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太陽に焼かれて殺されたダニの香りの芳香剤を売れ 第23.5話
俺は浅荷の言葉に戸惑いながら、少し心が軽くなるのを感じた。浅荷が俺をそういうふうに見てくれていたとは思わなかった。いつも俺は自分のことを未熟で、器用ではない(自分を指して「不器用です」、という言い方は何かこう昭和文化のせいでネガティブな成分ではなくなってしまった感があり、自分で自分のことを不器用と評すことで、暗に「そんなことないですよ」という相手からのフォローを求めている手段にしか見えなくて、とても自分からは言えない)、うまく人と接することができない奴だと思っていたから。
「ありがとう……でも、好かれるって言われると、なんか不思議な感じだな。そんなに俺って好かれるタイプじゃないだろ」
「いや、意外とそうでもないと思うよ。あたしは結構、あんたのこと気に入ってるし」
浅荷はさらりと言ったが、その言葉に俺は一瞬固まった。気に入ってる?どういう意味なんだろう。
「それに、自分にそういう過小評価するのは『処世術』だろ。『生存戦略』?大げさか。だってあんたはあたしらみたいな年頃の連中じゃなくて、ネット越しでもそいう大人達と、いうなれば渡り合ってんじゃん。自分を『足りてない』と思うことは防衛本能として良いことなんじゃないの。あたしだったらたぶん思いつかないだろうけど、思いついたらやるんじゃないかな」
俺は友達として好かれているのか、それとも何か別の意味があるのか、浅荷の真意が掴めなかった。
「えっと、それって……どういう意味?」
浅荷は、少し驚いたように俺を見つめたが、すぐに照れたように笑った。
「うーん、あんたの働き方を見たわけじゃないから偉そうなことは言えんけど、あんたの言葉の端々から勝手に想像すると……とにかく高校生の分際で企業を相手にしないといけないから、『そもそも俺は本来こんなとこにいられないんだ』『相応しくないんだ』『分相応じゃないんだ』みたいな警告を常に自分に発していると。その理由は、経験が明らかに足りてないのに、たまたまなんかうまく行ったりしてしまったら必ず『あ、これでええんや』と慢心してしまうだろうから、それを防ぐため。ストッパーだな」
「高校生の分際はもちろんそうだけど、俺は関西弁じゃないけど」
「で、」
浅荷はこういう意図的な無視をよくすると思うけど、もはやそうされないと落ち着かないまであるような気がした。
「で、かといって分相応なことばっかやってたってそんなの相手に喜ばれるわけないだろ。だから作業面では相応を越えたなんらかをあんたはやりまくんないといけないわけだ。で、『相応の越え』が上手くいったから、そしてそれを相手が認めたから金をもらえる。でもここで『なーんだ、楽勝じゃん』とか思ったら終わりだろうなっては想像するよね」
浅荷は的確だった。
「あとなんか、あんたといると安心するんだよね。だから、一緒にいるのが心地いいっていう感じかな」
ん?
浅荷の言葉は真っ直ぐだった。彼女が普段あまり見せない一面が垣間見えた気がした。それは素直さというものなのだろうか?俺にはわからない。俺は浅荷ではないからわからないのだろう。だったら永遠にわからなくてもいいことでもある。わからないほうがいいことである。多分……
だから俺はその率直さというか、急に俺個人に好意を向けてもらったことに一瞬で赤面してしまった。赤面してるかどうかわからんが、両耳が恐ろしく熱い。なんか冬に勉強してる時みたいだ。
この、必要以上に心臓なり大動脈たちが、耳に異様に熱い血を送ってる感覚が伝わるだろうか?身体が暖かくなるのは熱い血が流れてくるからだと俺は思っているんだけど、身体を右か左かから循環してきたそいつらが、必要ないのにやたら耳の毛細血管に入り込んで俺の耳だけを異様に温める。本当に耳が冷たくて寒い時はそんなことしないのに、なんかしら身体にとって異常なことなんだろうが、脳が錯覚してそのような措置を取らないといけないと思っているんだろう……
それでも何か勇気を振り絞って伝え返さないと、このままでは失礼な気がする。単に返事をしないことは失礼だと思えてしまう。
「いつも助けられてる気がする」
「助けてるつもりはないけどね。でも、あんたがそう感じてるなら、それでいいかな」
浅荷は微笑んで、また肩を軽く叩いた。その仕草がとても自然で、俺はさらに心が穏やかになるのを感じた。浅荷とこうして向き合って話すのが、こんなに楽しいことだとは今まで気づいていなかった。
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