囀る鳥は羽ばたかない 2巻【動き出す人々】

(2021年12月23日)

前回、冒頭で

>「囀る鳥は羽ばたかない」ともうひとつは
>どうにも気になって雑誌も買っちゃうんですね。

となんとなく綴ってアップしたのを読み返して気づいたけど
べつに訳あって伏せたわけじゃないのに
奇妙に意味深になってしまった。
雑誌を買っちゃうもうひとつの漫画は
「HUNTER×HUNTER」です。
てことは2年以上ジャンプ買ってないことになるな!
なんかもういいよどっかの王国の蠱毒とかー
私のジンに会わせてくれよー

さて
「囀る鳥は羽ばたかない」2巻です。

******

真誠会若頭で真誠興業の社長である矢代は、
ドMで変態、そして淫乱だ。
元警察官で付き人兼用心棒の百目鬼は、
矢代を綺麗と言ってはばからず、心酔している。
だが、矢代が昔から想いを寄せる影山と、
その恋人久我の存在を知ると
次第に百目鬼の矢代への想いも変化し、それを自覚していく。
そんなとき、矢代が何者かに狙われる。

(作品紹介)

******

「囀る鳥は羽ばたかない」2巻の私的ネタバレ覚書
全体通して「囀る」って無駄なコマなどなく
全部大事と言えば大事なんだけど特にこの2巻はホント、
ストーリーもガンガン動き
登場人物の心情も揺れ動きまくり
さらには矢代(とその周辺)の過去まで語られる。

いっそ私の偏った意見なんかすべてすっ飛ばして
淡々とストーリーを追ってまとめてしまおうかと
思ったり思わなかったり思いとどまったり
そのくらい2巻は濃ゆいです。

なんていうかそのー、
「濃ゆいとは」
という話になると
BL的にもっと濃厚な話はほかの巻だったりします。
BL的に…それもまた人それぞれなんだけども。

これはたぶん今後も繰り返し言うだろうけど
この話の登場人物で今のところ、
はっきりきっぱりゲイの男っていない
んですよね。

矢代は最初から明言してる、ホモではないと。
この人ふだんからモノローグに至るまで
ちょいちょいウソつくけどこれはおそらくホント。
影山が初恋の相手だったり、
百目鬼がどストライクと言ったりしてるけど
どちらも「男だから」惹かれたのではない。
好きになった人間が男だった。
(とはいえ潜在的にゲイかもということはありえるけど。
 無自覚であるうちはとりあえずゲイではないという判断で)
百目鬼も過去につきあっていたのは女性。
影山も久我もそう。

矢代は男相手にセックスをするけどそこに色恋的な感情は一切なかった。
むしろ男から恋愛感情を持たれることに強い嫌悪感を抱く。
百目鬼には惹かれているけどはっきり自覚していない。

百目鬼は矢代を綺麗な人だとは思っていたけど
噂とは違って優しくて性根も綺麗な人と気づいてから急激に惹かれていった、でも
それが恋愛感情とは気づいていない。

そんなふたりの気持ちが揺らいで動き出す2巻なんですよね。

※毎度冒頭のお約束:以下がっつりネタバレ含みます。
 登場人物の心情とかストーリー解釈とかは
 あくまで個人の見解です。

******

百目鬼が警察官だったことが分かった1巻
(先の覚書で全く触れませんでしたけども)
矢代がなんらかの手を使ってモノホンの警察官の制服を入手、
百目鬼に着せて警官プレイ。

部下の七原が松原組の下っ端ともめて怪我をして
運び込まれた影山の病院に行く矢代・百目鬼・杉本。
そこで百目鬼は初めて影山に会う。

矢代と影山の物理的・精神的距離の絶妙な近さ、
高校生のノリのような軽口。
軽口だけど甘えた物言いの矢代、
突き放しているようで受け入れて許している影山。

「俺を泣かせてばっかりでよ」

さらっと冗談ぽく言ってるけど珍しく本音。
涙なんか誰にも、当然影山にも見せたことはないけれど。

病院を出て帰る車内の矢代。
視線を落とし、愁いを帯びた顔が美しく物悲しい。

その様子をバックミラー越しに黙って見つめる百目鬼。

矢代のベッドでシャクられながら百目鬼は
「たったひとり惚れた人間」は影山ですよねと言って
矢代を怒らせる。
…や、怒ってはいないんだけど。

矢代が百目鬼の「不意打ち」を対処できなかった。
人の言葉…悪意も詮索も飄々とかわせる矢代が。
影山本人にも気づかせることなく隠し通してきた心の奥を
よりによって百目鬼に言い当てられた。
百目鬼は怒らせたと思ったけどそうじゃない。
動揺しすぎて自分を取り繕えず、その場から逃げたのよ。

