、せめてオンラインゲームの中の全ての人が平等に自由であって欲しいという願いのもとにプレイしているという優しさが非常に美しいので私は好きだ。

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