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太陽に焼かれて殺されたダニの香りの芳香剤を売れ 第19話 りんごは血の味

いつものようにPCを拭いてて布の上に黒い点を発見した俺は、対象が小さかったためスプレーで対処しようと考えた。しかし、そのあと布を洗う必要性に気づき、時間的な制約から新しい雑巾を買おうとした。

職業体験の厳しい締め切りや品質への要求に応えるため、自己の行動を逆算して計画的に動かないといけない。計画を怠ると、締め切りに追われパニックに陥り、最悪の場合精神的な破壊に繋がる可能性があると考える。

この虫だが結果から言えば瀕死だったみたいだった。意を決して上から二重ぐらいにしたティッシュを被せると、特になんの動きもみられなかった。

「『動き』を手の中で感じれるほど虫への耐久があんのね」
「そういえば、暴れられたらどうしよみたいなこと考えてなかったな」
「……危なかったな」

被せた手をそっと外し中を伺うと、よろよろとその虫が歩こうとしているように見えた。どうやら弱っていながら危機を感じ、逃げようとするのだろう。俺はティッシュを置き、布ごと持ち出して窓を開け、校庭を見た。その中に浅荷がいるかどうか考えたりはしなかった……だろう。

「あたしは体育館にしかいないんじゃないの」
「外走ったりしないの」
「ああ~~~~~~~~~~~~~~~、気分」

窓の下になにがあるかなんて普段考えないから、そこそこ虫にとって恵まれた環境があんだろ、と思っていたがその認識は”甘”だった。コンクリが広がってい、もう少し左右に振れないと花壇的な物は見当たらなかった。

虫を見ると蟋蟀のようだった。幼体であり、産卵管を持っている。この歳から産卵管を持たなければならないとは、虫も重い運命を背負っている。産卵管は体躯の中央から下に突き抜ける感じで体から伸びている。万が一、外敵に食われたら再生するのだろうか。

「虫の性別を気にするのね」
「た、たまたま見えただけだから……」

産卵管を持ち、将来の蟋蟀の繁栄を使命として身に持ちながら生まれたその虫を俺はどうすべきなのだろうか。別に繁栄の使命を負っているのは女だけではないのだが……。

「あんたは繁栄の使命を背負ってるの」
「ない」

布を向こうに揺らすと、虫が落ちていった。

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中村風景
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