翌朝、廊下で座ったまま寝ている百目鬼にキスする矢代。
あー、キスかどうかはここではっきり描かれていないけど。
まあキスよね。みたいなね。寝てる百目鬼にね。

百目鬼に虎柄のトレーナー着せて大笑いしたり
百目鬼の携帯のメールを膝枕で見たり
なんでしょうこの和やかでおだやかないちゃいちゃ
矢代ノーパンだけど。
で、話の流れで初体験を語る羽目になった百目鬼。
(ちなみに過去におつきあいしたのは高2のころ、ふたり)
びっくりですよ中1ですってよ。しかも相手は保健医。
おねいさんに誘惑されてってやつですね。
話を聞きながら自分のものをいじりだす矢代、語りながらその姿を見る百目鬼。
話を促す矢代が妖艶でなあ…途中で「忘れた」と言って中断したのは
そんな矢代の姿に思わず百目鬼の百目鬼が目を覚ましそうになったから。

自分が矢代のそばにいられるのは
勃たないからと百目鬼は思ってる。
ほかの男同様、ふつうに勃ってしまったら
そばにいられないどころか捨てられると思ってる。
そういう話を以前七原から聞いてるしね。
矢代のそばにいるためには、勃たない自分でいなければならない。

七原ともめた件で乗り込んできた松原組の組長・竜崎を
さらさらとかわして逆に弱みを握っていることをちらつかせ、
ついでに誘う矢代。
しながら百目鬼の初体験を妄想してること竜崎が知ったら泣いちゃうわー。

竜崎と矢代が昔、ヤリまくった仲であること。
矢代が惚れた相手とは過去に一度もしたことがないこと。


矢代に関する割と重要な情報を仕入れてしまった百目鬼。
その夜七原の付き添いで影山の病院に行った際
前職を彷彿とさせる鋭い眼で影山を、そして
久我を見つめる。

「頭は優しくて強くて綺麗な人です」

矢代に対して悪態をつく久我に語った百目鬼の矢代に対する気持ちを
げらげら笑った後、本気に気づいて謝罪した久我は案外いい子。
その後バーで影山・久我・百目鬼で飲食しているところに
矢代から電話が。
電話口から聞こえる楽しげな声に嫉妬する矢代かわいい。
そして場所を割り出してそっこー乗り込む矢代かわいい。

矢代が乗り込む前に百目鬼は影山にソフト尋問していた。
影山のこと、高校時代の矢代、影山が矢代をどう思っているか。
百目鬼が矢代のことを良く言ってくれたからか
影山先生矢代について語りまくります
あらためて影山の矢代に対する思いを鑑みると
親友であり、腐れ縁であり、一線を引きたい気持ちも多少あり、でも
おそらくこれからもずっとこんな感じであり、というのがうかがえて
まーもちろんそこに矢代が影山に抱く感情のようなものはないんだけど
なかなかしっかりした絆は感じられるわけですね。

乗り込んできた矢代が無意識ながら久我を警戒して牽制、
それをもしかしたら百目鬼は矢代が
「影山の彼氏の久我」をライバル視してるように思ったかもしれない。
違うよね。あれはヤキモチ。だけどそこに影山は関係していない。
電話で聞こえた百目鬼と久我のやり取り。
影山はまあいい(自分でけしかけたわけだしね!)、でも
久我が百目鬼と仲良くなるのはイヤなのよね!

竜崎が帰った後百目鬼に「文句があるなら言えよ、ムカついた顔して」
と言ったらムカついてません、怒る理由もないしと返され
ほんのり傷ついていた矢代としては
百目鬼に久我が接近するのは何とも言い難くイヤなのよね。
(そう、竜崎とのこと、ムカついてほしかったのねーもー)

そのあとふたりで映画館デート。ピンク映画だけど。
この、車から降りて映画館に歩いていく間の百目鬼のモノローグがとてもとてもいいんですよ。
ああ、百目鬼って今までつきあった女の子はいても、好きになったことってなかったんだな、と思わせる心の揺れ。

映画の女優を矢代に差し替えて妄想してると
矢代に尺らせてと言われ、ものすごく悩んだ末断る百目鬼。
まあ…その流れで尺られたら…勃つかもね…
勃ったらおしまいだと思ってる百目鬼、断られて傷つく矢代。
いやもう、傷つきまくりだよ繊細だなホントに;
その辺の奴のをシャクってくる、と言って席を立ち、
うなだれて凹む百目鬼に缶ジュース(レモンスカッシュ)を買って戻ってくる。
先に飲んでる矢代を見て、口の中の味を妄想する
→ それってキスよね百目鬼ぃ!
そのあと百目鬼の肩にもたれて眠る矢代が安心しきってて尊い。

