ぬるま湯に浸かってんじゃねーよ
先日、私が在籍しているWebライターラボというライター向けのオンラインサロンで、ライター兼エッセイストである、佐藤友美(通称:さとゆみ)さんの講義が開催された。
3月22日に出版となったさとゆみさんの書籍、『本を出したい』の内容にも触れたうえで、ブックライターの仕事についてお話をしてくださるという。
ラボのオーナーである中村さん経由で、さとゆみさんがどれほどすごいライターかは知っているつもりだったし、さとゆみさんが毎朝書くエッセイの隠れファンでもあった私は、講義が開催される何日も前からとても楽しみにしていた。うきうきわくわく。
そしていざ始まった講義。内容はもう、本当に本当に素晴らしかった。
さとゆみさんが語る経験、知見、ノウハウ。そのどれもこれもが本当に勉強になった。2時間の講義で、ノート5ページ分、聞いたことを必死に書き留めたし、ブックライターの仕事にも、むくむくと興味が湧いた。
ただ、途中2回ほど、泣きそうになった。
さとゆみさんの仕事に、本に、文章に向き合う姿勢に圧倒されたからだ。
もちろん、私はこんなにもすごい人と比較対象にもならない人間だということはよく分かっている。大丈夫、そこまで自惚れちゃいない。
まぁだから、さとゆみさんのやってきたことや、現時点でやっていることと、今の自分を比べること自体がおこがましいのかもしれない。
だけど、この時は無理だった。
さとゆみさんの話を聞くなかで、今まで自分がしてきたことがどれほど甘かったか、現実を突きつけられた瞬間だった。
インタビュー原稿を書く際に使用する、エクセルの表や見出しシールの活用法はもちろん、さとゆみさんの‟良い原稿を書くための工夫”がとにかくすごかったのだ。
『あぁ、さとゆみさんは原稿を書くよりも前に、ものすごい下準備と思考を重ねているんだな。常に先を見据えて考えて行動をして、それでいてやっと、原稿を書く体勢を整えているんだな』
話を聞いて、資料を見て、まざまざとそう感じた。
著者のために、良い本を作るために、良い仕事をするために、そして、ご自身のために。真っ直ぐに文章や仕事に向き合っているさとゆみさんの姿が、そこにはあった。
仕舞いには、「最初の仕事は全部(企業やクライアントへ)持ち込みだった」と語るさとゆみさんの言葉を聞いて、ズドーンと、脳天を撃ち抜かれた気分になった。
正直、私も全身全霊で、自分の書く文章と向き合っているつもりだ。だけど、今までにももっとできることはあったんじゃないだろうか。
小説だって、今となっては公募への応募作品を書いているけれど、これまでは「サイト上で書いていれば、そのうち出版に繋がるかなー」なんて、淡い期待を抱き、軽い気持ちでやっていた。持ち込みを……と、考えたこともなくはなかったが、実際行動には移してこなかった。シナリオだって、私は原稿を書く前に、さとゆみさんのような120%の下準備をしているだろうか?いや、していない。……というか、こういったことを考える余力があること自体が、すべての答えではないだろうか。
そう悟った瞬間、頭の隅でもう一人の自分が嘲笑いながらこう言った。
「ぬるま湯に浸かってんじゃねーよ」
いやああああ恥ずかしいいいい!!!もう泣いて走って逃げだしたーーいっ!!!!
そうだ。私は口ばかりで、実際はぬるま湯に浸かっていただけなんだ。これまでも、そして今も、もっとできることはあったはずなのに、ずーっとちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷぬるま湯に浸かっていた。やるべきことや、やらなきゃいけないこと以前に、もう少し頑張ればできたはずのことをやってこなかったんだ。
講義の中盤あたりで、そう自覚した途端、泣きそうになった。だからバレないように、ちょっとめそめそしていた。
だけど、さとゆみさんの講義は本当に素晴らしくて、ブックライターや本、そして何より、書くことに対するわくわくした気持ちがよりいっそう大きくなった時間であった。
その後、めそめそした感情を引きずったまま、私はXをぼーっと見ていた。すると、本屋大賞の発表会のポストがたくさん流れてきた。
それを見た瞬間、考えるより先に思ってしまった。
“あぁ、いいな。いつか私も、この場に行きたいな”
そして、確信した。文章を書くことは大好きだし、シナリオライターの仕事は楽しい。本業だって、やりがいがある。講義を聞いて、ブックライターの仕事にも興味が湧いた。
だけどやっぱり、私が書きたいのはストーリーであり、小説だ。私が表現したい感情は、すべて小説というストーリーに込めて、世に出したいのだ。その思いだけは、ブレることがない。
画面の向こうにいる、受賞作家さんたちのキラキラした笑顔を見て、ちょっと泣いた。そんな夜だった。
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