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太陽に焼かれて殺されたダニの香りの芳香剤を売れ 第39.5話 愛する無添加

恐ろしく面倒な……というか、俺だけに降り掛かった苦労や危険を乗り越え、元の場所に戻った時、そのすべてに感謝してしまうことはないだろうか?

いわばそれが心理的な安全基地を再認識することだったのかもしれないが、じゃあ例えば俺やあなたが悪辣な上司に悪辣な命令を受け、いつ終わるかもわからないその地獄を乗り越えて家に帰り、SNSを開き(俺はSNSをいじらないので想像だ)、いつもの面子がアホみたいに馬鹿な書き込みを連発してたとして、その存在に感謝したりするんじゃないだろうか。

だって俺があんなにいつ終わるかもわからぬ悲惨な目に遭ってるんだから、世界中もそうなんじゃないか、みんなこんないつ終わるともわからない責め苦を味わっているんじゃなかろうか、この世はいつ終わるかもわからない闇に包まれて仕舞ったんじゃないかと思いきや、俺が知っている、かつての俺が覚えている場所は変わらずにそこにあったとする。

つまりそこにいる彼女ら彼らが変わらずに「俺の場所」を護ってくれていたことに感謝するというものだ。

悲しいかな、彼女ら彼らはそんなつもりは毛頭ない。あまりにも悲しいというか哀れなことだ。こちらの「俺の場所」などというものは幻想に過ぎないなんて。

だからその場に、変わらずとんでもない「目立ちたいがためのしもの話」だの「誰か、鼻につく目立ち方をしてる奴を一定の基準でぶっ叩き、その名声というか立ち位置を地に落としてやろうとするだけの嫌がらせ」みたいなものが俺やあなたのSNSに書き込まれてたりして、そんなことに対して感謝を伝えたとて不気味がられて終わりだろう。こんなに悲しい擦れ違いがあるだろうか?

俺が今こうして暗闇を歩いて、モールの出口のドアを探そうとする行為とはこれに近い気がしたわけだ。そもそもなぜ俺はSNSで他者を痛めつけようとしてるような連中に感謝なんてしないといけないのだ……俺自身の意識が暗闇に飲み込まれてしまい、もはや混濁し始めてしまっているのだろうか。

音もなければかたちもない。このような場所にいたのでは5億年時間が止められてしまったような生命体と変わらないのだろうか。かつて実験の失敗に巻き込まれ、自分の体が果てしなく分解されているのに自分の意識も生命も永久に続いている状態になってしまった博士の話を読んだことがある。いずれ俺もそうなってしまうのだろうか。

「おい!!」

その時、どこにあるのかもわからなかったドアが開いて浅荷の声が聞こえた。

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中村風景
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