――これがふたりの、最後の穏やかな時間。

朝になり、映画館を出たところで矢代が撃たれる。右腕・右脇腹・左肩、計3発。
百目鬼が矢代のそばを離れたほんのわずかな時間。

うまいこと急所も内臓も避けており、命に別状はなかったけど
七原にぼこぼこにされた百目鬼は言われるまま左の小指を落とす
ちゃんとした詰め方も知らない、その後指を病院で付けることもしない。
内科医・影山に応急処置をしてもらって謝罪する姿が小さくて悲しい。

七原はこれを機に百目鬼を堅気に戻すつもりだったのかな。
堅気にっつっても百目鬼はまだ見習いであって盃もかわしてないんだけど。
指詰めろ、イヤなら辞めちまえ、もうここには来るな。
でも百目鬼はためらわず指を詰めてしまった。

指を失うのは怖くない。
自分が悪い、頭を守れなかった自分が。自分のせいで頭が。
怖いのは――頭を、矢代を失うこと。そばにいられなくなること。
矢代を守れなかった自分への戒め。

そんな七原は真誠会の組長・平田に「犯人は竜崎」と吹き込まれる。

七原に呼び出された百目鬼は矢代を託され、
矢代の病室を訪れて泣く。

映画館への道すがら、
百目鬼は矢代への感情を自覚し始めていた。
影山への嫉妬、
矢代に対する様々なもやもや、
それはだよ百目鬼。

救急車の中で震える百目鬼をぼんやり目にしながら
矢代はフラッシュバックに打ちのめされていた。
義父からの性的虐待。助けてくれなかった母親。
受け入れてもらえない恋心。

人間を好きになる孤独を知った
それが“男”だという絶望も知った
俺は もう充分知った


↑これ。
私はこの独白にやられましてね。
ああ、うん、わかる。わかるよ。だって。
みたいなね。うっかり共鳴してしまったんですよね。

矢代を襲撃した相手がわからないという平田を殴り
秘書の天羽にたしなめられた三角が過去を回想する。
松原組のチンピラにまわされていた矢代(19)を
なぜかぼっこぼこにしたうえでなぜか気に入って連れ帰り、
見習いみたいなことをさせていた。

組員相手に手あたり次第の勢いでヤリまくり、
いつでもどこでもだれとでもと思わせておきながら
本気の好意を寄せてきた男はイヤな手を使って排除する。
それはその後も変わりない(七原証言:マジ惚れした組員は切り捨てる)

矢代は住んでたアパートを勝手に引き払われ、勝手に借金も背負わされた。
部屋に戻って、影山のコンタクトケースだけ取り戻した矢代は
その後、組が影山の家の土地を狙ってることを知る。
三角に土下座して手を引くように懇願し、
結局その流れでなる気もなかったヤクザになってしまった。
ヤクザになったのは実は影山を守るためだった。
影山はそれを知らない。

姿を見せなくなった矢代が三角の真誠会に入ったことを知って
ショックを受ける竜崎。
三角のお気に入り(ついでに天羽も矢代を気に入った様子)
という肩書はいろんな意味ででかい。

そんな過去を、三角と同時に竜崎も思い返していた…

竜崎を探す七原、意味深な独り言をつぶやく竜崎、
あやしい平田、静かに怒りを抑える三角。

七原の惚れるかふつう、という言葉を否定せず
うっすら照れて受け入れた百目鬼。

不穏な流れ、静かな病室。

******

そんなわけでこの2巻は

あやういバランスながら少しずつ距離を縮めていく矢代と百目鬼
矢代が唯一惚れた人間・影山に向けられる百目鬼の
恐るべき観察眼とプロの尋問
「あ、そういえば矢代ってヤクザだったんだっけ」と思い知らされる襲撃
矢代の根底に淀む諦念
目覚めて揺れる百目鬼の恋心
竜崎と三角を絡めた矢代の過去


事態は急展開!

自分の体をめちゃくちゃ粗末に扱って
大事なものも欲しいものもなさそうな矢代の
唯一大事なものとして再登場した影山のコンタクトケース。
なんかもうホント、好きだったんだなあ…

影山への気持ちを気づかれて動揺したり
惚れた相手と寝たことがないと三角に指摘されそれを百目鬼に聞かれて
言葉に詰まったり
撃たれて死ぬかも、と思ったときに上記の悲惨な過去ばかり思い出され
いいことのひとつやふたつあるのに、と影山に言いながら
思い浮かんだ「いいこと」が百目鬼の姿だったり
矢代の変化ももりだくさん。

自分に向けられる好意に嫌悪感をおぼえ吐き気すらもよおす矢代と
矢代への好意に気づいたけど矢代にそれを気づかれたくない百目鬼


読み込むほどに感情揺さぶられる、そんな2巻です。

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